『Shall we ダンス?』アメリカを行く 【文春文庫】
周防正行
本体 638円
2001/9
ISBN-416765606X
評価:E
むかし、クリーム(イギリスのロックバンド)が解散の理由を尋ねられて、「みんなアメリカが悪いんだ」と答えたことを思い出した。映画『Shall
we ダンス?』監督のアメリカ・プロモーション・ツアー体験記なのだが、周防監督もまたクリームの3人とおなじ苦しみを味わっている。強行スケジュール、時差ぼけ、気のきかないエージェント、おなじ質問の繰り返し、しょうもない日本への偏見と誤解、量は多いが味付けのひどい食事等々、タフであることを要求するアメリカ社会は、繊細な人間の心に平気でやすりをかけていく。週刊誌の連載記事としては、すいすいと読めて、それなりにおもしろくはあるが、これが1冊の本になると、だんだんしんどくなってくる。はじめは、日米文化摩擦体験記としても読めるが、「がさつでいいかげんなアメリカ人」に「カメラを構えてみせてウケをねらう監督」の構図のくりかえしに、うんざりしてしまうのだ。アメリカでの映画評など、なかなか興味深い資料もおさめられてはいる。「ミラマックスがカットしてきたシーンと僕の見解」は、何が何でも映画を2時間以内に収めようとするミラマックス(アメリカでの配給会社)と「そんなところで切ったら、わけのわからん作品になる」と悲鳴をあげる周防監督とのせめぎあいの具体的検証。「こんなとこまで切るんだよ」という監督の言い分はわかるけど、「くりかえしの手法を無視している」「2時間を越えない再編集案をじぶんで出したら通った」と本文に書いてあれば彼らの再編集に対する<ポリシーのなさ>も充分伝わってくるというものだ。巻末のおまけでよかったのではないか。