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大場 義行の<<書評>>
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暗いところで待ち合わせ
暗いところで待ち合わせ
【幻冬舎文庫】
乙一
本体 495円
2002/4
ISBN-4344402146
評価:C
 微笑ましいほど狭い物語だった。登場人物は5.6人。場所はほとんどお家の中という慎ましいお話。目の見えない女の子、その子が棲む家に隠れ棲む男の子。最初はどんなとんでもない展開になるのかと思ったけれど、最後の最後まで微笑ましくて残念。ホラーじゃなくてミステリだったんですね。なんとなく極限状態にまでいって、眼もあてられないラストを迎えてくれると期待した分、Cという事で。ただ、音を立てずに家に潜むという発想は面白いかな。

咆哮は消えた
咆哮は消えた
【徳間文庫】
西村寿行
本体 522円
2002/5
ISBN-4198917094
評価:C
 西村版「老人と海」から、ニホンオオカミ話など、滅び行く獣と、行き詰まった人間をテーマにした短編集。滅び行く獣!という事で一瞬は熱くなるけれど、やっぱり短編のせいか長くは熱が残らない。この手の話はごりごりとした長編の方が面白いのでは、というか読みたい。西村寿行、熱い話を書くとは聞いていたけれど、ちょっと長編を読んでみようかな。なんて気にはなりました。でもこの動物もの、最近ほとんど見かけなくなった気がして、残念でならない。

聖の青春
聖の青春
【講談社文庫】
大崎善生
本体 648円
2002/5
ISBN-4062734249
評価:AAA
 この時期の将棋界では避けて通れない羽生善治についてもきちんと書きながら、ちゃんと脇役にとどめて、しかもプロの将棋指しであった村山聖の人生を過剰に演出して偉人に祭り上げるわけでもない。そんな文章がほんとうにこの本を素晴らしいものにしている。という事でこの本、問答無用の傑作と断言します。今月のイチオシです。熱い師匠や友人達とのエピソード、子どもの時からの病で何度も倒れながら、名人の称号の為に将棋の天才たちとひたすら闘うその生き方、素晴らしいとしかいいようがない。いやほんとこの本を読んで良かった。思わず村山八段の棋譜など並べてしまいましたよ。将棋を知っている、知らない、興味なし、どんな人でも涙無しには語れない、と思う。

うまひゃひゃさぬきうどん
うまひゃひゃさぬきうどん
【光文社知恵の森文庫】
さとなお
本体 533円
2002/5
ISBN-4334781616
評価:C
 デジカメだろう荒い写真ではあるが、いきなり讃岐うどんの写真勢揃いという気合いの入った本。その為か読めば読むほど讃岐うどんが喰らいたくなる。ぜんぜん違うのか、そんなに。うどんはうどんなのでは、と思いつつも食べに行きたくなるんだよなあ。その点では素晴らしいけれど、読み物として考えると、「恐るべきさぬきうどん」という底本があるようなので、そちらの方が読みたいと思ってしまう。まあ、食べたくなるからいいのかな。それと、ちょっと太字がうざいのも難点。うまひゃひゃ(太字でデカイ文字)連発されるたびに本を閉じてしまった。

嘲笑う闇夜
嘲笑う闇夜
【文春文庫】
ビル・プロンジーニ
ハリー・N・マルツバーグ
本体 733円
2002/5
ISBN-4167661047
評価:A
 よーいドンで四人の登場人物が一斉に走り出す。で、犯人が誰なのか、本人も判りませんというスゴイ本。屁っこきデカ、作家気取りのアホライター、陰気な元俳優、超凶暴な保安官がそのメンバー。この四人(+殺人鬼)の主観から書かれているのに、誰が犯人でもおかしくないし、しかもどんどん脇道に逸れていってしまうのが楽しい。デカは死にそうだし、アホライターが書いている殺人鬼本はどんどんおかしな物になってくるし、保安官はほぼストーカーに、俳優は気が付けばモテモテ君に。この本の持つ、読者をも巻き込んで突走る感覚、これはなかなか味わえませんよ。うーん「聖の青春」が無ければこの本が文句無しの今月のイチオシだったのに。

最も危険な場所
最も危険な場所
【扶桑社ミステリー】
スティーヴン・ハンター
本体 各848円
2002/5
ISBN-459403571X
ISBN-4594035728
評価:B
 ボブ・リーのお父さんシリーズの「悪徳の都」では正直がっかりしたけれど、今回は強烈だった。アールに降りかかる災難が凄まじく、どうなるのだろうかという思いで引っ張り続けられた。黒人専用の辺境の刑務所での拷問や、強制労働、囚人同士の抗争、謎の凄腕刑務所長や看守長との対決と読み応えがある。最後の方はやはりハリウッド映画ばりの銃撃戦で少々ぐったりしてしまうところもあるが、確かに「最も危険な場所」というだけの舞台設定が面白かった。ただ、ハンターの作品を読み続けてきて、彼は間違いなく人相手に銃を撃ってみたいみたいだけの、危険な人物なのだとようやく気がついた。ちょっとそれが恐い。

ミスターX
ミスターX
【創元推理文庫】
ピーター・ストラウブ
(上)本体 960円
(下)本体 940円
2002/5
ISBN-4488593011
ISBN-448859302X
評価:C
 ミステリなのか、それとも怪奇小説になるのか? どう進んでいくのか全く見えないという手探り状態で始まるこの本、正直途中ギブアップの人もいるのではないだろうか。この本はミスターX側の視点と、主人公ぼくの二つの視点から構成されている。しかし、このミスターX側がくせもの。とびきりと言って良いほどイカレている文章なのだ。「嗚呼、旧支配者よ」なんて書き出しなのだから。これクトゥルー神話系の属する物語を知らないと、いきなりここでつまずく恐れあり。知っていてもついていくのに一苦労という怪作だった。この本、正直怪奇小説好きにはオススメしても、普通の人には決してお勧めする事ができません。

死を啼く鳥
死を啼く鳥
【ハルキ文庫】
モー・ヘイダー
本体 980円
2002/4
ISBN-4894569620
評価:C
 冷静になって本屋を眺めると、今、どれだけこの手の本があるのだろうかと思わずにいられない。死体にサインを残す殺人鬼。それを追う、陰気だったり、イカレている警察官。気が付けばこの手の本は毎月大量に発売されているはず。それらの差はどれだけ奇抜なのか、どう違うのかという点だけ。今回の殺人鬼は「死体の心臓に小鳥をいれちゃう」ヤツで、「ある過去の事件を引きずっている」警察官が追うパターン。ちょっと犯人がごにょごにょという点があるが、まあ、そんな所だった。正直もっと直接仕掛けてくるような本(今月でいえば「嘲笑う闇夜」のような)じゃないと個人的には楽しめません。

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