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勝手に目利き
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清水 裕美子の<<書評>>

ブルース・リー
【晶文社】
四方田犬彦
定価2730円(税込)
2005/10
ISBN-479496689X
評価:★★
 サブカルの1つの主題「ブルース・リー」。
あの鍛え抜かれた筋々が好みでなく予備知識なしで評伝へ。おなじみの「アチョー!」って「怪鳥音」って言うんだ、くらいの無知ですいません。
著者は映画史から李小龍(ブルース・リー)を紐解いていく。グリフィス『散りゆく花』辺りからスタート。古い!
李小龍はサンフランシスコで生まれ、父の職業の関係から香港映画に赤ん坊デビューを果たした子役だったのだ。香港・ハリウッド、そしてカンフー映画が上映された国で、李小龍について分析し続ける著者の愛(偏愛?)に圧倒されてしまう。例えば、子役時代の香港映画については主人公をチャート図解。そこに「貧窮・孤児」→「富裕・家族」階級的上昇の図式が浮かび上がる。そして有名なカンフー映画についても詳しく分析が行われる。キーワードを拾うと、孤立・女性忌避・ナルシシズム・民族・究極の敵を倒した瞬間に終わる、、、なのかな。渾身の力の入りっぷりに敬意を表したい。カンフー技図解入り。
読後感:ブルース・リーに詳しくなってしまった。

クライム・マシン
クライム・マシン
【晶文社】
ジャック・リッチー
定価2520円(税込)
2005/9
ISBN-4794927479
評価:★★★★
 技あり短編に騙されるのはお好きですか?
騙されたくない決意で読み進めると「ムッ!」「次は負けるもんか」と裏を読むようになるが、この作者ジャック・リッチーの意地悪さにはかなわない。もう手のひらで転がして下さいな気持ちになり、最後は「やっぱりこうでなきゃ」。
底意地悪さ度・試金石『日当22セント』は、4年間の刑務所暮らしの後で無罪を得た受刑者に対し、いい加減な目撃証言を行った証人や弁護士が戦々恐々する話。オワ!
リベンジ度・試金石『殺人哲学者』は、身勝手な考えで通り魔殺人を犯した男のごたくが続く。アハ!
どちらもとても短くてニヤリ。ちょっと不思議なテイストの物語もあります。傑作選だけに全部読み終わるのが心底惜しい。しかし、さすが! 巻末の解説には最後のお楽しみが残っている。削って削って短くしたという骨子だけの物語。笑って下さい。
読後感:脳が喜んでいます

ハルカ・エイティ
ハルカ・エイティ
【文藝春秋】
姫野カオルコ
定価1995円(税込)
2005/10
ISBN-4163243402
評価:★★★
 姫野カオルコ新作。本を開く前はジェンダー論とかだと面倒だな〜って思ってました。杞憂でした。
はるか17がドラマ化された季節にハルカ・エイティ(80)も軽やかに生きる。京滋地方のふんわりした語尾の話し方で、戦前の女学校生活から現代までの一代記。いや一代記ってほどの苦労もないです。
ハルカは不細工ポジションで成長し、戦後は原節子似ということで美人ポジションへ劇的に立ち位置が変わった。ただ本人の気持ちは変わらないのでそこが可笑しい。母になり、職業婦人になり、30代になって恋を知る。自分が手をつけた男は最後までちゃんと面倒を見る性格。
そんなハルカが添い遂げた夫の大介さん、この素敵さが最初はちっとも分からなかった。手抜きで浮気者で事業熱な男。でも長い時間を過ごすことで「ラッキーな結婚」というものになったのかもしれない。So happy life in case of HARUKA。タイトルの半分、ちょっといいな。
読後感:なんやろなー、生涯現役のココロモチ

Bランクの恋人
Bランクの恋人
【実業之日本社】
平安寿子
定価1575円(税込)
2005/10
ISBN-4408534803
評価:★★★★★
「萌え」に走った男達をリアルに引き戻すのはモテの魔の手か救済愛か? 女の側が「はずれっ子」に萌えればいいのだ。
他の紹介飛ばしても『はずれっ子コレクター』行きます!「女教師の乱れる午後」と呼ばれる、おばさん体型・負け犬の澄香さん。澄香さんが手を出すのは(食っちまうと表現)コンプレックスからダークムードに浸っているモテない男=「はずれっ子」ばかり。常時何人もストック。それは自分がモテないからではなくて、純粋にそういう男が好きだから。自信がない男が「もう可哀想で可哀想で」と澄香さんは身もだえし「寝た後に見せる、夢じゃないのかって顔」がたまらんと評する。うっかり「私にも紹介して」と頼んだ主人公はエライ目に逢う。この面白さは、初・田辺聖子くらいの衝撃度。
平安寿子の新作は「愛してるよ」より強力な口説き文句が飛び出す話、恋しい人の前で立ちすくむ話など「愛にもいろいろありまして…」な粒ぞろい。
読後感:早く女性誌で「はずれっ子狙い特集」組まないかな。組まないだろうな。

