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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2006年12月の課題図書
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自転車少年記
自転車少年記
竹内真 (著)
【新潮文庫 】
税込460円
2006年11月
ISBN-4101298513

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  久々湊 恵美
 
評価:★★★☆☆
自転車で旅をするっていいなあ、と学生時代に幾度か思い、社会人になってからも機会があればなんて憧れながら、単なる憧れだけで終わっちゃって、まあ実際はスーパーのお買い物くらいにしか乗らない自転車。
学生時代の友人にも、自転車で遠乗りしていた子が何人かいたけれど、今は乗っているんだろうか。
本作の登場人物たちは、子供の頃から乗っていた自転車にすっかりはまってしまい、大学生になっても、社会人になっても変わらず自転車に関わっていくのです。
どんどん自転車仲間を増やして300kmもの距離をラリーで走破していく様子は、うらやましいなあなんて気持ちにもなっちゃって。
とても純粋でキラキラしたストーリーなので、なんだか眩しい。
ややもすればなんだか青臭い感じもするのだけれど、まあそんな気がしてしまうのは私がひねくれているのかしら。ババ臭い?

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★☆☆
 車を運転するようになってからすっかり軟弱者に成り下がり(うちの近所は坂が多い)、最近ずっと自転車に乗っていない。初めて乗れるようになったときはあまりのうれしさに、「ずーーっと自転車に乗ってたい」と思ったものだったのに。
 自転車に魅入られた男子たち(最終的には30代まで描かれるが、感覚としては「男の子」だろう)の物語。竹内真という人はいつになっても素人っぽい感じの文章を書かれるが、内容と相まってそれが新鮮さや清々しさと置き換えられる作家だと思われる。この作品などは特にそういった感じが強く、成人してからも10代の若者の話を読んでいるような印象だ。
 主人公の昇平が自分の息子北斗に自転車を教える場面、親子で自転車ラリーに出場するため昇平が北斗を特訓する場面、ラスト自転車で走り出す北斗と妻の背中を見つめる場面。やはり親子の姿が描かれる部分にぐっときた。我が家の息子たちはどちらかといえばインドア派なのだが、今度いっしょに自転車に乗ろう。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★☆☆
 自転車を愛する主人公が自転車で上京してから、父親になって子供に自転車を教えるまでの物語。
文体も、描かれる風景も、登場人物もとても爽やかだ。自転車での冒険の際、いつも一緒にいる幼馴染。学生時代からの恋人。青春小説ならではの爽やかさが全編に満ちている。それは自転車に乗っているときに頬に当たる風の気持ちよさと重なる。自転車に乗ろうかなあ、という気になる小説だ。
しかし、ここには青春小説にあるべき苦さが欠けているように思うのだ。主人公が体験した失敗といえば、遠距離恋愛中の彼女に浮気がバレ、ふられそうになったことぐらいだ。それも、自転車で彼女の家まで謝りに行っただけ(あえて「だけ」と言う。なぜなら主人公にとっては、自転車で長距離走ることは楽しいことだから)で許されてしまう。青春小説を型にはめようとしているわけではないが、爽やか以外の味を入れて欲しかった。

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  島村 真理
 
評価:★★★☆☆
 自転車といわれたら即ママチャリを思い浮かべてしまう私。マウンテンバイクはオフロード、これはわかる。ロードレーサーにランドナー?なんだそりゃ?と、いまいちわかりにくい自転車用語に怖じけることはない。これはわかりやすい青春小説なのだから。
 昇平、草太、伸男の三人は幼なじみ。互いに自転車を愛し、自転車を通して大人になっていく。もちろん、友情だけでなく恋もあるし。挫折もある。昇平にいたっては、結婚した後の家族ドラマもある。ぐんぐんペダルを踏めば前に進む、景色が変わる、汗もかいて気持ちいい〜といった感じで、文句なく爽やかなのだ。
 いちばんの目玉は、東京から日本海を目指す自転車ラリー。草太が失恋を癒すために走った道を、サークルの仲間が踏襲し大きなイベントとなっていくところ。昔馴染みも総出演だし、ハッピーエンドも待ってる。単純明快。身体の毒気をすっかり抜いてくれるようなお話です。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★☆☆
 自転車で日本一周を果たした友人が私にもいて、その彼に誘われるままに自転車で二日がかりで中野から奥多摩〜軽井沢〜甲府と走った。もう20年近くも前のことだ。延々続く峠道をひいひい言いながら登った。その彼とは中国の内陸を自転車で旅したこともある。それらの記憶は、今でも自分の中で燦然と輝いている。自転車で長距離を旅するということは、やっぱり特別な体験だと思う。
 この作品の主人公たちに、私は自分や友人たちを重ねながら読んだ。物語の中の登場人物たちがそれぞれの人生を歩んでゆく。これといった事件など起こらない。ただ恋をし、就職し、結婚して親になるといった、誰でもが経験するイベントが日記を綴るような文体で書き記されてゆく。
 この本を手にした時、私はちょうど夫婦喧嘩をしていた。つまらないことで意固地になっていたのだが、読み終わった後、何故だかそれがどうでもよくなっていた。で、「ごめん」と妻にメールをしたら妻からも仲直りのメールが返ってきた。この作品のおかげです。ありがとうとお礼を言わせていただきます。

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  荒木 一人
 
評価:★★★☆☆
 自転車を軸にした、恋あり、笑いあり、涙ありの青春小説。爽快感抜群で、面白い。文体自体も平易で読みやすく、あっと言う間に読み切れ、気楽に楽しめる。読後感は、人生順風満帆。
 18歳旅立ちの日、昇平、草太、伸男の仲良し3人組は、南房総の風ヶ丘から東京西部まで100km以上ある距離を自転車でこぎ出した。自分自身のちからで、人生と言う、道に踏み出す事の様に。主人公の昇平の旅立ちから、大人へ、そして親へなる過程を軽快なテンポで描いている。
 なかなか楽しい作品なのだが、コンプレックスや挫折が少しある方が人生には味がある等と陳ねた人間からすると、ちょっと御都合主義的な感じがする。全体的に、登場人物の心理描写の掘り下げ方が物足りないので、余計にそう感じるのかも知れない。
 蛇足もいいところだが…解説の書評家のつまらないギャグでガッカリ。

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  水野 裕明
 
評価:★★★☆☆
 良質で健全な青春小説、と呼ぶべきなのだろうが……。何となく物足りない読後感は何故なのだろうか?自転車好きの少年たちが成長していく様子を時を追って描いていて、この作品はちょうど大学へ入るところからスタートしているが、その前の段階、小学生時代から物語は始まっているらしい(と、解説にはあった)。悩み多い中学生時代がどのように描かれているのかわからないが、この作品では主人公たちはごくごくまっとうな生活を送り、青春を謳歌している。先月の課題図書であった『太陽がイッパイいっぱい』の主人公のように大学を休学するわけでもなく、自転車部をつくり、それなりに挫折も味わいながらも成長し、恋愛をし、就職し、結婚していく。よかったよかったというわけなのだが、これが今どきの青少年?物語として面白いのだろうか?と、思ってしまった。と言って『ハリガネムシ』のような作品を良しとしているわけではないのだが……。注文の多い読み手で申し訳ないのだが、心の動かされる部分の少ない作品であった。

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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2006年12月の課題図書
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