WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年1月の課題図書>メリーゴーランド 文庫本班

メリーゴーランド
メリーゴーランド
荻原浩 (著)
【新潮文庫】
税込620円
2006年12月
ISBN-4101230331

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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★★
つい先日公務員の方とお話しする場があったのですが、うつ病になってしまう人や自殺する人が多いのだ、という話を聞きました。
小さな会社であれば、責任の所在も自分が今いる立場も何に向かっていくのかも見えやすいのだけれど、とかく公務員という仕事は不透明な部分があまりにも多く、それに耐えられなくなってしまうのだろうか。
結論の出ない、というよりも出すことを目的としていない形だけの会議や、あちらもこちらも立たせるための無難な提案。
役所の人間達が『不思議の国のアリス』のテーマパークに登場する不可思議でシュールな人物のように思えてきます。
変化を起こす事が悪であると決め付けられるようなお役所で、自分の子供に誇れるような仕事をしたい!と立ち上がる主人公。
一個人が大きな組織を前に一体どこまで戦えるのか、という姿が実に爽快です!
役所勤めの方だけではなく、働く人みんなに贈る、可笑しくて哀しい応援歌。元気をもらいました。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★☆☆
 ここでめでたしめでたしか、と思ってからのページ数がけっこう長い。大団円かと思わせてちょっと苦めの結末に着地する、というのがいかにも荻原さんらしい。何でも経験していればいい話が書けるというものではないと思うが、著者の会社員としてのキャリアがこの小説に厚みを与えていると思う。
 会社(主人公啓一が勤めているのは市役所だが)というのは不思議な空間だ。学校のように同い年であるという理由で否応なしに同じ教室に囲い込まれて暮らさなければならない集団に比べれば多少は能動的だが、会社を組織する人々とて「ここで働きたい」と思った程度の共通項しかないとも言える。おいそれとは辞めるわけにいかないという心理的なプレッシャーはあるが、学生時代よりは他人ともうまくやれる術を身につけているというアドバンテージもあるわけだ。勤め人にとっては人生の大半を過ごすことになるのが職場。現実にはなかなか啓一のように行動できないとは思うが、だからこそ小説の中でくらいちょっと冒険してみたいものね。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★★
 経営難のテーマパークを立て直す役職に就いてしまった公務員の主人公。だが、上司も周囲の人間も全くやる気がないばかりか、見当はずれの提案ばかりを出してくる。
折しも、北海道夕張市の財政破綻の原因としてテーマパークの失敗が盛んに取り沙汰されていた時期だったため、ハラハラしながら読み進めた。民間では当たり前のことが通用しない公務員社会。民間で働いた経験を持つ主人公は、なけなしのノウハウと人脈を生かして企画を作り、半ばムリヤリ実行する。
頼りない感じの主人公が懸命に頑張って少しずつ事業を成功させていく様子は爽快だ。とても無理そうなこの状況をどう打開するのだろう?と期待させてくれる。また、再生したテーマパークの様子もとても破天荒で面白い。エンターテインメント性たっぷりに楽しませてくれる一冊だ。

