WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年1月の課題図書>ガールズ・ブルー 文庫本班

ガールズ・ブルー
ガールズ・ブルー
あさのあつこ (著)
【文春文庫】
税込500円
2006年11月
ISBN-4167722011
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  久々湊 恵美
 
評価:★★★☆☆
描かれているのはレベルの低い高校に通う、ごくごくフツーの高校生達のフツーの生活。
フツーなんだけど、思い切りキラキラしている。まぶしくて眼が痛くなるくらい。
こんなにも清々しくっていいんだろうかとさえ思ったくらい。そして交わされる会話もスピーディでとにかくドライブしている感じ。
ビバ、若さ!を味わいました。
高校生の頃。まあ、もう色んなことを思い出せなくなりつつあるけれど、将来のことや勉強のことに不安を抱きつつもあの頃は力いっぱい輝いていたなあ。
なんて遠い昔に思いを馳せました。
それにしてもこの作品に登場する友人達との距離感がすごくいいなあ。
体の弱い友達を、同情からあれやこれやと気持ちを押し付けることなく、時にはドーンと距離を離して見守るところが特に心地よく感じられました。
誰かのことを思いやる気持ちや距離って忘れがちになってしまうけれど、こんな風に友達を思えるって素敵だなあ。

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  松井 ゆかり
 
評価:★★★★☆
 自分は「あの頃に戻りたい」という感傷にだけはあまり縁のない人間だと思っているが、こういう小説を読んだときにだけほんの一瞬胸が疼くことがある。こんな友がいてこんな風に精一杯に生きていたのだったらよかったかもなと。
 児童文学出身の作家の小説を読むときに特にそうなのだが、そこで描かれる少年少女は微妙に“リアル”であるとは(少なくとも自分には)感じられない。例えば「シンセミア」に出てくる女子高生彩香などは多分に戯画化されていると思うが、より現実味を感じるのは彩香の方だ。もちろん本書の主人公理穂や美咲のような少女たちだっているだろう。でも彼女たちみたいな(そこにいるだけで静かにきらきらと輝いているような)存在は、美化された思い出や理想の中に在ってほしいのだ。
 乙女心は複雑だが、元乙女の心も複雑だ。それでも「今がいちばんいい」と胸を張って言えるように、遅ればせながらでも精一杯生きていこうと思う。

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  西谷 昌子
 
評価:★★★★☆
 高校生の少女たちの生活が描かれる。全編に漂う不安感が凄くリアルだ。主人公は勉強ができるわけでもなく、特技もない。主人公の親友は、美人で気が強いが病弱で、すぐに入院してしまう。彼女らは、よくある青春小説のように楽観的に笑い飛ばしたりしない。このままでは何にもなれない。どこにも行けない。そんな閉塞感を持ちながら、それでもたくましく生きるのだと自らを叱咤する。
進学でも、就職でも、一度取り残されたらそこから抜け出すことは難しい。特に今の時代は。それでも私たちは楽しみを見つけて、自分たちは無敵だと信じるしかないのだ、と思おうとする。現代の少女たちの、こういった気持ちを掬い上げられる作者はとても稀有な存在だと思う。

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  島村 真理
 
評価:★★★☆☆
 昔、17歳、という年に強く憧れていた時期がある。なにか特別なことがあって(なかったけど)、なにかすごいことが起こる(でもなにも起きない)と勘違いしてしまうステキな時間。そういう日々のことを思い出させるお話です。
 地元でも有名な落ちこぼれ高校に通う理穂、美咲、如月。大人たちの勝手な思い込みに腹を立てつつもお笑いにしたり、身体の弱さを笑い話にしたり、恋したり。これからどんどん直面するだろうリアルを知ってて、大人になっていく自分たちのこともわかってる。でも、そんなのを知らん振りしながら単調な毎日を笑い飛ばして、夢みてる彼らのことがうらやましいし、懐かしいし、応援したい、そういう気分にさせられる。
 印象的なのは、理穂の家で飼っている老犬の染子。彼らが海に行くのに無理やり同行して、童心に返ったようにはしゃいでる染子を見ていると、17歳をとっくに過ぎてしまった自分と二重写しみたいに思えてせつなく感じた。

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  浅谷 佳秀
 
評価:★★☆☆☆
 落ちこぼれ高校に通う、女の子三人、男の子二人の仲良しグループの面々が主な登場人物。その中の一人、理穂の視点での日常が淡々と描かれる。舞台となっているのは中国地方の地方都市。
 ファミレスでのたわいないおしゃべり、退屈な学校の授業、曇天の日の海岸にみんなで出かける…事件やドラマチックなイベントは皆無。主人公やその仲間たちにとって、何でもないひとときこそが、きらきら輝くかけがえのない時間なのだ。学校を卒業した後、彼らの人生に順風満帆、ばら色の展開が待っているなんてことはおそらくない。一番成績のいいスウちゃんの場合、家庭の事情で大学進学は苦しそうだし、他のメンバーは成績で無理そうだ。高卒での就職事情も楽観できる状態ではない。そんな八方塞がりの空気の中でも、彼らは屈託ない。メンバーの一人の兄がプロ野球選手になれる可能性があるが、彼らはそれを羨むでもないし、やっかむでもない。自分は自分、他人は他人。
 この作品、映像にするといいかもなあ、と思う。台詞を少なくして登場人物の表情に語らせ、アコースティックインストルゥメントの薄い音で作られたBGMをさらっと流す。まあ、ありきたりかもしれないけど。

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  荒木 一人
 
評価:★★☆☆☆
 青春ストーリー。落ちこぼれ高校に通う、高校生の日常を描いている。「バッテリー」の「あさのあつこ」を連想すると、ガッカリ。ちょっと面白い人間関係もあるのだが、会話文が多く、全体的には内容が薄い感じ。美味しそうな話の触りだけを、沢山聞かされた気分。
 人口六万人足らずの地方都市、地域のダストボックスと呼ばれる稲野原高校。彼氏の拓郎に振られたばかりの理穂、虚弱児で毒舌の美咲、超高校級野球選手の兄を持つ如月。スーパーの店員をからかい、地元新聞に投稿され、ネコの死骸を見つけ、花火を見て、海に行く。
 全ての話が中途半端に感じる。今時の高校生とはこういうものかも知れないが、共感できない。小賢しい屁理屈、醒めた言動、中途半端な覚悟。それでも時は過ぎていく。後悔するのは、まだ先の事なのだから。

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  水野 裕明
 
評価:★☆☆☆☆
 ほんと口当たりのよい、甘いチョコレートのような小品。耳に心地よい友達との会話とよくできたエピソード。多くの人が爽やかとか、小気味いいとかいう読後感を持ちそうな1冊。そのつくりはまるで広告コピーのような感じで、そういえばコピーライター出身の作家も増えていて、読みやすさや口当たりのよさを悪いとは思わないが、そればかりでは物足りないというか……。内容も、描かれている生活なり高校生たちの心情なりはこれまで多くの学園コミックなどでイヤというほど描かれたもので、今さらという気もして、かなり薄味に感じた1冊であった。まず本に親しむということであるなら奨められるかもしれないが、最初から物語の素晴らしさが感じられるような作品を読んで欲しいとも思ってしまった。

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