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今月の新刊採点
>
【文庫本班】2007年1月の課題図書
>シンセミア
シンセミア(1〜4)
阿部和重 (著)
【朝日文庫】
税込 各525円
2006年10〜11月
(1巻)ISBN-4022643773 (3巻)ISBN-402264379X
(2巻)ISBN-4022643781 (4巻)ISBN-4022643803
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久々湊 恵美
評価:★★★★☆
とにかく全編を通して否が応にも続いていく横暴な権力支配と犯罪的な歪んだ性欲にまみれた物語。
膨大な数の登場人物たちが、それぞれの私利私欲でうごめく姿が不気味。これでもかというくらいに化け物の如く次々と現れる。
悪趣味なのかもしれないけれど、この複雑化した人間関係にゾクゾクしてしまいました。
それにしてもこの愛すべき人物が一人もいない町は何とも恐ろしい。人の抱える業というものの空恐ろしさを淡々と目前につきつけられたようでした。
話の材料は因縁めいたものも多数あり、日本的な作品に感じられそうなものだけれど、読後は不思議と翻訳したものを読んだように思える。
その突き放した視線で描いた世界が、さらに一枚壁で覆われているように思われたからだろうか。
ひどく下卑た世界をインテリな雰囲気で描くとこうなるんだろうか。
ラストまで読み終わった時の何とも言えない気持ちはまだ続いている。
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松井 ゆかり
評価:★★★★☆
阿部和重笑う〜。今までエッセイしか読んだことなかったのだが、曲がりなりにも(←失礼!)純文学畑の作家なわけだし、硬めの小説を書く人だと勝手に思いこんでた。「シンセミア」も「失われた時を求めて」(読んだことないけど)みたいな真面目な一大叙事詩だと想像してた。まあ、人間はこんなにも愚かで猥雑な存在なのか!とわからせてくれたという意味でも偉大な小説である。
登場人物がみんな器の小さい人物なのだが、それ故になのか、それぞれが次にどんな行動に出るか気になりページをめくる手を止められない。しかもこの小説、ミステリー風味もある。よくこれほどの大風呂敷を畳めたよなあ。
結末に向かってのドタバタは、筒井康隆っぽいなあという気がした。ひとつひとつのエピソードはバカバカしくすらあるのだが、すべて読み切った後には図らずも感動してしまうという不思議な物語。文庫本全4巻に臆することなかれ!
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西谷 昌子
評価:★★★★★
劇的に滅びるのではなく、誰も気付かないところで少しずつ壊れていく町が描かれる。俯瞰的な描写はほとんどないので、読者はさまざまな登場人物たちの目を通して滅び行く町の光景を目にすることになる。ビデオ撮影サークル(実態は盗撮サークル)のメンバーたち、ロリコン趣味の警察官、夫を愛さずに結婚した妻……。彼らは自らの欲求に従って行動しているだけなのだが、町に組み込まれたどうしようもない歪みに知らず知らずのうちに影響されているようにも見える。そして、大きな事件が起きる。もはや何が狂っているのかもわからないまま、人々は目の前のことを懸命に片付けようとする。
おかしいと気付いても何もできない無力感。暗い部分から目を背け、うしろめたい趣味に夢中になる人々。どこか他人事のように起きる数々の事件。このやるせなさ、絶望感が精緻な描写を通して伝わってくるように思った。私たちが今生きているこの国も、いつかこのような滅びを迎えるのだろうか。
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島村 真理
評価:★★★☆☆
神町という小さな田舎町で起こった、いかれた事件を扱ったこの話。何でしょうね。セックスと暴力が吐きそうなほど用意されてて犯罪的で、“汚”ばかり書けばいいのか!とうんざり。それでも投げずに読み進むと、目が離せなくなります。不思議です。他人の不幸ののぞきみの楽しみというか、どこまでも加速してつきぬける疾走感というか。
