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大場 利子の<<書評>> |
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黄色い目の魚
【新潮社】
佐藤多佳子
定価 1,575円(税込)
2002/10
ISBN-4104190039 |
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評価:B
「マジになるのって、こわくない?自分の限界とか見えちゃいそうで。」なんていう高校生とは、相容れない。信用もならない。あまりに自分の高校時代と違い過ぎるし、そんな時代もあったよねなんて、悠長に振り返って、そんな人もいるさと冷静に思えるほど大人になっていない。読んでいて、そんな物語じゃないのに、つらかった。
村田みのりにも、木島悟にもなれなくて、その他大勢のクラスメイトの一人になったような気分になる。二人に嫉妬していたけれど、物語の中にそっと自分を入れることが出来て、幸せだった。ただ心地いいだけではなかったが。
●この本のつまずき→似鳥ちゃんという名前。ここだけ、浮き世離れしている。 |
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空中庭園
【文藝春秋】
角田光代
定価 1,680円(税込)
2002/11
ISBN-416321450X |
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評価:C
「家族のことが、好きですか?」と惹句で聞かれても、家族とうまくいかなくなった独身三十女は、以前のようにはーいなんて脳天気に答えることが出来ない。素直に家族小説を読むことさえ出来ない。家族は面倒という印象ばかり、先走る。
京橋家。四人家族。マンション住まい。近所に郊外型ショッピング・センター有り。なにごともつつみ隠さない。子供が何処で仕込まれたか。質問されれば答える。つつみ隠さないとは、そういうこと。そんなことで、今さら、驚けない。
それより、何より大きく頷いたのは、ディスカバリー・センターというショッピングセンターの役割。母を殺意から救い、「この町のトウキョウであり、この町のディズニーランドであり、この町の飛行場であり外国であり、更生施設であり職業安定所である。」と言わしめる。すごい。
●この本のつまずき→仕込まれたホテルの名前「ホテル野猿」。のざる…。 |
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天使
【文藝春秋】
佐藤亜紀
定価 1,800円(税込)
2002/11
ISBN-4163214100 |
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評価:B
欧州の国々で諜報活動をするためには、必ず持っていなくてはならない感覚。主人公のジェルジュや顧問官も当然持っている。この感覚を、本当に持っている人が存在したらと思うと、ゾッとする。もしかしたら自分にもあるのではないかと、少し神経を研ぎすましながら、諜報活動をする一人になったつもりで読み進んでみた。そんなのあるわけないが。
私は持っていないその感覚の説明が、もっともっと分かりやすかったら、ジェルジュの気持ちをもっと理解出来ただろうに。
●この本のつまずき→「一揖」「掏摸」読めなかった。読めない漢字が多数出てくるが、辞書を引かないでも不思議と読めてくるのは、その場に相応しい漢字だから。必要があって使われる漢字の力のすごいことよ。
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終戦のローレライ
【講談社】
福井晴敏
定価 (上)1,785円(税込)
定価 (下)1,995円(税込)
2002/12
ISBN-406211528X
ISBN-4062115298 |
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評価:C
ローレライとは?タイトル見ても、読み始めても、なんだなんだ状態。ローレライを知りたいという思いだけで、物語の中に入っていけた。前半、海のものだからか、その名もローレライと呼ばれているし、女性形容詞で表現されて、著者のそれに対する熱い思いがほとばしって、お尻がむずむずする。
戦争ものは苦手だ。海の話は理解出来ない。男の世界の話はもういい。そうやって、つまずきそうになった時、天から手が伸びてくるような配慮を感じた。分かりにくい話をわざわざ難しく書かないでいてくれた著者と、登場人物をピックアップしてくれたメモのおかげだ。潜水艦や兵隊や戦争が出てきたとしても、戦争ものと決めつけられない物語。
●この本のつまずき→カバーも表紙も中扉もツルツル。気持ちいい。 |
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スパイク
【光文社】
松尾由美
定価 1,785円(税込)
2002/11
ISBN-4334923801 |
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評価:B
装画の犬。色。表紙の手触り。帯。読み終わって、改めて慎重に検討しても、まさかこんな物語だったとは。やられた。
題名の「スパイク」は犬の名前。わたしの飼い犬。犬種は、ビーグル。住まいは下北沢。警戒するような特徴はまったくない。第一章の1に、この物語のすべてが詰まっているのに流してしまう。この著者の他の作品を知っていたら、立ち止まりどころを知っていたら、こんなにも驚いたりしなかったのかもしれない。他の作品も読んでみよう。
●この本のつまずき→「口論はくだくだしいから」のくだくだしいの意味を知らなかった。 |
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見仏記 親孝行篇
【角川書店】
いとうせいこう・みうらじゅん
定価 1,575円(税込)
2002/11
ISBN-4048837818 |
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評価:B
見仏とは仏像鑑賞。見仏するいとうせいこうとみうらじゅんは、仏友。見仏記は、見仏を記したもの。
どうせどうせ、時間に自由がききそうな二人だから、急いだり焦ったり行程に呑み込まれたりしないで、のんびりきっちり見仏した上、大真面目にくだらない事を言い合っているに違いないと決めつけ読み始め、自分の予測が当ったりも外れたりもしながら、やけにそのままの見仏記に圧倒されて、お二人の仏友になれたらとまで思い描く自分に気付き、少し恥ずかしい。とにかく、今、見仏の旅に出たい。おお、仏像!
