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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年2月の課題図書 文庫本班

あかんべえ
あかんべえ(上・下)
宮部みゆき (著)
【新潮文庫】
税込540円
2006年8月
ISBN-9784101369297

ISBN-9784101369303
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  荒又 望
 
評価:★★★★★
料理屋の一人娘おりんは、三途の川を渡りかけるほどの大病の後、他の者には見えない亡者たちの姿が見えるようになる。
すでにこの世を去った人が数多く登場するということで、現実味が薄くなりがちな設定ではあるけれど、描かれているのは、非常に普遍的な人間の姿。優しさや強さ、尊さ、愛おしさだけでなく、弱さや醜さ、ずるさ、哀しさ、それらがぎゅっと詰まっている。
とにかく、おりんがかわいい。利発でしっかり者で一生懸命で、他人のことも自分のことのように思いやる。周りからの愛情をたっぷり受けてすくすくと成長した、本当にいい子。おりんが喜べば読んでいるこちらも嬉しくなって、おりんが涙を流せば、こちらもつらくなる。どうかこのまま、まっすぐまっすぐ育って欲しい……と、親戚のおばちゃんのように見守りたい気持ちになった。
働き者で家族思いな善人ばかりでなく、悪人も罪人も出てくる。それでも、最後にはちゃんと救いがあり、光も見える。時代小説ならではのしみじみとした雰囲気のなかでファンタジーあるいはホラーの要素も味わえて、なおかつ、説教くさくもなく押しつけがましくもなく心が洗われるような、非常に中身の濃い作品だった。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 まるでドラマを見ているように臨場感たっぷりに楽しめた作品。(因みにワタクシ的配役は、主人公「おりん」に森迫永依ちゃんです。)
 江戸の深川に料亭を暖簾分けしてもらったおりんの両親。しかし、そこに登場するのは、押し寄せるお客ではなく、訳あって成仏できなかったお化けたち。事もあろうに大事な宴席で粗相をしでかす始末。そのお化けが見え、会話できるのはおりん始め一部の人。当初は「幽霊料理屋」名誉挽回のため奮闘していたおりんだが、お化けの情に触れ新たな企てを考え始めた。
 下町の店屋街、使用人、出入りの市井人、成仏できなかったお化けたち。登場人物がこれだけいても混乱しないのは、それだけストーリーの積重ねが出来ているからだろう。12歳さながらの利発さで果敢にぶつかって行くおりんに、やや出来すぎ感を抱くのは私の嫉妬だろうか。何故、お化けたちは成仏し得なかったのか。人が持つそれぞれの果たせなかった思いがわかるにつれ、私自身はすっきりと死ねるだろうか、と逆に不安になってしまった。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★☆
時代小説なのだろうが、「ナントカ候」とか「ナントカ奉り給う」といった時代用語(?)が使われておらず非常に読みやすい。それ以外の言葉の選び方もとても上手く、美しい。安心して、ああ、温かいなあと最後まで思える。宮部みゆきというと、ゾッとして心が冷え冷えとする作品も多いけれど、こういう温度のある小説は本当にいい。
 ストーリーは、江戸・深川に料理屋を出した一家の娘おりんを主人公に、そこに住み着くお化けたちの心の蟠りや過去の悔いを解きほぐすように進んでいく。お化けの話なんて全然読みたくもなかったけれど、読み終わってみたら「お化けなんていない」と自信を持って言えてしまう自分が急にものすごく嫌になった。お化けや亡者のことは、いまちゃんと考え直すべきもので、最後まで読むとそれがよくわかる。スピリチュアルとかなんとかテキトーなことを言う前に、大人も子どももとりあえず読んでみたらいいと思う作品。
 私がものすごく尊敬している人が「宮部みゆきは日本の財産だよね。」と言っていたが、まさにその通りだ。あぁありがたい、といつも思う。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 12歳のおりんの目を通して映る大人たちのやり取りは、なんだか笑えてくる。
 くだらない見栄をかけた争いで「お化け比べ」をしに来た客、孤児の勝次郎につらく当たる町の人、おりんに親切にしてくれた人に平気で‘貧乏人’と見下すおつたの姿。「あたし(おりん)には見えてるのにみんなには見えてない」のは、お化けだけではないと気付かされる。私もいらぬ見栄を張って生きている。おみつが自分の生前をおりんに知られたくないと思いつめるのも無理はない。おりんの心はとてもきれいだ。
おりんの実家で、物語の舞台「ふね屋」には、30年前から幽霊が住み着いていた。美男の玄之介さまや、あっかんべえしかしないお梅を始めとする個性溢れるお化けさんだ。
彼らがこの世に留まる原因を突き止めるために、おりんは一人で30年前に起きたある事件を解決しようとする。
登場人物が20人ほどいるのだが、それぞれにちゃんと生きてきた厚みを感じさせる描き方をしている点は読み応えがある。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★★
 主人公おりんの祖父七平衛は孤児だった。
かっぱらいなどをして生きていた十三の七兵衛は、ある日食い逃げを試みて屋台のそば屋のおやじにとっ捕まり、そのまま三年間おやじの世話になる。世の中のしくみ、身を立てていく術を教わった七兵衛は、ある日突然奉公先を見つけてきたぞと賄い屋に引き合わせられる。そしてその日、別れを惜しむ七兵衛に平気な顔でおやじが投げかけた言葉。
「俺はおめえを洗い張りにかけてやったが、仕立て直しはできねえ。だから、あの親方に預けたんだ。あり難いと思え」
物語のまださわりの部分、本編にはまだ到達していないエピソード。でもこのたった一つのセリフだけで僕は早くもダウンをくらってしまった。
 宮部みゆきさんの書く時代小説はいつも僕を虜にする。できることなら仕事も家庭も投げ捨ててこの小説とだけ生きて行きたいとさえ思わせる。そして別れの頃が近づくと、どうか最後のページには永遠に辿り着かないでくださいと、無理は承知で願っている僕がいる。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 ほんの十幾つであっても、女の子は立派に「女」なんだねえ、と。男がえてして、いつまでも「男の子」だったりするのとは正反対ですな。このお話の主人公・おりんちゃんの台詞の端々に、どきっとさせられるのは、自分の子供っぽさ故なのかもしれません。

