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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2006年12月の課題図書

竜巻ガール
竜巻ガール
垣谷 美雨(著)
【双葉社】
定価1680円(税込)
2006年10月
ISBN-4575235628
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  小松 むつみ
 
評価:★★★★
 表題作ほか、4編を収録。いずれも、したたかな女の話。
 たぶん男より女のほうがずっとずっとシタタカなのだ。女の私が言うのだから、間違いはないだろう。でも、そのしたたかさがあってこそ、男を支えたり、甘えさせたりできるのだ。
 女性の嫌な部分が、結構あっさり、あっけらかんと書かれている。しかしそれが、ゼンゼンいやな感じがしないのが、この人のうまさだと思う。マイナス部分があってこその、プラスの価値の大きさみたいなのがちゃんと用意されていて、読後感も清々しい。
 破天荒な設定、唐突な展開も、無理なく読ませる。鷺沢萠を少し明るくしたような味わいで、今後の作品が楽しみだ。

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  川畑 詩子
 
評価:★★★★★
 すべて荒天を連想させるようなタイトルがついた4つの短編集。ことに後半二作は、働き続けた結果、気付いたら30代後半に突入していた女性たちの気概や、やるせなさをうまく捉えている。
 また、著者の愛でしょうか、食わせ者がどことなくチャーミング。山師の父親がとんでもない場面で男の余裕を見せて、それがちょっと格好良かったり、化かし合う男女がとてもお似合いのカップルに見えてきたりする。
 ……表題作だけはやや男性読者にサービスか? それでも生活の描き方が細やかで、気持ちいい。たとえばやもめ所帯を助けてくれた伯母さんの手法は、小学生だった自分に一から家事を手ほどきするというものだったとか、再婚前は夕食後に父親と洗濯物をたたみながらいろいろと話をしたり、時には父が果物を剥いてくれたこともあった、とか。そんなエピソードが光る。
 彼女たちはプライドを砕かれてどん底に落ちても、最後は自分の性に合う道に向かって再び立ち上がる。嵐が去った後の晴れ間を見たような、すがすがしい読後感でした。

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  神田 宏
 
評価:★★★★★
 しようもない自己保身。もの欲しげな他人への羨望。具にも付かない優しさに期待される返礼。そんなものにとりこ囲まれた人間関係に、まっとうな、実にまっとうな回答! まさに、今、必要とされる人生の指南書のような一冊です。
 表題作『竜巻ガール』、父の再婚相手の女性の連れがなんと今時のガングロ娘。そのガングロを落とした時の姿は清楚な女子高生。一緒に暮らすことになった「僕」こと「哲夫」の見たガングロ娘「涼子」の真の姿とは。詐欺まがいのどうしようもない親父を捨てて出て行った母親が連れてきた親父の再婚相手がこれまた親父に輪をかけたような詐欺まがいの女性であったことに驚きながらも呆れる「俺」を描いた『疾風マザー』。結婚に出遅れた女が一緒にいった旅先で川に溺れる愛人を置き去りにし、その愛人の妻が自分より若く美人であったことに嫉妬を感じるが、勤め先の次期社長候補のイケ面に言い寄られて優越感と疑心の間を揺れ動く。そんな女の気持ちを描く『渦潮ウーマン』。中国の山村から来日した若いインストラクターの夫を持つ妻が、貧しい山村を背景に写った、夫と少女の写真を見つける。その少女を日本に呼びたいという夫に疑惑を感じながらもある答えを見つけるまでを描く『霧中ワイフ』。
 本作がデビューとなる著者が4篇で描く人々の生き方は、ほろ苦いけれど今を生きる大人が失ってしまったまっとうな人生への処方箋なのだ。今後が楽しみな力量溢れる新人に脱帽!

