WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年1月の課題図書>強奪 箱根駅伝 文庫本班

強奪 箱根駅伝
強奪 箱根駅伝
安東能明 (著)
【新潮文庫】
税込660円
2006年12月
ISBN-4101301514
商品を購入するボタン
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  久々湊 恵美
 
評価:★★☆☆☆
お正月と言えば駅伝。ですが、実は朝っぱらから飲んでしまうため眠くなって今までまともに観たことはないのです。
そのウトウトしている時間に、こんなテレビ中継の裏側があったとは。
鉄壁のチームが真剣勝負で中継に、まさに命懸けなのだ。一分一秒の勝負を何時間も続けている。
何だかこんな事情を知ってしまうと、背筋を正して視聴しなくては、なんて気分にすらなってきます。
ただ、人の命より中継なんだろうか?と首をひねってしまうような部分もあるのだけれど。いや、それは単に私があまり熱心に駅伝をみていなからゆえなのかもしれないけど。
犯人のねちっこい要求が、この熱い中継スタッフと選手達と対比してとても効果的。
なんだけど、終盤にかけてやや失速の感じ。
あれあれ、随分緻密に計算してたよね?という感じはどうも拭えなかったかなあ。ワクワクしていた気持ちをそがれてしまった。

▲TOPへ戻る


  松井 ゆかり
 
評価:★★★☆☆
 時代は箱根駅伝である。今年は三浦しをんさんの快作「風が強く吹いている」の年だったわけだが、2007年の大会に合わせるタイミングで本書も文庫化された。私も箱根駅伝は大好きで、お正月2日3日の午前中はTV観戦以外に何もできない感じ。
 神奈川大学駅伝チームの女子マネージャーが誘拐される。人質の身を案じる大学側、駅伝中継を滞りなく完遂させたいTV局、犯人逮捕を最優先とする警察に、犯人が次々に要求を突きつける。劇的なストーリー展開に比べて人物描写は全体的に淡泊な中(主人公の存在感の薄さを見よ)、TV局の現場責任者幸田についてはその苦悩や怒りがいきいきと描写され興味深い。犯人の浅薄さには辟易。
結論。私怨がらみの犯罪は成功しない、そして、お金と復讐の両方をゲットするのは無理。
 ラストの絵に描いたような大団円ぶりは脱力を禁じ得ないが、爽快でもある。怪作認定。

▲TOPへ戻る


  西谷 昌子
 
評価:★★★★★
 一気読みせずにはいられない小説。
もし、箱根駅伝の放送が電波ジャックされたら? ……そんな状況下で起こる誘拐事件、その解決に向けて奔走する人々がサスペンス調で描かれる。事件が起こり、解決するまでの間ずっと箱根駅伝は続いている。果たして無事に駅伝は続くのか、どこが優勝するのか、放送は続けられるのか……手に汗握る展開が最後まで続く。
駅伝を走る選手たちが最後まで緊張を解けないように、冒頭で事件が起きたときの緊張が最後まで続く。ぴんと張り詰めた状況の中、次第に悪い方向に転んでいくように見える事件。緊張度を持続させながら、起伏に飛んだ展開で疲れさせない作者の力量に脱帽。ハラハラ度満点の作品だ。

▲TOPへ戻る


  島村 真理
 
評価:★★★★☆
 「正月といったら箱根駅伝」私もとうとう、こう言えるようになりました。まったりとしたお正月に、期待に反しない、まちがいのない、というお手軽な視聴者の希望にこたえてくれるから。
 さて、まずタイトルから、「強奪」と強気で、箱根駅伝中になにかあるらしいとワクワクさせる。誘拐事件に電波ジャック、駅伝とは相性が悪そうだが、時限的な息がつまるところは似てません?もちろん、われわれの期待を裏切らないサスペンスが仕込まれているのです。その手があったか!と納得させられます。
 後半の犯人のゆるさに、影が薄い警察関係者、できすぎの結末(と書くといいとこがなさそうですが)はもったいないと思いますが、放送を守りたいプロデューサーの幸田、そしてなにより箱根を走る選手達の底力が、奇跡は起こるべきと思わせて楽しめる本です。

▲TOPへ戻る


  浅谷 佳秀
 
評価:★★★☆☆
 何のひねりもない単純明快なタイトル通りの、箱根駅伝を舞台にした異色のサスペンス。神奈川大学駅伝チームの女子マネージャーの誘拐事件を巡り、駅伝のテレビ中継に携わるプロテューサーと、誘拐犯、警察の3つ巴の攻防が繰り広げられる。
 犯人の要求は駅伝のアンカーに予定されていた選手を出場させないこと。目的や動機不明の犯人に翻弄されるチーム監督、選手、警察。膠着状態が続くなか、箱根駅伝はとうとう本番を迎える。
 誘拐犯がいかにしてテレビ中継の電波をジャックしたか、また誘拐した女性をどういう風に手の内に置いて管理していたかという描写には、よくもまあこんなことよく考えつくなあと唸らされた。しかも対抗する警察とテレビ局の中継スタッフは、さらに驚愕のテクニックを駆使して犯人を追い詰めてゆく。駅伝の描写にスポットライトが当たるのは最後の競りのところだけ。しかし事件解決のクライマックスと、この駅伝レースのクライマックスとが並行する構成によって、このシーンがとても劇的な効果を生んでいる。マニアックなテイストに溢れた、引き締まった作品だ。

▲TOPへ戻る


  水野 裕明
 
評価:★★☆☆☆
 冒頭の駅伝練習の描写から、誘拐、そして駅伝放送の準備に忙殺されているテレビ局の様子まで臨場感もたっぷりに上手く描かれた巧みな導入から、誘拐犯の要求、警察の介入、そしてスタートする箱根駅伝とサスペンスは一気に盛り上がり、終盤では警察や犯人など主要な人物一人ひとりの動きとリンクさせながら、箱根駅伝の模様がリアルタイムで描写されていく。作者の取材の豊富さと熱意がひしひしと伝わってきて、ここまで書くのは大変だったろうな、と思わせるものがあるのだが……。誘拐サスペンスのポイントは犯人を特定し捕まえるまで、どのようにして読者の興味を繋ぐかにあると思うのだが、それを本作では、駅伝と生放送ジャックというアイデアで行っていて、これは斬新な試みであったのだが……。駅伝ファンの人には舞台裏とか選手の心理とかが分かってお奨めなのでしょうが、残念なことに私自身、駅伝にもスポーツ観戦にもテレビ局の中継の作業にもまったく興味がないので、読んでいても文字を追っているだけでまったく楽しめなかった。書き手の意図と読み手の好みのミスマッチ。たまにはこういうこともあるのでしょうな。

▲TOPへ戻る


WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年1月の課題図書>強奪 箱根駅伝 文庫本班

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved