WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年1月の課題図書>アンノウン UNKNOWN 文庫本班

アンノウン UNKNOWN
アンノウン UNKNOWN
古処誠二 (著)
【文春文庫】
税込570円
2006年11月
ISBN-4167717093
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  久々湊 恵美
 
評価:★★★★☆
自衛隊モノ。ということで、堅苦しいイメージがあったのだけれど、非常にとっつきやすいのだ。
登場人物たちがちょっと抜けた感じで魅力的な個性の持ち主ばかりだからなのか、自衛隊という組織が壁に覆われた近寄りがたいものではなく、ああどこの社会も似たようなもんなのね、と感じさせてくれるのです。さすが元自衛官の作者だけあって、日常のふとした自衛隊の様子や隊員達の日頃抱いている気持ちが随所に見て取れる事ができます。そんな世界観に思いっきりミステリーをぶつけてきたところがすごいなあ。
それも、殺伐とした印象のあるものではなく、なにか昔懐かしい上品なミステリー。
この2つが組み合わさってこんなにも痛快な物語になるなんて!
軽く読めるミステリーでありながら、自衛隊の存在という大きなテーマを反映しているこの作品は、非常に驚かされてしまいました。
このシリーズは第二弾もあるようなので、早速探さないとなあ。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★★★
 読了後、表紙の著者名をしげしげと見直してしまった。古処誠二がこんな小粋な小説を書いてたなんて!
 そもそも、古処さんが“メフィスト賞作家”というのがずっとピンとこなかったのだ。だってメフィスト賞っていったら、「コズミック」とか「六枚のとんかつ」とかのあれだよ?確かに古処誠二というのもたいへんにユニークで際立った個性を持つ作家だけど…と思っていたのだが、この作品を読んで!深く納得しました。これって…キャラ萌え小説じゃないですか!
 自衛隊内で発生した盗聴事件。解決に乗り出してきたのは、「ファッション雑誌の表紙が充分務まる」ような「自衛官にしておくのはもったいない顔」の27歳の朝香二尉だった。はっきり言って好きなタイプ。宮嶋茂樹氏による解説がややはしゃぎ過ぎで若干興を削がれるが、ミステリーとしてもしっかりした構成で、読んで損はなし!

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  西谷 昌子
 
評価:★★★☆☆
 自衛隊を舞台に起こるミステリ。誰も侵入できないはずの部屋に、なぜ盗聴器が仕掛けられていたのか――。
閉鎖された環境を生かして緻密に練り上げられたトリック。自衛官が抱くジレンマもさりげなく描かれながら、とても解けそうにない謎が次第に明らかになっていく。短いが、ミステリならではの楽しみを十二分に与えてくれる小説だ。
ただ、探偵役の自衛官の「コーヒー中毒」という設定が何を表しているのか最後までわからなかったところは惜しいと思う。また、作者は自衛隊の内部に相当精通しており、思い入れもあるように見える。だから、もっと自衛隊に踏み込んだ小説を書いてほしい、という気持ちが残る。

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  島村 真理
 
評価:★★★☆☆
 自衛隊の内部とはいかなるものか?隊長室から発見された盗聴器をめぐり、私たちがあまり知ることのない内部事情を暴いてくれる。
 戦争はしないという前提とは裏腹に存在する自衛隊という「軍隊」。でも、やはりそこは同じ日本で、いるのは同じ人間だということに気づかされる。そして、平和な日常を守るという大きな使命とともに存在しているということを。しかし、現実は、国防をまかせている自衛隊が、どういう活動をしているかを知らないし、それが一般的な日本人の関心の程度だろうし、地域住民の勘違いな反応は、われわれの無知さのあらわれであるのだろう。野上三曹は、防衛部調査班の朝香と内部調査に乗り出す。その様子は初心者への紹介ビデオみたいな役割も果たしてくれている。
 とはいえ、朝香はコーヒー中毒の気のいい人物で、野上三曹とのコンビが探偵ごっこのようでほほえましさもあっておもしろい。手軽な厚さだし、わかりやすい内容だし、自衛隊とは?という疑問を少しは解消してくれる入門書とも言える。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★★★☆
 自衛隊のレーダー基地を舞台としたサスペンス。著者は元自衛官だそうで、基地内の日常や、設備に関する迫真の描写にまず驚かされる。これは外部の人間が取材して書ける小説では絶対にありえない。ましてや機密事項だらけの国防の最前線のレーダー基地(解説の宮嶋茂樹氏によれば、御前崎のレーダー基地らしい)が舞台なのだから、外部の人間にはまず、取材さえも許可されないだろう。
 本作は、基地内の隊長室で盗聴器が発見されたことを受けての盗聴者探しという、言ってみればただそれだけの話なのだが、これがめっぽう面白い。もちろん基地内のリアルな描写の魅力というのは言うまでもないが、それに加えて、調査班から派遣されてきた朝香二尉のキャラが非常に魅力的というのが大きかった。物語の方は、盗聴といっても国際スパイが絡むとか、暗殺とかが出てくるわけでもなく、最後に大きなどんでん返しがあるわけでもない。はっきりいって地味なストーリーである。それでいて一旦読み始めるなりぐいぐい惹きつけて一気読みさせる。この作者の力量は凄いと思う。

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  荒木 一人
 
評価:★★★★☆
 メフィスト賞受賞作。自衛隊を舞台にしたサスペンス。閉鎖された社会である自衛隊での盗聴事件。敵は?味方は? デビュー作品とは思えない程読ませる。謎解きも王道的で読みやすいミステリ。爽やかな読後感。
 受話器からノイズを聞いた。大山三佐は、幹部候補時代の教官が言った言葉を思い出していた。指揮官はすべてを追求せよ。電話機を分解してみると、明らかに余分な部品が居座っていた。防衛部調査班の朝香二尉は、監視隊の野上三曹を補佐役として基地内の調査を始める。
 主人公の朝香(二十七歳)が飄々として魅力的で、相棒の野上が俗っぽい感じなのだが憎めない。どう言い繕っても、自衛隊は軍隊に包摂されている。そんな軍隊の中の話なのに人情味溢れる話に仕上がっているのは著者の実力だろう。
 題のアンノウンとは識別不明機の事らしいが、改題する前のUNKNOWNの方が良い気がするのは気のせいかな? 巻末解説は、本の内容の解説をして欲しい。文章は本当に不肖・宮嶋だよ(苦笑)

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  水野 裕明
 
評価:★★★★★
 帯のコピーが「さあさあ、どないだ皆の衆!自衛隊サスペンス小説は初めてでっしゃろ。」とかなり軽い調子の大阪弁になっていたので、“コメディー風自衛隊サスペンス”?という先入観を持って読み出したが、それはよい意味で裏切られてしまった。本当に面白くて、よくできた作品であった!!基地指令の電話に仕掛けられた盗聴器の調査という地味なストーリーながら、自衛隊の持つ矛盾や隊員の悩み鬱屈を表現した現代戦記とも読めるし、盗聴器を仕掛けた人物を探す日常の謎ミステリーとしても読める、充実の1作。登場人物のキャラクターづくりもよく、探偵役の防衛部調査班の朝香、語り手役の野上三曹を始め、上司の三佐や後輩の空士などそれぞれが巧みに描かれ、物語として奥行があり堪能した作品であった。が、先に呼んでしまった解説は個性を出そうとしてか、軽くおちゃらけた文体で実弾を撃ったこと云々と、作品とはあまり関係のない話に終始した自己満足・自己完結型解説で、帯のコピーと同じく完全なミス!!と感じた。帯と解説には目もくれず、作品だけを読むべし!

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