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  福井 雅子
 
評価:★★★
 父の再婚で突然できた同い年の妹が、高校生の「僕」を振り回す『竜巻ガール』。ちゃらんぽらんな夫を捨て、あっけらかんと強かに生きる母親を描いた『旋風マザー』。川で溺れた愛人を見捨てて温泉宿から逃げ帰る女を描いた『渦潮ウーマン』。中国出身の夫の過去にまつわる秘密を見つけてしまい、思い悩む妻を描いた『霧中ワイフ』。
 この短編小説を構成する四編に共通するのは、今にもポキッと折れそうに弱々しく見えるけれども実はとても強かな女たちである。表題作では、自信のなさと孤独につぶされまいとして突飛な行動に走る弱さと、目的のためには手段を選ばない強かさが共存している女を、さらりと見事に表現している。たいていの女は、多かれ少なかれこの種の弱さと強さを両方持っていると思うが、それを破綻しない形でひとりの人物の中に表現するのは結構難しい。それをさらっとやってのけているところが、この短編集の上手さだと思う。

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  小室 まどか
 
評価:★★★
 「竜巻ガール」「旋風マザー」「渦潮ウーマン」「霧中ワイフ」という、いずれも巻き込み型の女たちとダメ男たちが繰り広げるオムニバス。それぞれ核となる女性の強い個性と属性を表すタイトルがつけられ、先の2編は男、後の2編は女の側から語られる。
 4人の女たちが陥る状況、巻き起こす事件の特殊性は目を引くが、そちらにばかり気をとられてこの作品の本当のおもしろさを見逃してはいけない。彼女たちは、あっと度肝を抜かれるようなたくましさ、強かさと同時に、実は、女なら誰もが思い当たる痛々しさ、脆さを持ち合わせている。この後者の部分を引き出すのは、何ともだらしなく情けない男たち、そして他人の痛みには鈍感な女たち……。気づけば自然と、身の周りの困った面々と苦い過去を思い浮かべているハズだ。
 男と女、強さと弱さ、非凡で魅力的な設定と平凡で共感を呼ぶディティール。さりげない対比のなかに成立している作品世界の危ういバランスを楽しもう。

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  磯部 智子
 
評価:★★★★
 遅咲きの新人作家が描く人間模様は、人肌の温もりと人生のほろ苦さがあった。4編から成る短編集の中には、美しく生まれながら自ら男に消費される人生に飛び込んでいく母娘の話、「インチキ商売」の父とその山師気質に愛想をつかした母に一癖ある後妻の話、35歳のOLが川で溺れる不倫相手を置き去りにした顛末など、どこか滑稽で逞しく懲りない人々が描かれている。何れも面白かったが、特に印象的だったのが最後の『霧中ワイフ』、中国語で書かれた手紙がぎっしりつまった菓子箱と写真を見つけたことから、ひとまわり年下の「誠実を絵に描いたような男」である中国人の夫・黄河に対して突然湧き上がる疑念。極貧の農村出身で、弟に仕送りして……「夫のことをどれだけ知っている」のか解らなくなり、「お人よし」の主観で捉えてきた事を全て別の視点で見直していく切なさ。心の揺れをそれはきめ細かに描写し、もう仕方がないと諦めかけたところで、予想を裏切りこれしかないと思えるほどの結末にたどり着く。どの作品も絶妙なオチが付いており、作家の人間観察の奥行きと、折り合いをつけるべき臨界点を知る包容力のある視点につくづく感心した。

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  林 あゆ美
 
評価:★★
 竜巻ガール、旋風マザー、渦潮ウーマン、霧中ワイフの4作が収録。カタカナ文字を読むと、共通するのは、女。
 書き下ろしは渦潮ウーマン。会社の上司と不倫温泉旅行している最中に、相手が変死してしまう。疑われてはと機転をきかせて家に逃げ帰る。自分のことがバレないかと落ち着かない日々を過ごしているうちに思ってもいない展開が……。
 へぇーと思わず声を出してしまうオチは好き嫌いが別れそう。紙の上の人間たちの、こうなればいいかな、じゃ、こうしてみようかなという試行錯誤が物語の中にうまく組み込まれていて読ませる。だけど、すらすらと予想どおりに進みすぎて、ちょっともの足りなく思ってしまうのだ。ここらでひとつ予想外の展開がほしいと、いつもいつも読者の欲はつきることがない。

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