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  島村 真理
 
評価:★★★★☆
 久しぶりに気持ちよく読めた一冊。仕事って大変。思うようにいかない。つらいことばっかりで、ストレスもたまる。でも達成できたらおもしろい。そういう思いが浮かんできます。
 市役所勤務の啓一。同僚たちが過労死する職場を離れUターンし、今度は毎日定刻に帰宅できる公務員。安定しているとはいえ、いつも忙しいわけじゃなく、つまらない職場です。しかし、赤字続きのテーマパークの再建を、「平凡な事なかれ主義&現状維持」に反抗するように“やる気”を発揮していく。旧弊で、脳みそまで固まったくそオヤジ達をふりきって奮闘していく姿は、内心「大丈夫なの?」とひやひやしつつ、爽快でした。がんばってお父さん、ご苦労様と心から声援をおくった。奮起のきっかけが、息子の作文のためとはいえすごい。きっと、それ以上に“自分が楽しめる仕事”をやりきりたかったんでしょうね。ラストのほろ苦さが、成功の甘さをひきたててくれています。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★★☆
 お役所仕事の効率の悪さだとか、無駄の多さとかだとかは今更言うまでもない。私も以前、区役所勤めの友人から唖然とするような話をいくつか聞かされた。ここには書かないが、ホント、税金払うのがあほらしくなる話だった。定率減税が削られて年末調整の還付金が激減した今年は余計に腹立たしい。
 主人公が働く駒谷市市役所は、まさにそういう税金無駄遣いしながらぬるま湯にどっぷり、といった空気に支配されている「お役所」の典型。過労死が続出するような家電メーカーからその職場に転身した主人公は、それなりに馴染んで平穏な日々を過ごしていた。そんな彼が、赤字のテーマパーク再建に関わる部署に配転される。上司は無能で事なかれ主義、部下は頼りない。そんな職場環境のもと、彼は、テーマパークを運営する第三セクター(勿論、市のお偉いさんの大量天下り先)を相手に仕事を進めることになる。そんな彼の心の片隅に、小学1年生の息子が学校から課題として出された作文が引っかかっている。そのタイトルは「お父さんの仕事について」――。
 面白くて、所々腹が立って、やがてしんみり。お役所が駄目なのは、結局行政のトップが駄目だからで、それは更には国の…という根深い問題もちらり。この作者、硬軟自在で本当に芸域広い。

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  荒木 一人
 
評価:★★★★★
 面白い!同じ様な小説で「県庁の星」もあるのだが、この「メリーゴーランド」の方が現実感があり面白い。今回、立て直すのは、大赤字で閑古鳥が鳴くテーマパーク。
大団円とは行かない終わり方だが、すっきり。
 故郷駒谷へ9年前に戻って来た遠野啓一は、たまたま公務員試験に合格し市役所に勤務していた。新年度の異動で、市が出資している第三セクターに出向になる。「アテネ村リニューアル推進室」で集客増員の企画を任される。孤軍奮闘の啓一、立ちはだかるのは、役所の慣例に、天下りの年寄り達。そして、妻との微妙な軋轢まで発生する。何とか、一応の成功を納めるのだが…
 利潤を追求するだけの企業とは違い、問題が山積している話題の第三セクター。ずさんな計画を立て直すのは容易では無い。その上、政治が絡めば、困難を極めようと言うものだ。小さな市の話だが、行政を風刺した庶民の心意気を感じさせて貰えた。
 もっとも最後は、やがて悲しき宮仕えかなという感じ。

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  水野 裕明
 
評価:★★☆☆☆
「前例がないという言葉を枕に、時代に背中を向けて永い眠りについている。」「税金は使わないと損、と考えるのが役人という生き物だ。そして使い方をまるで知らないのも。」「老人会のカラオケ大会にしか使われないホールにパイプオルガンを設置し数億円を費やす」等々、読んでいる分には面白いが丸投げ、税金の無駄遣い、やる気のなさ、事なかれ主義……。今さら小説の中で事新しくかき立てられなくても充分に身近な市役所や役場で見聞きしている公務員の生態ではあるが、いざこういうふうに文章にされると改めて腹立たしくなる。そんな組織を相手に主人公は超赤字の第3セクターのテーマパークの再建を任されることになる。再建への紆余曲折と主人公の熱意に多くの人が動かされ成功するかのようにみえて、ラストはお定まりの形という、読み出してすぐに展開から結末までが見えてしまうような、きれいに収まった作品。といって主人公の頑張りで市役所自体の構造改革・意識改革が行われて、まったく違う組織に生まれ変わる、というストーリーではあまりにも嘘臭いから、これしかないのだろうが、注文の多い読者としては、もう少し斬新な、あるいは無茶苦茶な展開と結末を読みたかったような気もする……。

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