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勝手に目利き
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延命 ゆり子の<<書評>>

クライム・マシン
クライム・マシン
【晶文社】
ジャック・リッチー
定価2520円(税込)
2005/10
ISBN-4794927479
評価:★★★★
  言葉をそぎ落とし、ストーリーだけで勝負するショートショート。小学生で星新一にはまった私にとっては懐かしさでいっぱいだ。殺し屋の前に現れたタイムマシンを持つという男。ルーレットの必勝法を編み出した男。二十人分の怪力で弾丸をも跳ね返す探偵。奇想天外なストーリーと、私の想像をはるかに超えた結末に向かって加速度を上げるスピード感。そして最後の一行でもう一ひねり。ヤラレターと思わせるどんでん返しの連続に思わずニヤリ。そのほとんどが1960年代に作られたものだというから驚きである。星新一も言っていたが、ショートショートはいつの時代に読んでも新鮮なものですね。アイディア勝負の傑作短編ミステリ怒涛の17連発! じっくり堪能させていただきました。


ハルカ・エイティ
ハルカ・エイティ
【文藝春秋】
姫野カオルコ
定価1995円(税込)
2005/10
ISBN-4163243402
評価:★★★★
  主人公は大正9年生まれの元祖モダンガール、小野ハルカ。大正昭和平成を明るい気持ちで駆け抜けた平凡な女性の一代記。なんだかNHK朝の連続テレビ小説のよう。しかし一見退屈な人生にもドラマチックな日常が潜む。まずは戦争。この時代ってすげえよなと改めて思う。昨日世間話をした人が、次の日には爆弾を受けて焼け死んでいる。ほんの少しの偶然が生死を分ける。常に死と隣り合わせの特殊な日常を、ほんの少し前の日本人全てが体験していたという事実がリアルな実感として迫ってくる。その後もハルカには数々のドラマが訪れる。夫の度重なる浮気。そして職業婦人となったハルカの女性性の満たされぬ思い。夫の事業の失敗。友人や家族の死。そんな辛い要素もハルカは静かに受け入れて取り乱さない。波乱万丈な人生を、退屈なように当たり前のように楽しく生きるハルカのその逞しさ、したたかさ、しぶとさよ。昔の女は強かった……とコウベを垂れるしかない。ガクリ。

Bランクの恋人
Bランクの恋人
【実業之日本社】
平安寿子
定価1575円(税込)
2005/10
ISBN-4408534803
評価:★★★★
  テーマは愛だという。確かに様々な立場の人々が織りなす恋愛模様が描かれている。しかしその中に一貫して感じるのは、切実な孤独感や寂寥感。もがいても否定しても自棄になっても孤独感は私たちに影のように付きまとう。登場人物たちも孤独を振り払おうとして懸命にもがく。自分の孤独感にフタをして見てみぬフリをする者。孤独感を抱えたまま全力で自分を愛し認めてくれる人を待ち続ける者。孤独感に押しつぶされる前に同志を見つけて闘う者。悲壮感はない。その懸命な姿と軽妙なその語り口にだんだん気持ちが楽になってくる。淋しさに負けて自分を蔑むことしか出来ない夜、この本をまた手に取りたい。そして「愛情を出し惜しみしてたら自己愛だけですっからかんになるだけだよ」という言葉を真摯に受けとめたい。


カリフォルニア・ガール
カリフォルニア・ガール
【早川書房】
T.ジェファーソン・パーカー
定価1995円(税込)
2005/10
ISBN-4152086769
評価:★★★
  1968年。ミス・タスティンにも輝いた美女のジャニルが首を切断されて殺害された。彼女を小さいときから知る警官のニック、その弟で新聞記者のアンディはその事件を解決すべく奔走するが、徐々にジャニルの妊娠が発覚し、FBIの調査をも請け負っていたことも明らかになり事件は思わぬ展開へ転がりはじめる。1960年代の風俗もふんだんに取り入れられ、ベトナム戦争、ケネディの暗殺、麻薬やヒッピー、それに兄弟間のいざこざやそれぞれの恋愛模様、家族の絆……、テーマがてんこ盛りすぎて読み解くのに一苦労なのだ。読中、私は己の目蓋が降りてくるのを止めることが出来なかった……って寝るな。容疑者の一人を追い詰めるところからは盛り上がるってくるのだが、如何せん致命的なのは途中で犯人が分かってしまうこと。推理する楽しみくれよ……。エドガー賞受賞という文句に期待しすぎてしまったようだった。


