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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年2月の課題図書ランキング

中庭の出来事
中庭の出来事
恩田 陸 (著)
【新潮社】 
定価1785円(税込)
2006年11月
ISBN-9784103971078
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  小松 むつみ
 
評価:★
 「わ〜、恩田陸の新作だー!」と喜んで読み始めたのだが、がっかり。
演劇ではまま使われる手法をとりいれた実験的意欲作ともとれるが、テクニカルな部分での実験に手足をとられ、肝心の物語の中身がお粗末に過ぎる。
何台ものカメラで撮った映像は、それぞれ違うものだろうが、映画として(または、ドラマとして)世に出るときは、すっきりと一本のフィルムに編集されるのではないだろうか。その編集前のフィルムを、同じシーンを取った違うカメラのフィルムを、ただ並べられたかのように見せられるような冗長さは、苦痛以外の何ものでもない。

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  川畑 詩子
 
評価:★★
  劇の中にまた劇があって、劇の外側のつもりでいたら、そこも劇。試みは挑戦的で面白いのだが、どうも仕掛けを楽しめず消化不良。めくるめく世界が展開されるかも、という期待感も薄かった。非常に些末なことなのだが、私的にはいかに劇の台詞とはいえ言葉遣いがフィットしないとアウトなのだ。
 女優たちは問いかける。どう?この結末で満足?謎解きはこんな感じで満足?え?まだ納得しない?−どきり。はなから読み違えているのかも私。

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  神田 宏
 
評価:★★★
  脚本家の不可解な死。それは、劇中の脚本の中のこと?それとも現実?、次の芝居のオーディション候補の3人の女性に向けられる疑惑。尋問する捜査官。しかし、そこにはスポットライトが輝き、舞台であることが分かる。その劇を語る2人の男。脚本家の謎の死を巡って、廃墟の駅舎を改造した劇場への道程を辿るが。
 多重構造になった物語は、虚と実の間隙をするすると縫うように進み、くらくらした眩惑を感じます。どこまでが演技でどこまでが真実なのだろう?複雑に絡み合った虚構世界はじわりじわりと、現実を侵食するようで不気味です。
 「新潮ケータイ文庫」に連載されたという、本書。この複雑な設定をあの小さな画面をスクロールしながら読み解くのは大変だったのではと、つい心配してしまう。ラストの大団円。虚の世界に著者も取り込まれてしまったのかしら、とやや鼻白みながら、ついつい映画『蒲田行進曲』を思い抱いてしまったのは私だけではないはず。

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  福井 雅子
 
評価:★★
  隠れ家的なホテルの中庭で催されたパーティーの席上で、脚本家が毒物によって亡くなる。自殺か? 他殺か? 殺人だとすると動機は何か? 中庭を舞台にした他の死との関係は? 謎が謎を呼び、作品の中でどこまでが現実でどこからが芝居なのかの境目がわからなくなる不思議な作品。
 珍しい構成の作品である。物語のなかに芝居があり、その芝居の中にまた劇中劇があり、入れ子の箱のような構造の作品なのだが、読者は、今読んでいるのが入れ子の何番目の箱なのかよくわからなくなってくるのだ。この物語における「現実」がどこにあるのかさえ見失ってしまい、私は物語のスパイラルの中で迷子になって彷徨ってしまった。最後には一応の決着を見て、答えは出るのだが、それでもまだ狐につままれたような感覚が残る。 
 作品としては面白い試みであると思うし、その点は高く評価したいが、迷子の状況を楽しめる「余裕のある精神状態」で読むことをお薦めしたい。

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  小室 まどか
 
評価:★★★★★
  作中に「ウエルメイド・プレイ」という言葉が出てくるが、この作品はさらに上……いわばエクセレントメイド・プレイ?!
 お芝居のなかからお芝居がマトリョーシカのように飛び出しては、またしまいこまれる構造。三人の女優が一つの脚本をそれぞれ脚色して女優を演じていたり、よく似た雰囲気の中庭がいくつも登場したりと、デジャ・ビュがうまく使われていて複雑にもつれあった筋だが、次第に「Aが、この世の誰よりも愛するCを殺したこの世の誰よりも憎むBをかばうために偽証するのはなぜか」という謎を解く内側のお芝居と「中庭の出来事」の真相を探る外側のお芝居の位置関係と演じ分け方があきらかになり、登場人物が一堂に会する終盤に一気に大団円を迎える。
 『木曜組曲』よりもオチのつけ方が気が利いていて、随所に引用されるシェイクスピアの「真夏の夜の夢」も雰囲気を盛り上げる。ぜひお芝居で観てみたい作品。夏、雨上がりの霧の夜に、清涼な高原の野外劇場で上演されたらピッタリだ。

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  磯部 智子
 
評価:★★★
  読みながら混乱した。物語が反芻している。中庭での脚本家の不可解な死、劇中劇かミステリか…虚(劇中劇、小説)と現実の3点の境界が曖昧に歪む。確かに日々の中にも演技が溢れている。相手が期待する人物像を演じたり、相手がそう思われたいと願う人物として扱ったり。しかもそれぞれが自分の脚本家を兼ね相手の役割まで書き込んでいるから厄介だ。それなら「真実」はどこにあるのか?事実と判断の一致を真実と考えた場合、事実は一つでも判断は無数にある訳だから真実は…そんな感覚が塗りこめられたこの小説は、迷宮の中に取り残されたように出口がなかなか見つからない。日々仮面を次々取り替えながら生きる人間やその判断、記憶に対するパロディとしてそのまま読み進むと、ある結末にたどり着く。ええっ閉じない作家が閉じた…どう考えればよいのか?この読み手の「判断」を映し出す鏡のような罠が2重の余韻として残る。ただ惜しむらくは小説世界の構築において幾分再考の余地があるのではないかと、小説酔いした頭でそう「判断」した。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★
  劇中劇? 劇の中に劇、現実の中に劇、劇の中に現実?? 
 読んでいて、いま何をどこを読んでいるんだっけと迷うのがおもしろいくらい、目の前の世界が、ぐんにゃり見えてきてしまう。あれっと思って、少しページをもどったり、いや気にせずに、すすもうと読んでいる自分はいそがしく自分と対話していたりしたのだが、それもめんどうになって、ひたすらすっぽり話に入る。すると、じんわりおもしろい快感が得られた。
 物語は、本のつくりでも、現実の部分、脚本の部分と文字に変化をもたせ、読み手に展開元を見させようかとしているのだ。でも、それにこだわらずに、物語をまるっと受け入れるのが吉。同じところを読んでいる(確かに同じところはあるが)のも、迷路の出口さがしをしているように楽しくなってくるのが不思議。

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