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大場 義之の<<書評>>
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オロロ畑でつかまえて
オロロ畑でつかまえて
【集英社文庫】
荻原浩
本体 457円
2001/10
ISBN-4087473732
評価:C
軽すぎやしませんか。酒を飲むと裸になるヤツ、パンキッシュなデザイナー、怪しげな大阪弁を繰り出す広告代理店社長。オロロ豆、ヘラチョンペ、ウッシー、ゴンベ鳥。みーんな軽すぎませんかね。ユーモア小説だからそんな事いうなと言われそうだけれど。といいながら、確かに中盤村おこしにかける村人の熱い思いと広告代理店の裏話にひっぱられて、オモシロイオモシロイとがむしゃらに読んだけれども、ラストがやはり軽すぎて、というか昔の愉快なドラマの最終回のようで、目が覚めました。ちょっとこの存在の耐えられない軽さが嫌。気軽に楽しむという点ではいいのだろうけど。

東京城残影
東京城残影
【講談社文庫 】
平山壽三郎
本体 629円
2001/9
ISBN-4062732556
評価:C
平山壽三郎六十五歳。夫婦が明治維新の大乱をきっかけに、二つの人生を歩むという、枯れた、味わいのある、渋い物語はさすがにこのくらいの年齢じゃないと書けないのかも。まさしくいぶし銀。最初から最後まで、なんだか切ない気分で読みました。妻のお篠、夫の信一郎、金持ちの旦那茂平など、一歩間違えればただの自分勝手な人々なのかもしれないが、この物語の中では、仕方がないでしょう、としか言いようがない。これもまたじっくりと進行させていく六十五歳の手腕なのではないだろうか。しかし、読み終えた後に目に飛び込んでくる、高橋英樹の顔写真が気になってしかたがない。

弥勒
弥勒
【講談社文庫】
篠田節子
本体 914円
2001/10
ISBN-4062732785
評価:A
うちのばあさんの話は結末がいつも違った。寿下無なんて最後にはインドの王様(世界一名前が長い)になったりもした。こんなわくわくする話を聞かされて、寝ていたものだ。この話は全くそれと同じ。全く着地点をを見定めずに、飛び上がり、そして予想外のポケットに落ちる楽しさ。寝る前のお話的面白さがあった。冷めた都会の夫婦に始まり、仏教美術に進み、クーデター、そして弥勒へ。こんな展開ありなのかなあ、絶対に先を考えていないよ、なんて思いながらも、とにかく夢中になって読んでしまった。たぶん、誰もが読み始めれば止まらない、怒濤のような寝物語だと思う。しかしほんとはどうなんだろう。先の事を考えて書いていたのかなあ。気になる。

神様
神様
【中公文庫】
川上弘美
本体 457円
2001/10
ISBN-4122039053
評価:A
やっぱり川上弘美の言葉は心地良い。すうっと、さらっとなんだか撫でられるようだ。なんでだろう。お隣の熊さんと散歩するとか、謎の自縛霊コスミスミコさんとか、物語もワケがわからないはずなのに、自然と読まされているし。この心地良い文章と、会話が個人的につぼ。
「明日はぼくころぶかなあ」「明日はきっところぶよ、ぼく」
なんて台詞は普通に生きていれば聞かれないはずなのに、川上弘美の世界だとあたりまえなのだ。ちょっと現実逃避気味、でもそこに現実が見えている。古い文学のようで、なんだか新しくてこじゃれた様な感覚。このあたりが川上弘美の魅力のような気がしている。まあ、そんな事より、この文章と会話だけでめろめろです。