みんな一緒にバギーに乗って!
みんな一緒にバギーに乗って! 
【光文社】
川端裕人
定価1575円(税込)
2005/10
ISBN-4334924697
評価:★★★
 新人男性保育士と保育園の物語。
今月の本に登場する男性陣は「しっかりしなさいよ!」と言われそうなタイプが多いが、無駄にマッチョな新人保育士の竜太はフェミニンな印象なんだそうだ。ワサワサと動き回る子供達、食事前の喧騒、うるさい母親などに素早く対応出来ない。気ばかり焦って周りから助けられる、もどかしい新人時代。もう一人の新人はソツのない「王子様」秋月。母子家庭の女の子達に対し「将来のパートナー選びすら左右する、基本的な男性像」になってしまうと悩む姿がおかしい。保育士さんの日常生活やこんな事を考えているのだな〜という視点が興味深い。
反面、女性の保育士さんのエピソードでは、元彼が園児の父親として登場したその続きが気になる。幼児の匂いや温かさ、手触りの表現がとてもリアル。最後に登場するベテラン男性保育士・ゲンキ先生の話はちょっと悲しいかな。
読後感:うーーん、、、活力は沸かない。

世界のはてのレゲエバー
世界のはてのレゲエバー 
【双葉社】
野中ともそ
定価1785円(税込)
2005/10
ISBN-4575235385
評価:★★★
  企画書を書くようにマインドマッピングで「青春」要素を列挙したらこんな理想的な青春物語になるのかも。構成も完璧。混沌と前進するロードムービー風でなく、円のように閉じている。
主人公は父の転勤でNYにやって来た高校生コウ。入り浸るレゲエ・バーで様々な人と出会う。はしょって申し訳ないが、合気道の道着でいたずらな仕返しをしてみたり、切ない恋に友人の死、表現者としての道、9.11。一方通行の矢のエピソードもいい。ボブ・マーリーを用意して口当たりの良い文章に浸ってみると楽しい。
こんな10代はいいねぇ。読んでいて楽しいし。色々な物を持っている主人公だが、持ってないことで完璧になるものもちゃんと備えている。老婆心から言うならば、若いつもりの大人が読んで青春気分に浸るにはいいが、これから青春を送る若者があこがれたり自分と比較するのはツラすぎるような。完璧すぎるから。
読後感:才能のない青春を過ごしたもんで18禁にしておきたくなる

わたしが愛した愚か者
わたしが愛した愚か者
【文藝春秋】
永瀬隼介
定価1890円(税込)
2005/10
ISBN-4163244107
評価:★★★★★
 フルコンタクト空手の道場。ボケっとしていると評される主人公・藤堂はこの道場を預かる身。前作も併せて読んだが、この一冊だけで十分楽しめる。
例えばこんな描写にワクワクするなら必読!『左のフックが唸りをあげて飛んでくる。右の内受けで捌く。右ストレート……藤堂は軽く腰を落とし、タイミングを計ってクロスの左掌底を打ち込んだ。小倉は……もんどりうって倒れ、キツネにつままれたような表情だ。無理もない。ワンテンポ早く攻撃を仕掛けておきながら、逆に倒されたのだから。』とにかく空手シーンが爽快!
5編のエピソードは懲りない人々の憎めない言動や生きるパワーが心地よい。中でも経営コンサルタント富永はキャラ抜群。オヤジ狩りのリベンジから入門したが、藤堂に道場の最高顧問の肩書きを無理強いし「日本人は文武両道がことのほか好きですからな。営業効果抜群」とうそぶく。白帯なのにー。
物語のテイストは「池袋ウェストゲートパーク」から陰惨さを抜いた感じ。二段蹴りのように一ひねり入っています。もちろん事件を空手では解決していません!
読後感:空手道場に入門!いや本当に入っちゃいました。

ニート
ニート
【角川書店】
絲山秋子
定価1260円(税込)
2005/10
ISBN-4048736434
評価:★★★★
  ニート分析や問題解決への提言ではない。ダメ男ラブな軽さもない。
圧倒的な筆力でキリキリと刺激される5編。引用を始めたら全編紹介したくなる印象的な言葉ばかり。
表題作『ニート』。駆け出し作家の主人公は、引きこもった「キミ」のブログから生活がいよいよ困窮していることを知り、数日「恋するようにキミのことを思う」。そして金を貸すことにする。相手との距離をはかりかねて、少し遠くをグルグル回っているような、そこにさえ居たたまれないような辛さ。
『愛なんていらねー』。端正に綴られるスカトロ。刑務所から出所したばかりだという旧知の男を泊める主人公の体験。匂いも手触りも後始末の滑稽さも、まさに香り立つようだ。それがスカトロなのは「セックスしないこと」を表すためなのかな。
他の物語にも泣く直前の心持ちまでえぐられてしまう。何気ない背景も上手い。気まずくなった女同士のルームシェアの描写など。
読後感:この書名でタイゾー議員が読んだらビックリだな

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