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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2006年12月のランキング
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水野 裕明

水野 裕明の<<書評>>

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パンク侍、斬られて候 水滸伝(1) 自転車少年記 負け犬の遠吠え 文壇アイドル論 緋色の迷宮 獣どもの街 移動都市 ジョナサンと宇宙クジラ プラダを着た悪魔

自転車少年記
自転車少年記
竹内真 (著)
【新潮文庫 】
税込460円
2006年11月
ISBN-4101298513

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評価:★★★☆☆
 良質で健全な青春小説、と呼ぶべきなのだろうが……。何となく物足りない読後感は何故なのだろうか?自転車好きの少年たちが成長していく様子を時を追って描いていて、この作品はちょうど大学へ入るところからスタートしているが、その前の段階、小学生時代から物語は始まっているらしい(と、解説にはあった)。悩み多い中学生時代がどのように描かれているのかわからないが、この作品では主人公たちはごくごくまっとうな生活を送り、青春を謳歌している。先月の課題図書であった『太陽がイッパイいっぱい』の主人公のように大学を休学するわけでもなく、自転車部をつくり、それなりに挫折も味わいながらも成長し、恋愛をし、就職し、結婚していく。よかったよかったというわけなのだが、これが今どきの青少年?物語として面白いのだろうか?と、思ってしまった。と言って『ハリガネムシ』のような作品を良しとしているわけではないのだが……。注文の多い読み手で申し訳ないのだが、心の動かされる部分の少ない作品であった。

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負け犬の遠吠え
負け犬の遠吠え
酒井順子 (著)
【講談社文庫 】
税込600円
2006年10月
ISBN-4062755300
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評価:★☆☆☆☆
 本当に申し訳ないことなのですが、「負け犬の遠吠え」という言葉がそもそもはこの書物のタイトルであり、その概念が一般に広まったということを知らず、社会の一流行語としか思っていなかったので、課題図書を見て驚いてしまった。自分自身、ある人は勝ちで、そうじゃない人は負けというような、固定した評価の基準を持っていなかったので、言葉として流行している時点でも、どうして30歳台以上で既婚・子どもありが勝ち犬で、未婚で子どもなしの女性は負け犬、ということになるのかよくわからなかった。逆に30歳台以上・既婚・子どもありを負け犬としても、論は成り立つのではないだろうか?と考えて気づいた。それではこれまでの意見とあまり変わらないから、勝ち組・負け組という過激なワードを使い、身辺雑記的な内容と上手い論陣のはり方で、読者や社会をまんまと乗せてしまい、流行語となるほど本は売れた……と言うことではないだろうか。あまりにも陳腐な内容なので、ついついそう考えてしまった。

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文壇アイドル論
文壇アイドル論
斎藤美奈子 (著)
【文春文庫 】
税込660円
2006年10月
ISBN-4167717085

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評価:★★★★☆
 本当のことを言うと、この作品で論評されている作者の作品をいずれも読んだことがないし、あまり読んでみようという気になったこともなかった。けっこう偏った読書傾向を持っていたので、作者に関する知識は一般的な人が抱いているイメージと大差無いものであった。でも、でも、そんな独断と偏見の読書好き人間でも興味深く面白く読め、しかもそれぞれの作者の作品を読んでみようかなと思わせる作者論であった。特に、俵万智・吉本ばなな・林真理子・上野千鶴子という女性作家・評論家に対する論評は秀逸で、何となく世間の評判は違うよなぁ〜と思っていた、その違う点を明快に指摘していて、読んでいても楽しかった。4月の課題図書であった『あほらし屋の鐘が鳴る』でも書いたことだが、この作者、タイトルほどには暴論、異論がなく、うんそうそうと首肯かされてしまう話が多く、気持ち良く読めた一冊であった。

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緋色の迷宮
緋色の迷宮
トマス・H・クック (著)
【文春文庫】
税込770円
2006年9月
ISBN-4167705338
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評価:★★★★★
 これまでの多くのT・H・クックの作品のように過去に遡って主人公が抱いていた謎を解くのではなく、今、そこにある謎──息子は少女を誘拐して殺したのか、ということを解き明かす物語になっている。と同時に、妹や母の死に関する父や兄の持つ謎もまた解き明かされていく構造になっている。その過程で生み出されてくるのは、家族さえもが信じられないという何とも言えない焦燥感だろうか。子どもを持つ身としては、よく話しているようで本当に内心をわかっているのだろうか、と身につまされる部分も多く、まさに今の時代にぴったり合っているような気がした。これまで何冊か読んだクックの作品と同じような、いかにもクックらしい読み出すと最後までページを繰る手を止められない、途中で止めて続きは明日読もうと言うことが為づらい作品であった。

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獣どもの街
獣どもの街
ジェイムズ エルロイ (著)
【文春文庫】
税込820円
2006年10月
ISBN-4167705370