求愛
求愛
【文春文庫】
藤田宜永
本体 552円
2001/10
ISBN-4167606038
評価:B
ちょっとムカツク投手を主人公に据え、ヒステリックなピアノ教師と絡んでいく。最初はなんでもない小説だな、なんて思っていたけれど、気が付くと登場人物にはいりこんでいた。これは多分復活にかける思いなんてのが、いつのまにかこちらに伝わってきたからなのか? やっぱり体育会系ものには弱いという為か? あまり恋愛小説を読まない自分だけれども、ちょっとこれは面白い、なんて思い始めてもいた。その為、あのラストに茫然自失。通勤電車のなかで口をぽっかり開けてしまいました。それはないんじゃなかろうか。ちょっとこのショックから立ち直れませんです。

夜の闇を待ちながら
夜の闇を待ちながら
【講談社文庫】
R・エアース
本体 971円
2001/10
ISBN-4062732831
評価:A
これを読んでようやく気がつきました。私、異常な犯人が出てくると、とにかく読んでしまうんです。この本に出てくる犯人は、異常を通り越して凄かった。世界大戦で心に傷を受けた刑事と犯人。ともに戦争を生き残り、過酷だった塹壕戦を引きずっている。ちょっとこれは凄い小説だったのでは。確かに戦争の時の経験をひきずっているというのは、ありがちな設定かもしれないけれど、塹壕掘って女を狙うという犯人はそうそういないんではなかろうか。犯人のきれっぷりが素晴らしいとしかいえない。最初は昔っぽい作品で、いまいちかと思ったけれど、一気に読んでしまいました。

とむらい機関車
とむらい機関車
【創元推理文庫】
大阪圭吉
本体 660円
2001/10
ISBN-448843701X
評価:B
そんな事件あるのか? と少々首を傾げてしまう事も多々あったけれど、面白かった。挿し絵も効いているし、単に昔の作品だからかもしれないが、トリックだけで勝負する潔さが良かった。最後のエッセイは蛇足かと思わせておいて、「探偵小説突撃隊」とか案外オモシロかったし。しかし、どうしても表題作でもある「とむらい機関車」が頭から離れない。なぜか豚なんかがちょくちょく、その「とむらい機関車」に轢かれてしまい、謎を解明しようという話。この話は謎を解いてみれば、それはないだろう、とか言われそうなのだけれども、とにかく最後が忘れられない。ほんとうに、良い物を復刻していただきました。ごちそうさまという感じ。

9ミリの挽歌
9ミリの挽歌
【文春文庫】
ロブ・ライアン
本体 848円
2001/10
ISBN-416752787
評価:A
読了後の余りに恐ろしい虚無感。突然町で平手をあびるみたい、とはこの事だ。とにかく無意味。所々関係しているのは前作同様だけれども、「くまのプーさん」をモチーフにしているというのも無意味。主人公たちの主張も全く無意味。なにもかも無意味。ロブ・ライアン、やっぱりやってくれました。早く次回作が読みたい。とにかく自分の中ではこの無意味さが堪らなく、問答無用に面白い作品だったと思う。ただ一つ、言わせてもらえるのなら、「なぜに訳者は伏見威蕃ではないのか」という事。これのせいか訳注も少ないのではと思ったほどだ。次の「ピーターパン」を下敷きにした作品では威蕃氏を是非とも登用して戴きたい。一応、これが今月のイチオシなんだけれど、他の人はたぶんイマイチというんだろうなあ。

古地図に魅せられた男
古地図に魅せられた男
【文春文庫】
マイルズ・ハーベイ
本体 752円
2001/10
ISBN-4167651149
評価:D
昔の地図造りは確かに成る程大変だ。噂から始まって、事実を聞いて、冒険して、少しずつ少しずつ広げていく。だからって、それにならって書き進める事はないんじゃなかろうか。余りにも遠回りすぎやしないだろうか。一つの事を書くのに、宝島からシェイクスピアのような飛び道具まで使って説明しなくたっていいだろう。ほんとにまわりくどい。知らない地図泥棒の話は面白いのだが、どうなのだろう、このまわりくどさは大切な血肉なのだろうか。個人的には邪魔な脂肪分に思えたのだが。

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