小さなコミュニティの事件というのがミソなのかもしれません。人と人とがいやになるくらい密着してて、そのうえ昔からの因縁がある。いつまでも変わらないと思われていた常態が突然崩壊する、それをライブ感覚で楽しめるのが魅力かも。すべてが複雑に絡まっててすっきりしないところが、深読みできるし、唐突な太字も意味深。
そのうえ、UFOや幽霊話のような超常現象の話が挿入されたりして、いったいどこへ行き着くのか想像ができない。きっと読む人によって、また、読むたびに印象が変わる本なんでしょうね。
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浅谷 佳秀
評価:★★★★★
全4巻を約1週間かけて読み終えた。読む前登場人物一覧を見て、その数の多さにたじろがされた。ただ物語の舞台が神町に限定され、展開も概ね直線的な時系列に沿っているので、多くの登場人物ごとのエピソードが錯綜している割には読みやすかった。とはいえ産業廃棄物処理場建設をめぐる対立によって殺伐とした雰囲気に満ちている神町を舞台に、方言丸出しの地元の人々が繰り広げる、ダークで猥雑なこの小説、決して気分良く読めるシロモノではない。
主要な登場人物の多くが、閉塞的なムラ社会の中で刹那的、享楽主義的な生き方を志向している。某巨大掲示板サイトで所謂DQN(某テレビ番組のタイトルを語源とする)と称されるような連中ばかりだ。序盤から不穏な空気に満ち、危うい均衡を保ちながら崖っぷちを歩くように展開してゆく物語は、終盤、一気にカタストロフに向かってなだれ落ち、最後は唖然とするようなオチで締めくくられる。ラベルのボレロをもっともっと壮大にしたうえで、その音楽を文章にした感じ。長い長い悪夢のような、しかし圧倒的な読み応えのある傑作だ。
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荒木 一人
評価:★★★☆☆
まさに「神町クロニクル」。著者の地元である、山形県神町を舞台に、これでもかと言う程災いが降り注ぐ物語。4冊という大長編だが、謎が謎を呼ぶ展開、面白い貪り読める。ラストはサプライズと言うか、古典的なドンデン返しと言うか。
読後感は、「えぇ!そんなに○×△のぉ!」
物語は、「パンの田宮」の創業者田宮仁の歴史から、ゆっくりと始まる。元々は青年団として組織されたグループ、二十代の男達のビデオ撮影サークル。若者の屈折した欲望が暴走する。そして、2000年夏季に起きた事件をかわきりに、次々と災いが起こる。
登場人物達の心理描写と山形弁の台詞が印象的。一読しただけでは、著者の真意を読み落としていそうな気配が濃厚。巻末の年表は、注意書きにもあるが他の作品を読もうと思っている方は読まない方が良い。年表は自分で作ってみては。
著者の「神町」を舞台にした、他の二作品「グランド・フィナーレ」「ニッポニアニッポン」も是非読んでみたい。
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水野 裕明
評価:★★★☆☆
小さな地方都市の猥雑な人間関係と、盗撮や覗きや少女趣味などの卑猥な行動を日常とする卑小な登場人物たち。マリファナやモルヒネ、コカインなどが蔓延し、犯罪すれすれあるいは犯罪行為さえも平然として行う地方の小都市の人々の営み……。それらをあたかも神の視点からのように淡々と記事的に綴っていく端正な文体が、大西巨人の「神聖喜劇」と似ていて読みやすかったためか、最後はどうなるのだろうという興味にひきずられて4冊というかなり長い作品ながら、あっという間に読み終えてしまった。物語としてのパワーや面白さというよりは、多彩な出来事やそれぞれの相関など小さなことを営々と語り続け、最終のカタストロフィへ向けて着実に物語を積み上げてゆく作者の力業で成り立っている感じで、後には虚しさと苦さばかりが残った。登場人物も多く、描き方も群像作品的なのでいずれが主人公とも言い難く、登場人物に感情移入しにくいのが難点かなとも感じた。
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