 大病の後に、お化けさん(この響きが実にいいです)が見えるようになってしまい、彼らを成仏させようとして、三十年前の「事件」の謎を探ろうとするおりんちゃん。その過程で、見ずに済ませられるならそれに越したことのない、人間の汚い心根や醜い所業の数々を目にすることになります。宮部さんの語り口調の上品さ、優しさによって緩和されているものの、描かれている内容は、かなりシビアでして。

 でも、そんな状況であっても、見えてしまったものから目をそらざず、時に大人顔負けの態度と言動をしてのける彼女を見て、俺は「大人だー。この子ほんとしっかりした大人の女だよー」と感嘆しきりでした。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
 「おりんちゃんは聡いなぁ」
上下2巻を読み終えて、つくづくそう思う。
主人公は江戸・深川の料理屋「ふね屋」の娘・おりん。十二歳の春、死に病から直ってほっとしたのもつかの間、亡者が見えるようになってしまい、彼女の生活は一変する。
料理屋の仕事で忙しい両親にかまってもらえなくても、少女、若侍、姐さんなどのいろんなお化けが相手をしてくれる。
しかし、もちろんと言えばいいのか、お化けさん達との交流が楽しいばっかりのはずがない。
おりんが親身になってお化けさんの身の上話を聞く場面では何度も心を打たれた。なかでも、辛い過去を持ったおどろ髪の男とのやりとりではおりんの優しさ、温かさに包まれた。
お化けの恐ろしさに慄き、話を聞いては同情し、そしてどうしようもない悲しみに涙をこぼしつつも、テンポの速い展開に、最後まで一気読み。実に楽しい時代小説だった。それにしても料理屋「ふね屋」のご馳走の美味しそうなこと!

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