第220回:辻堂ゆめさん

作家の読書道 第220回:辻堂ゆめさん

大学在学中の2014年に『いなくなった私へ』(応募時「夢のトビラは泉の中に」を改題)で『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞を受賞してデビュー、若手ミステリー作家として注目される辻堂ゆめさん。小さい頃からお話を作っていた彼女をミステリーに目覚めさせた1冊の本とは? アメリカで過ごした10代前半、兼業作家となった後に取得した免許など、読書遍歴はもちろん、今の彼女を形作るあれこれをうかがいました。

その6「兼業中に始めた通信教育」 (6/7)

  • あなたのいない記憶 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)
  • 『あなたのいない記憶 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)』
    辻堂 ゆめ
    宝島社
    715円(税込)
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――辻堂さんは、読むのも書くのも早いほうですか。

辻堂:読むのは人並みかもしれないですけれど、書くのは早いかもしれないです。ふふ。

――1年に何冊も刊行されていますよね。題材はトリック的なところからいくのか、人間ドラマのところから考えるのか、どうでしょう。いろいろだとは思いますが。

辻堂:あまりトリックからいくことはないかもしれないです。やっぱり人間ドラマが好きなので、トリックというより設定とか、冒頭のインパクトあるシーンだけ思いつくとか、そういうところが多いですね。あとはテーマとか。たとえば3作目の『あなたのいない記憶』は虚偽記憶をテーマにしていますが、それは人の記憶が簡単に変わるという心理学的現象があると知って、「それで1冊ミステリーを書いてみたいな」と思ったところから始まっています。そんなふうにモチーフとするものから始めることもあります。

――それで必ず最後に「ああ、そうだったのか」という驚きを用意できるところがすごい。

辻堂:必ずかは分からないですけれど、『あなたのいない記憶』の場合はそこからストーリーがきちんとできたのでよかったです。毎回ストーリーが思いつけばいいですけれど、思いつかなければそのテーマを捨てることもあります。

――いまは会社は辞めて専業になられていますよね。

辻堂:はい。会社は3年ちょっと勤めて辞めました。当初は専業になろうとは思っていなかったんです。さっき「学校の先生になりたかったのに、官僚になろうとして大学に入って結局やめた」という経緯をお話ししましたが、やっぱり通信教育で教員免許取りたいなと思ったんです。

――ええっ。ただでさえ兼業中で大変なのに?

辻堂:大学を卒業しているので2年間やれば免許は取れるので。会社に2年勤めた段階で「あ、やっぱり私はずっと会社員ではいたくない」と思って、「もう大学に入っちゃおう」「通信教育を並行してやっちゃおう」と思って。当時、専業になれるとは思っていなかったけれど、それなら会社員との兼業ではなくて、教員免許取って非常勤講師とかとの兼業にしようと思ったんです。それで、社会人3年目で通信教育を始めたんですよ。

――はあー。作家業もやりながらですか。

辻堂:1年間だけ、会社員と作家と通信教育を同時期にやりました(笑)。社会人3年目が結構きつかったんですけれど、幸い単位とかを落とさずに大学の2年目に突入して、そうすると小学校の教員免許だったので、教育実習があるんですよね、4週間。教育実習と、介護実習で1週間あるので、さすがに会社員と並行ではやれないなと思って。結婚もたまたま同時期だったので「結婚するから辞めます」と会社には言ったんですけれど、実は教育実習のために辞めたんですよ(笑)。
 本当はその次の4月から非常勤講師と作家の両方をやろうと思っていたんですけれど、連載をさせてもらえることになったりと小説のお仕事のほうの事態がちょっと変わってきて、しばらくは生活の見通しが立ちそうになったりして。教育実習は行くし免許も取るけれど、結婚もするし子どもがいつ生まれるかということもあるので、途中から、免許は取るだけとって専業でやろう、ということになりました。その後、子どもも生まれたので、免許は無事に取りましたがまだ使えていないんです。

――いま、一日の執筆時間や読書時間はどれくらいとれていますか。どんなタイムテーブルで過ごされているのかなと思って。

辻堂:専業になる時に会社のフルタイムワーカーくらいはやろうと思って、平日は1日8時間仕事すると決めていたんですけれど、子どもが生まれたら8時間はちょっと無理なので、時短勤務で6時間くらいかな、と(笑)。日中は子どもの面倒をみながら6時間は仕事をして、日中子どもがおとなしくしていて仕事が終われば、子どもが寝た後は本を読んでいることもあります。あと、土日は休日と決めているので、そこが本を読む時間になっています。まあ、世話をしながらなんですけれど。

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