第207回:最果タヒさん

作家の読書道 第207回:最果タヒさん

学生時代に詩人としてデビューを果たし、今は詩だけでなくエッセイ、小説などフィールドを広げて活動している最果タヒさん。詩集『夜空はいつでも最高密度の青色だ』が映画化されるなど常に注目され、とりわけ若い世代から圧倒的な支持を得るその感性と言葉のセンスの背景に、どんな本との出合いや創作のきっかけがあったのでしょうか。

その6「最近の読書と執筆」 (6/6)

  • それでも町は廻っている 1 (ヤングキングコミックス)
  • 『それでも町は廻っている 1 (ヤングキングコミックス)』
    石黒 正数
    少年画報社
    576円(税込)
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  • BEASTARS 1 (少年チャンピオン・コミックス)
  • 『BEASTARS 1 (少年チャンピオン・コミックス)』
    板垣巴留
    秋田書店
    463円(税込)
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――ここ最近の読書はいかがですか。

最果:小説を書くようになった頃、「長い詩みたいで読めない」と編集さんに言われ、お話を伝えるための文章を入れなきゃいけないのがしんどい、と思う時期に町田康さんの『湖畔の愛』を読んだら、それがめちゃくちゃ、めちゃくちゃ面白かった。もう、吉本新喜劇なんですよ。やっぱり関西の子供って、土曜日は学校から帰ってきて昼ご飯を食べながら吉本新喜劇を見るのが習慣なので、あの話術とノリと勢いは刷り込まれているんです。それが、文学になっちゃったっていう感覚。書かれている内容も面白かったんですけれど、それをすっ飛ばして、「言葉だけでこんなに奥に来んの」っていうのが、改めてすごくショックでした。描かれた心情に共感するとか心を動かされるというよりも、遺伝子レベルで無意識のところに言葉が到達することってあるんだなって、その時思ったんです。読んでいると、感覚よりも体のほうが先に共鳴している感じがして、それがすごく面白くて、やっぱり言葉ってこうだよねって思ったのが、ここ最近一番大きかった出合いかなと思います。
漫画は、石黒正数さんの『それでも町は廻っている』を何度も何度もずーっと読んでいます。細かいところまで本当に「プロだ!」と思わされる。物語の隅々にまで血が通っていて、その細やかさによって生まれる、軽やかな楽しさがたまりません。ある町を舞台に描いているのですが、町って人が作るもので、人によって血が通っていくものだと思います。この漫画はまさにそういうふうに作られていて、だから町がただの物語の「舞台」ではなくて、大きな主役として存在している。町に遊びにいくように何度も読んで楽しんでいます。他も、読み直すことが多いです。萩尾望都さんの漫画を読み直して「え、こんなヤバイこと書いてあったんだ」みたいに、後々分かるということがすごく多くて。萩尾さんだと『トーマの心臓』が好きです。あと、益田ミリさんの作品も、どんどんしみてくる。読むたびにしみてきて、最高です。連載中だと板垣巴留さんの『BEASTARS』は、新刊を読むたびに、歴史的名作が生まれる瞬間に、今、私は立ち会っているのでは?と思わずにはいられないです。
大人になってから急にしみこんでくる作品ってあって、たとえば高橋留美子さんの『めぞん一刻』とか。子供の頃は全然知らなかったし、あんまり興味も持てなかった。でも今読むとすごく、すごくよくて......。そういうものってありますよね。昔興味がなかったものが面白く読めたり、逆に昔好きだったものがそうでもなくなったり。
それこそ谷川俊太郎さんの『はだか』っていう詩集は、大人になってからのほうがすごさがよく分かるようになったというか。「もう今の自分はある程度物事が見えているぞ」という気持ちについなってしまうんですが、『はだか』を読むと何も見えていなかった頃を思い出して、「あ、今もこうやわ」っていう気持ちになる。前は他の詩集のほうが好きだったけれど、『はだか』が好きになったのは大人になってからですね。

――本を読むのはどんなシチュエーションが多いですか。家とか、移動中とか......。

最果:家が多いです。だいたい夜に読み始めるんですけれど、町田さんとかのせいで、寢れなかったことがよくあります(笑)。

――面白すぎて朝まで読んでしまうという(笑)。創作についても教えてください。さきほど手書きはしないとのことでしたが、最近は...。

最果:スマホです。7割スマホですね。家で静かな時間に書くのは無理で、うるさいところがいいんです。ラーメン屋さんに並んでいる時とか、喫茶店でよく書きます。
「さあ、やるぞ」ってなると、詩っぽくやりましょう、みたいなものを書いてしまうので、頭が真っ白にならないとできないんです。できるだけ集中できないようにするとむしろ集中するという習慣があります。没入感がすごくあるので、うるさいところのほうがいいんです。

――詩の推敲はしますか。

最果:私は書いた時の感覚が正解のように感じてしまうので、怖くてあまり変えられないんです。昔よりはだいぶマシになりましたが。昔は、なんとなくバーンと作って、勘で「なんか分かないけど、いい!」「悪い!」ぐらいしか判断できなかった (笑)。今は、ある程度時間を置くと他人の感覚で読めるようになるから、すこしは手が入れられるようになりました。

――スマホだと、フォントやデザインの工夫ってそんなにできないですよね。でも最果さんの詩集は昨年刊行された『天国と、とてつもない暇』をはじめ、いつもデザインがとても素敵ですよね。あれは?

最果:フォントはデザイナーさん任せです。改行位置は私が決めていますけれど、それは書き終わってから決めるので、書いている時はだいたい横書きでワーッと。そこから、人が読む時にいちばん自分が書いているリズムに近くなるようにと考えて、縦書きにするか、横書きにするかを決めて、改行位置を決めて。あとはデザイナーさんに任せます。

――さて、今後のご予定は。

最果:夏に新しい詩集が、リトルモアさんから出る予定です。それと小学館の「きらら」で連載していた小説も、本になる予定です。結構手直しをしようと思っているので、ちょっと時間がかかってしまっていますが......。がんばります。

(了)

  • めぞん一刻 1 (ビッグコミックス)
  • 『めぞん一刻 1 (ビッグコミックス)』
    高橋 留美子
    小学館
    566円(税込)
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