みんな一緒にバギーに乗って!
みんな一緒にバギーに乗って! 
【光文社】
川端裕人
定価1575円(税込)
2005/10
ISBN-4334924697
評価:★★★
  男社会に女が入る。女社会に男が入る。それだけでもドラマは生まれやすい。この小説も区立桜川保育園に着任した新人男性保育士の竜太が主人公だ。確かに保育の場に男性が入るのって大変だろうな。男性差別を受ける竜太を見て今までの男性側の気持ちが分かるような気がした。男女平等! 機会均等!って思っていてもやはり男性にオムツ変えしてもらうのは抵抗あるだろうしなあ。しかし理念もなくただ子供が好きでこの仕事を選んだと衒いもなく言う竜太に少しイライラする。もうちょっと自分で考えろよ仕事なんだからサ!と言いたくなる。結局竜太は最後まで劇的に成長するわけでもなく発展途上の状態で終わってしまうのが残念。もう少し成長の後が見られないと満足感が得られないよう……


世界のはてのレゲエバー
世界のはてのレゲエバー 
【双葉社】
野中ともそ
定価1785円(税込)
2005/10
ISBN-4575235385
評価:★★★★
  落ちこぼれの高校生コオは父親の転勤でNYへ。NYの片隅にある怪しいレゲエバーでコオは様々な人々と出会い、別れ、恋し、癒され、さまよいながら瑞々しい成長を遂げていく。とにかくNYの描写が良い。こわいくらい空気が澄んでいるNYの冬。セントラルパークの紅葉。9.11があって、アメリカがあんな風になって、それでもこういう小説を読むとアメリカの底力を信じたくなる。
ただ、いまいちコオを好きになれないのはなぜかしら……。実はひとつも落ちこぼれてなぞいないから? 出てくる女の子がみんな都合の良いかわい子ちゃんだから? 高校生で怪しいバーに出入りするのも、スラングな英語が出来るのも、実はカメラの才能があるのも、ホームレスや麻薬のディーラーと交流できるのも、何つーか……自慢? みたいな……。昔の彼女が学校一の美人で育ちが良くて自分の才能を認めてくれていつも励ましてくれるというのも納得がいかぬ。そんでそういう人って必ず死ぬのよね。プリプリ。モテない女のひがみ? ええ、そう受け取っていただいて結構です。


わたしが愛した愚か者
わたしが愛した愚か者
【文藝春秋】
永瀬隼介
定価1890円(税込)
2005/10
ISBN-4163244107
評価:★★★★
  無理やり空手道場の経営を引き継がされた藤堂の下に持ち込まれる様々な事件。ボランティア自警団、自殺サイト、温泉街のホテル再建などテーマも新鮮、何事も空手で解決、分かりやすい。
主人公の藤堂は正義感が強く正しいことしか言わないので魅力がないのだが(空手バカという設定だから仕方ないのかもしれないけど)、脇役の存在感がすごい。同じ空手道場の指導員の健三は昔ならした伝説のケンカ屋だし、お調子者でメチャクチャ弱い黒帯の先輩や、藤堂の恋人で並々ならぬ好奇心と何やら暗い過去を持つ社長令嬢悠子、と個性派揃い。中でも私のお気に入りは怪しい経営コンサルタントの富永栄助だ。どこか憎めないところもありながら、傲慢でしたたかで強引で慇懃。計算高い権威主義者で強いものには無条件にへつらう金の亡者。「空中ブランコ」の伊良部先生を髣髴とさせる嫌な奴っぷりがたまらなくイイ! むしろこの富永を主役に据えてほしい。


ニート
ニート
【角川書店】
絲山秋子
定価1260円(税込)
2005/10
ISBN-4048736434
評価:★★★★★
 現代の生のかたちを綴った短編集。そこに出てくる若者たちはやけにリアルだ。物静かで、無気力で、だらしなくて。変に合理的で、激しい感情を持たないフリをして、いやらしく、いやしく生きる人たち。ある者は好きな男にお金を振り込み囲うような生活をさせることでしか愛情を表現できない。ある者は絶対的な孤独を抱えながら親友の前から姿を消そうとする。ある者は女の糞を撒き散らしながらするスカトロ行為の中でしか生を感じられない。その、相手との距離の取れなさ。狂気に転がり落ちそうな危うさ。リアルで、わかりすぎて叫びだしたくなる。……もうやめてよ! 痛々しいんだよ! その世界に足をすくい取られそうな自分が怖いんだよ! 私が懸命につくりあげたいまの単純な幸福を壊さないで。お願いだからこれ以上私の中の暗闇を見せないで。そう祈るようにして読み終えた。


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