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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2006年11月の課題図書

削除ボーイズ0326
削除ボーイズ0326
方波見 大志(著)
【ポプラ社】
定価1470円(税込)
2006年10月
ISBN-4591094723
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  小松 むつみ
 
評価:★★★
 人生をリセットできたらと、誰もが一度は思う。でも、もう一度やり直しても、うまく行くとは限らない。それが人生。
 ひょんなことで(我ながらイヤだな、このありふれた表現…)、削除装置を手に入れた少年。この物語のキーは、良くも悪くもこの「削除装置」なのだが、使っていくうちに、「いま」は複雑な過去の出来事の積み重ねと、必然の結果なのだと悟ることに。ひとつの問題を解決したと思えば、また別の問題が発生する。ようはそういうことなのだ。出口の見えないジレンマに陥っていく。
 軽く流されるように生きている一日一日でも、明日へとつながる、未来へとつながるかけがえのない一日なのだ。

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  川畑 詩子
 
評価:★★★★
 雨の中、固唾を呑んで何かを見守る小学生の集団という印象的なシーンから始まるこの作品。はじめは感情移入ができなかった。彼らの、物に恵まれているくせになんだか冷めたトーンや、早熟な感じに反発したのだと思う。すでに小六にしてかわいくない女子は男子の視界に入らないとは!小学生は小学生なりにクラス内の社交に気を遣い、距離や出方を探りあいながらつきあっていて、親友同士の主人公とハル、コタケとてお互いにちょっと距離をおいている雰囲気がある。
 それが時間削除装置「KMD」を手に入れたことで秘密を共有する仲間意識が高まっていく。さらに直球勝負の女子、浮石さんが加わって様子が変わっていく。
 彼らが立ち向かう事件や現実はかなり過酷だが、たとえ一緒に過ごした記憶が消されても友だちのことをかけがえがないと思う気持が芽生えたことと、地味ゆえに存在すら認識していなかった浮石さんを、ひとりの人間として「僕」が見られるようになったことに救われた。

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  神田 宏
 
評価:★★
 過去の出来事を「削除」できるなら? こんな夢がかなうなら、何を削除しようか? そう考えるとワクワクしてしまう。不幸な結婚をした人はそれをなかった事にするとか、恥をかいたことを削除するとか。でも、究極はやはりいとおしい人を生き返らせること(死んだことを削除する)ことでしょうか?(誰ですか、「あいつが生まれたことを削除したい」とか恐ろしいこと考えているのは!)そんなテーマを描いた学園エンタメ文学。小6のグッチこと川口(主人公)は転校生の浮石(ヒロイン)が高校生に絡まれているのを偶然、助けるがその場面を見ていた「フリマの人」からデジカメのようなものを貰う。それは、「削除装置」で過去の出来事を5分間だけ消せる機械だった。グッチはそれをKMDと名づけ(由来は読んでのお楽しみ)最初は、些細なことに使って(そうしているうちに壊して3分26秒しか削除できなくなる)、喜んでいるが、引きこもりの兄が自殺すると、その兄を生き返らせようとKMDを使う……兄の引きこもりの背景には親友のハルが車椅子の生活を強いられた過去が絡んでいて、3分26秒の削除が徐々に人々の過去を変えてゆく。複雑な設定が小学生達の生き生きとした学園生活を背景にさらっと描かれている。ただ、時間ものを扱うにしては細部の設定が甘い部分もあり、テーマの大きさについていけてない部分もあるのではと思えた。残念! 星ィ2つですっ!(一度、このコーナーで言ってみたかった。もう、しません。)

