年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年2月の課題図書 文庫本班

穴 HOLES
穴 HOLES
ルイス・サッカー (著)
【講談社文庫】
税込620円
2006年12月
ISBN-9784062755870
商品を購入する
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
いじめられっ子のスタンリーは、干上がった湖につくられた少年矯正施設に無実の罪で収容され、同年代の少年たちと、来る日も来る日も大きな穴を掘らされる。
収容生がたがいにニックネームで呼び合う様子や、赤黒いマニュキアを塗った恐ろしげな女所長をはじめとするイメージしやすい人物設定など、そういえば子供の頃に読んだ本ってこういう感じだったよね、と懐かしさを味わえる。
スタンリーのフルネームが「Stanley Yelnats」と上から読んでも下から読んでも変わらない回文になっていたり、少年たちのあだ名がX線、ジグザグ、脇の下……といまひとつ由来がわからないものばかりだったりするあたりも、遊びごころがあって楽しい。
たがいの得意分野で助け合ううちに、スタンリーと1人の少年とのあいだに友情が芽生えていく。ずっとみじめな思いばかりをしていたスタンリーが、かけがえのない友達を得て幸せを実感する姿にほろりとなる。その後の、運命の大逆転も愉快痛快。
ところどころに挿入される昔話がうまく伏線となっている。これらのサイドストーリーも、それぞれ膨らませて単体で1冊の本になりそうな面白さだった。

▲TOPへ戻る


  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 よっしゃあ!思わず握り拳を高く掲げたくなる爽快感あふれる作品だ。理不尽な罪をきせられ、キャンプとは名ばかりの灼熱の大地に放り込まれた中学生男子。場所はテキサス。終日与えられた課題は穴掘り。そう、ただシャベルで穴を掘るだけ。その「だけ」のいかに酷なことか!理不尽なのは罪やその穴掘りだけではない。執拗に我を通そうとする指導員たち大人!お湯の出るシャワー。せめて石鹸を洗い流せるだけの時間。悪臭のしないベッド。労働を満たすだけの食事。せめてせめて水! これでもかこれでもかという仕打ちにも、子どもたちは「心」を失わない。友を思いやる気持ち。明日を信じる気持ち。このままでは終わらせないという強い意志。
 その時、自分ならどうする?非常事態にわが身を投影してみたり、ドキドキの急展開に子どもは勿論、映画「ショーシャンクの空に」に胸躍らせた人には十分堪能していただけると思う。
 愚かな報道が昨日も今日も続いている。「馬鹿じゃないの?」画面の向こうで子どもたちがせせら笑っている。何が正しいのか。何をなすべきか。わかってないのはどこのどいつだ。

▲TOPへ戻る


  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★☆
児童書なのかなー啓発本ぽいなー、とちょっと斜にかまえつつ読んだが、侮るなかれ、めちゃめちゃおもしろい。設定なんかはめちゃくちゃで、それはねーだろっ!と何度も突っ込んでしまうが、途中からはそういうところがもうどうでもよくなってしまう。とっても読みやすく、久々に楽しい非常にアメリカっぽい小説だ。
 グリーン・レイク・キャンプという意味のわからない児童更正施設がある。そこの湖は干からびていて、収容児童たちは1人1日1個の穴を良い人格形成のためにそこに掘らなくてはならない。なんだそりゃ!というところだが、その穴掘りがこの小説の核なのである。運のない主人公スタンリーが、無実の罪を着せられてキャンプに送られ穴を掘る。もちろん穴を掘るだけじゃ終わらず、超気持ちのいいどんでん返しが待っているのだ。ウフフフ。
 後ろ向きにポジティブな私なものですから「生きる元気が出る」みたいなキャッチの本を故意に避けていたけれど、これはとっても面白かった。オススメです。