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評価:★★★☆☆
 「ブラック・ダリア」のジェイムズ・エルロイの最新小説集ということで、かなり期待して読んだ。1983年、2004年そして2005年の事件と主人公であるリックと恋慕する女優ドナとの関係を描いていて、かなりハードボイルドでノワールの雰囲気も満点。2004年2005年と舞台も現代でかなり親近感の持てる設定で、話そのものは面白いのだが……。やたら猥語やホモセクシャルの警察官への罵詈雑言が出てくるのにも閉口したが、それにもまして徹頭徹尾頭韻を踏んだ文章と、“/”を多用した表現がどうにも馴染めず、いただけず、読んでいても興を殺がれてしまった。ストーリーに入り込めたと思った途端に、文章がブツブツと切れていく感じで、読みにくいことこの上なかった。解説では、翻訳の方が原文の感じを残して苦労して訳したと書かれていたが、普通に書いてくれたらどんなに読みやすいだろうと、何度思ったことか。朗読してもらうと、講談のように聞いていると調子がいいのかもしれないが……。

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移動都市
移動都市
フィリップ・リーヴ (著)
【創元SF文庫 】
税込987円
2006年9月
ISBN-4488723012
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評価:★★★★☆
 時は遙かな未来。量子砲とかサイボーグなどSFに登場する超兵器が過去のものとなってしまい、知識が失われ退歩した時代。蒸気機関によって都市や村が船のように地上を移動して、小さな都市弱い都市を狩って都市を維持している、中世と未来がドッキングした世界。まずこの設定が面白い、と思ってしまった。しかも登場するのが飛行船や船をイメージした都市など一読、目に浮かぶようなものばかりで、物語世界のイメージが掴みにくい近未来SFも多いのだが、この作品はいとも簡単にその世界へ入っていけ、充分に楽しむことができた。ギルド見習いの主人公の少年や一緒に旅をすることになる顔に傷のある少女も魅力的で生き生きとして、宮部みゆきの『ブレイブ・ストーリー』とも通じる楽しさとワクワクさがある。でも、ちょっと気になったのは登場する魅力的な脇役たちが次から次へと殺されていく点。ちょっと殺伐としすぎではないかと思ってしまった。

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ジョナサンと宇宙クジラ
ジョナサンと宇宙クジラ
ロバート・F・ヤング (著)
【ハヤカワ文庫SF 】
税込840円
2006年10月
ISBN-4150115842
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評価:★★★★☆
 その昔、SFマガジンに載っていたロバート・F・ヤングの作品を読んだ記憶がある。その頃はハードSFやニューウェーブなど面白くて、SFとはこんな小説と思い込んでいて、そこにヤングの作品が載っていて一読、なんじゃこれは!とすぐに読み飛ばしてしまった記憶がある。今、課題図書でまたヤングの作品を読んでみるとやっぱりSFとはちょっと違うかなぁ〜という気もする。今のジャンル分けでいうとファンタジー?ここで描かれている多くの未来の世界もどことなく古めいてしまい、時代遅れの感も否めないが、昔読んだときと比べると描かれている世界を非常に好ましく思ってしまう。舞台は未来だけどもそこに生きているのはやさしさにあふれた、古き良き時代の人たち。心温まる物語はSFとかミステリーとかの範疇を超えて、読む人を癒してくれるようだ。同じような表紙デザインの今月のもう一つの課題図書『移動都市』の次から次へと登場する人物たちが殺されたり傷ついたりする物語と比べると、その印象には雲泥の差がある。

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プラダを着た悪魔(上・下)
プラダを着た悪魔 (上・下)
ローレン・ワイズバーガー (著)
【ハヤカワ文庫NV 】
税込693円
2006年10月
ISBN-4150411263
ISBN-4150411271

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評価:★★☆☆☆
 アメリカン・ムービーのドタバタ・コミカル映画の原作にぴったりの作品で、よくつくっているよなぁと感心してしまった。主人公アンドレアと編集長の関係とか、恋人や友人、そして編集長の取り巻きたちの描き方とか、いかにも教科書通りという感じで、読み初めはちょっと引いて読んでいたが、ストーリー自体もコミカルなので思わず笑ってしまいながら読み終えてしまった。ファッション誌の内情が実際にこの通りなのかどうかはわからないが、笑えることは確か!!ちょっと今の会社が嫌になって鬱々としている女性にはお奨めかもしれない……(どこの会社の我が社とあまり変わらないと思えるかも)。ただ長すぎるのがちょっと難点。主人公が編集長に対して『ミランダなんてくそ喰らえ。高価な服を才能のあるフォトグラファーに撮らせて素晴らしい雑誌をつくれるのだから、ミランダは何をやっても許されると思い込んでいる連中は、くそ喰らえ』と思い『くたばっちまえ』と言わせるためにこれだけの文字数を費やすのはあまりにも無駄では無いだろうか。

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