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  福井 雅子
 
評価:★★★★
 小学6年生の直都がフリーマケットで見知らぬ男からもらった「削除装置」、それは指定した時刻から3分26秒間の出来事を削除できる夢のような装置……のはずだった。ところが、削除装置を使うと、削除された時間以外にもその3分26秒間に関係のあった色々なことすべてが変わってしまい、何度も使ううちに混乱が起きて収集がつかなくなっていく。
 DELETEボタンひとつで過去の出来事を都合よく消すなんて、現実はそんなに甘くはない。起きたことは「なかったこと」にはできないし、自分のしたことにはたとえどんなに苦しくても自分で責任をとるしかないのだ。パソコンやゲーム機で、気に入らないことは「削除」、失敗したら「リセット」があたりまえになっている人たち、人とのコミュニケーションを避けるようにテレビゲームやインターネットのバーチャルな世界逃げ込んでいる少年少女たち、そんな人たちに是非読んで欲しい本。作品としてのまとまりという点でやや荒削りな印象を受けるが、アイデアが素晴らしいし、後半部分のストーリー展開には特に力があって、引き込まれた。今後が楽しみな作家だと思う。

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  小室 まどか
 
評価:★★★★
 グッチが女の子を助けた記念(?)に入手したデジカメもどきは、写した相手に起きた過去の出来事を3分26秒だけ削除できる不思議な装置だった――。
 現在を変えるために過去をいじる手立てとして、タイムトラベルではなく、削除装置というコロンブスの卵的アイデアを用いている点、かなり重いテーマに迫りながら、主人公に小学生たちを据え、コドモらしい要素も織り込み、緩急をつけている点がユニーク。
 避けられないタイムパラドックスのなかで、親友の足の自由を奪い、兄を引きこもりにした事件の意外な真相が浮かび上がっていく様は見事。ただし、登場する小学生たちがあまりに頭の回転が速く、打算的で、政治的で、大人びているのは、海千山千の大人が仮面をかぶっているようで、やや気になった。ともあれ、第一回ポプラ社小説大賞(+二足の草鞋を履かずともよい賞金)を射止めた、若き作者の才能に感嘆。次作以降も、あっと言わせ続けてほしいものだ。

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  磯部 智子
 
評価:★★
 もう一度小学6年生をやってみるかと問われたら即座に断る。それほど現代の小学生はピリピリ緊張した日々を生きている。主人公・直都は6年生、我が家にも同年の子供がおり、あら捜しをするつもりは無かったが(実は大アリか)人物造形にはどうも納得できない。直都は感性こそ幼いが行動は中学生並み、実際の12歳はもっと内面は大人でありながら、行動には大いに制約が加えられている微妙な年齢なのだ。それはさて置き、直都が過去の「出来事」を5分(後に3分26秒)だけ削除できる装置を偶然手に入れたことから物語は始まる。最初はたあいもない深爪をした出来事を削除した。次はカッターで切りつけられた出来事を削除し…子供同士の人間関係(途中から中学生と納得しながら読む)微妙な家族関係(父失踪・兄ひきこもり)などが描かれ、「なかったこと」にしたい出来事を削除していくが…最後に「二度と修復することはできない」事のためにある決断をする。どこか知っていたような設定(ドラえもん?)と、やり直しの安易さが最後まで気になった。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★
 期待するなというのが無理ではないか。なんといっても2746作品の頂点、文学賞は数あれどその賞金額で話題をよんだ第一回ポプラ社小説大賞受賞作だもの。
 世の中にあまた多く起きる事件の発端は、ほとんどが3分26秒以内の短い出来事に過ぎない――というプロローグから物語がはじまる。「ぼく」はフリマで出会った不思議な男から、デジカメのような装置をもらう。その装置はあることを削除できるものだった。
 主人公は小学6年生の少年。彼は手にしたその装置で何を消しただろう。そうだ、最初はこんなものだろう。だが一度味をしめてしまうと、自分の中で設定した“使う基準値”がどんどん下がる。装置を軸に見えてくるのは苦しくて、目をふさぎたくなる。知らないふりをしたくなる。まだ小学生なのにとなぜ?という疑問符が消えない。そしてそのとっかかりは確かに3分26秒以内に起きたこと。
 読了後、しばし自分ならいつの「時」を削除したいか考え、その考えを削除した。

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