作家の読書道 第209回:吉川トリコさん

2004年に「ねむりひめ」で第3回「女による女のためのR-18文学賞」で大賞と読者賞を受賞した吉川トリコさん。以来、映像化された『グッモーエビアン!』や、あの歴史上の女性の本音を軽快な語り口で綴る『マリー・アントワネットの日記』、そして新作『女優の娘』など、女性、少女を主なモチーフにさまざまな小説を発表。その作風に繋がる読書遍歴を語ってくださいました。

その1「残酷なお話&少女漫画」 (1/7)

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――いちばん古い読書の記憶を教えてください。

吉川:小学館から出ている世界名作童話全集の『ほうせきひめ』というのがものすごく好きでそればかり見てたので、その記憶しかないんですよね。外国の絵で、ちょっと他の絵本と違っていたんですね。外国で出ているものをそのまま持ってきたという感じでした。中に入っているのが「ほうせきひめ」と「ろばのかわ」と「おやゆびこぞう」だったかな。全部、内容がちょっと怖いんです。「ほうせきひめ」は最後に意地悪なお姉さんが口から蛇やカエルを出して、その蛇に噛まれて死んじゃうし、「ろばのかわ」はろばの皮を剥いで着るという話だし、「おやゆびこぞう」は人喰い鬼に食べられそうになった兄弟が、機転を利かせて帽子と冠を取り替えて鬼が間違えて自分の子どもを食べちゃうような話。

――ああ、昔話って実際は結構残酷だったりしますよね。広まるうちにマイルドになったりするけれど。

吉川:そう、すごく残酷で。それがすごく好きだったんですよね。それが小学校に入る前くらいだったと思いますが、大人になってからどうしても欲しくて、探して買い直しました。

――小さい頃は、活発に外で遊ぶほうでしたか、それとも家でそういう絵本とかを見るのが好きでしたか。

吉川:本を見ている本が好きで、ずっとインドアだったと思います。その絵本のほかに、ピーターラビットも買い与えられたんだけど、最初の1巻が一番残酷だから、そればかり見ていました。しっぽがちぎれていたり、ネズミが猫をパイにしようとするところとか。

――小学校に入ってからは。

吉川:少女漫画ばっかり読んでいた気がします。家がリサイクルショップをやっていたので、里中満智子さんとか、大和和紀さんの『ヨコハマ物語』とかがお店に並んでいて、それを読み始めたのがきっかけです。

――じゃあ、少女漫画誌を買ったりは...。

吉川:私、「りぼん」とか「なかよし」はデビューが遅くて、小学校5年生で読みだしたんです。母親から漫画を買っていいという許可をもらったのがその頃だったのかな。友達の影響だったかもしれません。それまでは、小学館の「小学一年生」とか「小学二年生」とかを、4年生くらいまで読んでいたんですよ。あそこに載っていたのが上原きみこさんの「ハーイ!まりちゃん」というバレエ漫画とか、女の子がアイドルになる漫画とか。2つ下の妹も「小学〇年生」を買っていたんですが、上原きみこさんの違うバレエ漫画が載っていたので、どっちも楽しみに読んでいました。

――では、自分で真似して漫画を描いたりとかは。

吉川:漫画、描いていました。よく分からない、「たこ焼きマン」っていう(笑)。最初はギャグ漫画のつもりでたこ焼きマンにされてしまった男の話を描いていたんですけれど、だんだん「たこ焼きマンには実は悲しい過去があって」って、シリアスストーリーになっていきました。ノートに連載してクラスの子に読ませていたんですけれど、みんな「え、どういうこと」って言って引いていました(笑)。あれどうしちゃったかな。家には残ってないですね。

――ところで小さい頃、漫画は親の許可が出てなかったということは、テレビなどもいろいろ禁止がありましたか。

吉川:ドリフは見ていなかった。「加トちゃんケンちゃんごきげんテレビ」からオーケーになりました。そういうバラエティ番組もすごく好きでした。今、連載で女芸人の話を書いているんですけれど、私、本当にテレビが好きだったんだなって実感している最中です。「まんが日本昔ばなし」も好きでしたし、女子が好きそうなアニメはなんでも。一番衝撃だったのは、「ジョージィ!」。『キャンディ・キャンディ』のいがらしゆみこさんが原作で、アニメは「レディジョージィ」というタイトルで。アニメだけど、セックスシーンがあるんですよ。裸で男女が抱き合って、大事な部分はシーツに隠れていて...。でも胸は出ていたと思う。

――え、アニメで?

吉川:アニメです。土曜か日曜の朝に放送されていたんですけれど、それを見た瞬間、雷に打たれたようになってしまって、すぐに原作を買いました(笑)。主人公の女の子が、3人の男を渡り歩く話で、3巻くらいしかないんですけれど。これも大人になって買い直しました。

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