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冷血
冷血
トルーマン・カポーティ (著)
【新潮文庫】
税込940円
2006年7月
ISBN-4102095063


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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★☆
 田舎町で暮らす一家を惨殺した二人の殺人者達。彼らがどうして殺人を犯す事になったのか。その謎を追っていく。救いようのない不遇な子供時代。そこから這い上がる事ができずどうしようもないトラウマを抱えて社会からはみ出していく犯人達。もちろん、殺人を犯すという事は罪でありそれを償わなければいけないとは思うのですが。その犯行に至るまでの背景があまりにも暗く救いようがなく、罪を糾弾だけすればよいものではないような気にすらなってしまいます。
 はっきりと犯行に至った動機が語られる事はないけれど、だからこそそこに冷血というゾッとするようなタイトルの持つ意味が隠されているのだと思います。
 そして実際に起きた事件を背景に書かれている事もまた、怖さを増長させています。単なる殺人事件というだけではなく、社会に蔓延している深い心の闇をのぞいたような、そんな気持ちになりました。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★★★
 再読である。私はトルーマン・カポーティという作家が好きで、「ミリアム」などの短編や「遠い声 遠い部屋」などの長編を読んだ後、この「冷血」にたどり着いた。「冷血」は一見、カポーティの他のどの作品とも異なっているように思われる(たとえが正しいかどうか自信がないが、村上春樹における「アンダーグラウンド」のような位置づけではないかと考えている)。
 初めて読んだとき、犯人であるペリーとディックの気持ちというものがまったくわからなかった。再読してみて(新訳により文章そのものはかなり読みやすくなっていると感じた)、やはり2人の心情には近づけたとは思えない。それでも初読から約15年、なんと多くの信じられないような犯罪が行われたことだろう。数えきれないほど多くの人間が自らの中に深い闇を抱えていることだけはわかるようになった。
 ラストは生きる者の希望を感じさせる印象的な場面で終わる。実は読み返すまでほとんど記憶に残っていなかったのだが、今回「ああ、これを最後に持ってきたカポーティすごいな」と思った。毛色は違えど、「冷血」はまぎれもなくカポーティの作品であった。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★★
 まず、あまりにも綿密な描写に驚く。場面の描写だけではない。ひとつの事実を様々な角度から、様々な人間の視点から見ようとしている。描写が細かいというより、厚いのだ。
 だが、人を理解するためにはそれだけのことをしなければならない、ということをこれを読んで痛烈に感じた。今、ニュースで流されている犯罪報道がいかに曖昧な憶測に満ちたものであるかがよくわかる。カポーティは家族のこと、生い立ちのこと、交友関係のことなど、すべてを含めてその人物を丸ごと理解しようとしたのだ、と思った。だからこのような臨場感ある描写も可能になったのだろう。ノンフィクションの金字塔と呼ばれるのも至極当然、としか言えない名作だ。

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  島村 真理
 
評価:★★★★☆
 実録犯罪ものというのは、センセーショナルなものほど犯人の内面に迫れる過去を知ることが興味深い。しかし、あまりに長い文章は、読みきる意欲をしぼりとり、道程をはるか遠くに感じさせる。そう思ったのは、マイケル・ギルモアによる「心臓を貫かれて」を読んだとき。これは、モルモン教の男性2人を射殺したゲイリー・ギルモアについて、実弟が書いたもので面白いのだが長くてげんなりしたものだ。
 だから、「冷血」が驚くほどすんなりと読みすすめられたのには驚きなのです。殺害シーンは凄惨でむごいけれど、被害者家族についても、犯人二人についても、捜査官についても過不足なく体感でき共感できるから。取材能力はもちろん、その再構成力は圧巻だ。ノンフィクションというよりは、推理小説となっているからなのか? 悪人を糾弾するのではなく、哀れむでもなく、こだわりなく事実を追っていて、読者に想像力と思考をする場を提供してくれる。前向きの歩をすすめられる締めくくりは、すべてが解き放たれたようで好きだった。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★★☆
 殺伐とした事件の報道に接すると、時に耳目を塞ぎたくなる気分になるが、中でも、何ら非のない一家が、ある日突然外部から侵入した犯罪者によって理不尽に蹂躙され、子供を含む無辜な人々の命が奪われる、といった類の事件は、最も見聞きしたくないものだ。子を持つ親としての本能的な怒りが沸き立つのを抑えがたいし、特に、子供を守りきれなかった親の無念に思いを馳せてしまうから、よりいっそうやりきれない。わが国の近年におけるそういう事件の象徴的なものの一つが世田谷一家殺人事件だ。本作を読むと、この、我が国犯罪史上に残る凶悪事件を連想せずにはいられない。
 本作ではニュージャーナリズムとよばれる手法が用いられている。即ち、事件の周辺人物やエピソードを、視点を変えながらこつこつと記述してゆくことで、凄惨な事件の全貌を露にしてゆくやり方である。ただ、この手法は徹底していて、かなり瑣末なところまでが克明に書かれているため、私にとってはあんまり読み易くはなかった。中盤では集中力が途切れ息切れしてしまった。翻訳は素晴らしいと思う。

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  荒木 一人
 
評価:★★★★★
 ノンフィクション・ノベルの金字塔。凄いの一言に尽きる。臨場感満点、犯人と同調してしまう程の心理描写。丹念な下調べ、練り上げ熟考された構成、最高傑作。また、著者自身が「冷血」を書き上げるまでの過程を「カポーティ」としてアメリカで映画化、アカデミー賞5部門にノミネート。日本では本年秋に公開予定。
 1959年アメリカはカンザス州の片田舎ホルカム村で起きた、一家四人惨殺事件。犯人のペリーとディックは、数十ドルのために四人も惨殺し、遂には、絞首刑台に送られる。 「ノンフィクション・ノベル」、「ニュージャーナリズム」の新語まで生み出した大傑作。今更、評価うんぬんをするべき作品では無い。只、翻訳者が男性から女性に変わっているので比較すると面白いかもしれない。
 リアル過ぎて、最後まで読めない方も出るかも。ちなみ、私も途中で休憩(他の癒される本を読んだ)を入れた程である。思い出されるのは、世田谷の一家惨殺事件。犯行に理由が有るのか?! 性善説と性悪説、それとも人は善悪の二面性を持ち、状況次第でどちらにでも転ぶのだろうか。人の心に澱のように溜まるモノが無い事を祈る。

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  水野 裕明
 
評価:★★★★☆
 ドキュメントなのに物語としての面白さにあふれた作品。「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるが、まさにノンフィクションはフィクションよりも面白い(場合もある。作家によるが……)ということだろうか。たった数十ドルのために4人も殺害したペリーも、計画を立てたディックも、さらには殺害されたクラッター家の人々も、KBI捜査官のデューイも、もちろん実在の人物なのだから、リアリティがあって当然なのだが、そのリアリティがこの作品世界の中でしっかりと立ち上がってきている。読み物として生き生きと描かれているのが凄いと思う。そしてちょっと怖いなと感じたのは、裁判の際に精神科医が提出した「彼らにとって他人は暖かく感じるとか、肯定的に感じる(あるいは、腹を立てる)対象という意味では、ほとんど現実的な存在ではなかった……自分自身や被害者の運命に関しての感情がきわめて希薄だった」というレポートが現代の青少年の犯罪とオーバーラップして感じられことであった。

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