●この本のつまずき→ホットカーペットを、ほかほかカーペットと記すいとうせいこう。 |
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リスク
【世界文化社】
井上尚登
定価 1,365円(税込)
2002/12
ISBN-4418025308 |
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評価:C
雑誌「Men's Extra」に連載されていた短篇三作。
株をすると、リスクが発生。家を買ったら、子供を私立高校に通わせられないリスクが発生。そんなの、当たり前。今さら、そんなこと、リスクなんて堂々と言うか…。宝くじを買うのも、リスクがあるって言い出しかねない。などと、突っ込みどころ満載でも、あまりに現実的で明日にもわが身のようなリスクの連続に、落ち込む。でも、「Men's
Extra」の読者であろう働き盛りの男達に、余計な不安をあおり、消費意欲を減退させたら逆効果なので、ほっと暖まるラストの用意。それに見事にはまって、ほっとする自分がイヤだ。
●この本のつまずき→「純粋なスリーセブン」の意味が分からず、三篇目『十五中年漂村記』のラストが理解出来ない。 |
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コレクションズ
【新潮社】
ジョナサン・フランゼン
定価 3,990円(税込)
2002/11
ISBN-4105425013 |
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評価:C
とにもかくにも、この装丁には惚れ惚れ。コンクリートのまるい筒の中で膝をかかえる男の子。読了後も、この表紙と物語の関係性を具体的には説明出来ないけれど、この装丁なくして、「コレクションズ」なし。飾りたい。
ハッピーエンドを期待して、物語の終わりを目指して、読み進んだら、だめだ。だからと言って、この物語はハッピーエンドではなかったと断言する勇気はない。ハッピーエンドかもしれない。終わり方だけが、物語の最後だけが、クライマックスではないと、改めてこの物語から学んだ。毎日毎時間、毎頁、いいことも悪いこともあって、それでも時間もまわりも自分も止まらない。それだけだ、コレクションズ。
●この本のつまずき→ 父親の「おう!」。一番まともな瞬間でほっと一息。 |
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七王国の玉座
【早川書房】
ジョージ・R・R・マーティン
本体 (各)2,800円
2002/11
ISBN-415208457X
ISBN-4152084588 |
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評価:C
訳者の岡部宏之さん、ありがとう。
この手の表紙の本には近付かないことにしている。読んだこともないし、苦手に決まっているし、その上、二段組で上下巻。字は大きくない。読む前から、いやな気分満々。陰鬱、憂鬱とはまさに。なのだが、読み終えた。これはすごい。自分を褒めてあげよう。
丸腰では読めないと判断し、カバーを外したり頁をぱらぱらとめくったりし、登場人物を説明した付録と訳者あとがきを発見する。まず訳者あとがきを読み、これでやっぱり読了したことにしようかとも思ったが、あとがきに訳者の心を感じ、「それぞれの名前、性格、人間関係を掴むことが大切です」とあるので、付録を切り取り冊子にしようかとも思ったが、それは本が可哀想なのでコピーを取り、ガイドを作った。それでも読むのは大変だった。訳するのはもっと大変に違いないという思いが、支えだった。
●この本のつまずき→いったい何人登場させるつもりだ。
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ビッグ・レッド・テキーラ
【小学館】
リック・リオーダン
定価 1,901円(税込)
2002/12
ISBN-4093562725 |
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評価:B
「若くておろかだった僕らは、しこたま酒を飲み、テキサス州ブライアンの放牧場で、脚を折り敷いて眠っている牛を押して坂を下らせ、牛の群れをおびえさせたものだった。」このどこが、モダン・ウェスタン・ハードボイルド(惹句)!
保安官の父は誰に殺されたのか。リリアンはどうしていなくなったのか。自分は何の陰謀に巻き込まれているのか。物語はそれらを軸に進むが、それ以上のお楽しみがある。「典型的なお調子者の小学三年生が、ただ歳をとって肥っただけに見える」父や「顔は、記憶にあるとおり、なにもかもがちょっとずつ度を越している」リリアンといった具合に、全ての登場人物の形容が逸脱。他はこんなもんじゃない。食べ物の形容も素晴らしい。食べたくなる、とにかく。テキサスに行きたい。
この本のつまずき→「ミッキーほどピルズベリー食品のパン生地坊やに似た人間はいない。」パン生地坊やが気になって検索中。 |
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