▲TOPへ戻る


  藤田 万弓
 
評価:★★★★★
 「うおー!おもしろい!!!!」が、素直な感想だ。現在と百年も前の話が行ったり来たりする。
そもそも、スタンリーが無実の罪で人格矯正キャンプ、グリーン・レイクへ送られてしまったのも、四世代前のじいさんのせいだ。
スタンリーの家の男は‘ここぞ!’という時に運に見放される呪われた不運な家系なのだ。
だから失敗しても「あんぽんたんのへっぽこりんの」ひいひいじいさんのせいだから仕方ないと受け入れていた。
矯正キャンプでのスタンリーは毎日、毎日、無意味な穴を掘り続け、その肉体を使い切り投げ出さなかった。
そして命の危険と引き換えに、脱走した仲間のゼロを助けに行った。
どんどん逞しくなるスタンリーの成長を見て、私は一つ教訓を見出した。
小説だとしても突然、幸運は舞い降りない。置かれた状況の中で、ベストを尽し続ける力こそ、運命を変える力なのだろう。
サクセスストーリーとしても読めるし、ミステリーとしても読めるお得な一冊!

▲TOPへ戻る


  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 物語を通して伝わってくるのは、少年の人間的な成長と、正直者が馬鹿を見てはいけないと言う教訓。緻密な計算の上に繰り広げられた展開は驚きで、いたるところに伏線が張り巡らされている。更に加えてどんでん返しの大団円。まったくもって、頭が下がります。
でもね、なんだか疲れてしまいましたってのが読み終わった僕の正直な第一声だった。内容的に、もう少し削ぎ落とせるんじゃなかろうかと。
 ともあれスタンリー君はよくやったと思う。これ以上ないってくらいの不運に苛まれながら、ややナゲヤリだれれども最後までひねくれずによく頑張った。その頑張りがあったからこそ不幸が幸福に変わるわずかな波を引き寄せることができたんだもんね。
なにはともあれハッピーエンドでヨカッタ!ヨカッタ!

▲TOPへ戻る


  三浦 英崇
 
評価:★★★☆☆
 穴を掘らせては埋め戻させるのは、シベリア流刑囚の定番の仕事ですが、この作品では、埋め戻しと寒さこそないものの、水っ気一つない干からびた大地が代わりにあって、酷い人間関係と、やっていることの無意味さは共通、という、なかなかやるせない状況だったりします。

 こんな最低の環境に投げ込まれたら、そりゃもう普通は気が狂いますわな。少年・スタンリーが、こんな状況下で、時に恐れ、へこたれ、諦め、妥協を余儀なくされつつも、自分に降りかかった理不尽さに、少しずつ抵抗し、跳ね返し、ひいては対決してゆく。その過程には、心打たれるものがありました。

 成長物語の背景に、数々の計算しつくされた設定が絡んでいるところも良いです。スタンリーの現状に覆い被せるように、過去のエピソードが挟まり、はじめは「何か読みづらいなあ」と思っていたのが、終盤ですべて一点に収束し「おおっなるほどー」と思わせてくれる、そんな語り口に大満足。

▲TOPへ戻る


  横山 直子
 
評価:★★★★★
 なんかこう胸がドキドキするような幸福感に包まれて一気に読みきってしまった感じだ。
 主人公の少年・スタンリーが、ある無実の罪で矯正キャンプに連れて行かれるところから物語は始まる。
グリーン・レイク・キャンプとは名ばかりで、かつては湖だったその場所も今はただの荒地。そこで一日一つの穴を掘らされる日々が続く。
スタンリーがキャンプで出会う少年達にもまれながらも、いくつかのぎこちない友情が芽生える。その過程がなんとも心を揺さぶる。
悪ぶってはいるけれど、少年達の心の底にある美しい部分がキラリと見えるからだ。
スタンリーはここに来るまで、自分をあまり好きではなかった。それが「いまはちがう。自分が好きだ。」と感じている。この箇所が一番ぐっときた。
最後の最後まで話の展開にハラハラドキドキさせられる。
「えっ!」と声に出てしまうほどの驚きも一度や二度ではない。そして迎える大団円。
ナッツとホイップクリーム、バナナにチョコレートシロップがかかったアイスクリームサンデーをほおばる時のとろける幸せ、ここにありって感じです。

▲TOPへ戻る


WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年2月の課題図書 文庫本班

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved