第220回:辻堂ゆめさん

作家の読書道 第220回:辻堂ゆめさん

大学在学中の2014年に『いなくなった私へ』(応募時「夢のトビラは泉の中に」を改題)で『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞してデビュー、若手ミステリー作家として注目される辻堂ゆめさん。小さい頃からお話を作っていた彼女をミステリーに目覚めさせた1冊の本とは? アメリカで過ごした10代前半、兼業作家となった後に取得した免許など、読書遍歴はもちろん、今の彼女を形作るあれこれをうかがいました。

その5「好きな作家、好きな作品」 (5/7)

  • 明日の記憶 (光文社文庫)
  • 『明日の記憶 (光文社文庫)』
    荻原 浩
    光文社
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  • 冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)
  • 『冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)』
    辻村 深月
    講談社
    935円(税込)
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  • 容疑者Xの献身 (文春文庫)
  • 『容疑者Xの献身 (文春文庫)』
    東野 圭吾
    文藝春秋
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――受賞の連絡がきたのは、就職活動を終えた後だったのですか。卒業後、就職されていますよね。

辻堂:就活が終わった後での受賞でした。もう内定をいただいていたので、「このミス」の選考委員の方からも、最終選考で「この子受賞させちゃっても、もう内定とってるんじゃないか。大丈夫か」「でもとりあえず受賞させてみるか」みたいな話になったと言われた記憶があります(笑)。
 受賞の連絡の時も「内定は絶対に蹴らないで、就職してくださいね」って言われて。それで、内定をもらっていた会社にも打診して、基本的には副業は駄目になっていたと思うんですが特別に許可してもらって、二足の草鞋でやっていくことになりました。

――新入社員と新人作家、同時になったわけですよね。慣れないことも多いし、大変ではなかったですか。

辻堂:覚悟を決めないとできないなとは思いました。高2からの2年間勉強に集中した時みたいな感じですけれど、社会人になった4月1日から2作目の執筆を始めようと決めて、入社式の後、家に帰ってから2作目の第一行目を書き始めました。同時に始めて、会社だけに集中する社会人生活を経験しないことによって自分を追い込む、みたいなことをやっていました。

――じゃあ、本を読む時間というのは取りづらかったですか。

辻堂:なかなか難しかったけれど、それでも大学生の時よりは読んでいました。作家になったのに、このままのインプットじゃ高校1年生以前の読書の記憶に頼っている部分が大きくて、それはまずいからやっぱり本を読まなきゃと思って。意識的に読むようになりました。
 やっぱりミステリーが多かったですね。過去の「このミス」とかのランキングでトップにきていたもので気になる作品を読んでみたり、義理立てじゃないですけれど、このミス大賞を過去に受賞されている方の本をバーッと読んでいったりして。過去の受賞者の方々には実際にお会いする機会もあるので、まずおひとり1冊ずつ読んで、その後に大学の時の続きで東野さんや辻村さんも読みましたし。ミステリー以外では、これは今でもですが、一番好きな作家さんが荻原浩さんなので、荻原さんの本を読んだりとか。
 さきほど中学生の時に荻原さんの『僕たちの戦争』を読んだと話しましたが、「あの本、すごく良かったよな」ってずっと頭に残っていて。高校の時は「荻原さんの本読みたいな」と思いながら受験勉強に集中して、大学も読書量が減っていたりしていましたが、社会人になって唐突に「そうだ、荻原さんの他の本を読まなきゃ」って思って読み始めたら、どの本も面白くて激はまりしてしまって、そこから荻原さんの本制覇みたいな感じで全作読んで。その時点で40冊くらいあったと思います。

――荻原浩さんはすごく作風が幅広いというか、ユーモラスなものからシリアスなものまで、設定も含めてなんでもありますよね。

辻堂:はい、もう本当に。私が一番最初に読んだ『僕たちの戦争』が、戦争を舞台にしつつも、戦争時代に生きて徴兵された人と現代のサーファーが入れ替わっちゃうみたいな話なので、ちょっとSFもありつつ、真剣なシーンもありつつ、現代にきちゃった昔の人がいろんなことにびっくりするユーモラスなシーンもありつつで、荻原さんのいろんなところが詰まっていたんですよね。それもあって記憶に残っていたんですけれど。その本にはまったからこそ、荻原さんのシリアスなものもユーモラスなものも、どれを読んでも自分にはぴったりはまってどれもすごく面白くて。のめり込むように読みました。

――『僕たちの戦争』以外に何か挙げるとしたら、何になりますか。

辻堂:一番好きなのはやっぱり、『明日の記憶』ですかね。若年性アルツハイマーのお話で、泣いてしまって大変でした。あとは、『二千七百の夏と冬』とか。縄文から弥生時代の過渡期を舞台にしていて、まさかそんな時代の本を出すとは、って。しかもそれが縄文人と弥生人の恋愛みたいなものがテーマになっているので、お互いの部族というか、仲間からは受け入れられない恋愛で。あっちはコメとかいうよく分からないものを作っているとか、あっちは野蛮な狩猟民族だ、というなかで男女が出会って、追われるように駆け落ちしてくみたいな話で、壮大な恋愛ものだなと思って。「恋愛もの」とは言われていないかもしれませんが、私はそう思って読みました。すごくお薦めです。

――東野さんと辻村さんも、選ぶのは難しいかもしれないけれど、好きな作品を挙げていただいてもいいですか。

辻堂:ああ、辻村さんはもう、デビュー作の『冷たい校舎の時は止まる』です。大学生になってすぐ読んだので、主人公の高校生たちの気持ちがすごく分かる時期で、出てくる高校生たち一人一人のエピソードがいちいち胸に突き刺さりました。特殊設定も大好きでしたし。確かあの分厚い本を徹夜して一気に読んだ記憶がありますね。

――え、あれはノベルスでも上下2冊ありますよね。

辻堂:そうです。でも前日の夜から読み始めて、朝の5時か6時くらいに読み終わった記憶があります。東野さんの好きな作品は、まあ「そうだよね」って感じなんですけど、『容疑者Xの献身』ですね。ひとつ挙げるとしたらそれになるかなと思います。

――謎解きも面白いけれど泣きますよね、あれは...。

辻堂:そうですね。やっぱり心動かされるような話が好きなので、ミステリーだけじゃなく人間ドラマが心に迫る本が心に残っています。

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