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どれくらいの愛情
白石 一文(著)
【文藝春秋】
定価1800円(税込)
2006年11月
ISBN-9784163254609
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
小松 むつみ
評価:★★★★★
白石氏の作品にいつも感じることは、心の奥底に静かに、しかし、しっかりとある「肯定」ということである。それは、私やあなたの存在に対する肯定でもあり、この世界、この社会についての「肯定」でもある。と思っていたら、あとがきにその旨をご自身が書かれており、私の作品へのアプローチを思わず「肯定」していただけたようで、大変うれしくなった。
また、私が白石氏と同郷で、作品の舞台・福岡に実際に自分がいるような感覚をおぼえ、わが身にひきよせて味わうことができた。さらには、表題作「どれくらいの愛情」では、登場人物たちは大いに博多弁をしゃべっている。ネイティブの私には、すんなりと心にしみてくる。他の言語圏の方がどれほど理解できるのか、多少心配ではあるが……。
とにかく、大人の恋愛小説、いえ、愛情小説の傑作とも言うべき一冊です。
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川畑 詩子
評価:★
作者の言いたいことが、ばしばしと伝わってくる作品。そのため、主張や感覚と相容れないとしんどい。しんどかった……。行間までびっしりと書き込まれていて、大事な点は何度も繰り返してくれるし、しかも後書きも懇切丁寧で、読解の手引き付きといった体裁。
主人公は、ストレートに作家の代弁者に思える。だから、二十代後半の元保育士の女性が語っていても、なんだかそう思えない。周りの人物は悪い人か超越したような良い人で、物語の駒に見えるし。
主な舞台の福岡は、おいしいものも沢山ある魅力的な町に思えただけに、残念でした。
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神田 宏
評価:★★★
「愛情」についての4篇。著者が「あとがき」で述べているように「目に見えるものの不確かのさの中に目に見えないものの確かさが隠され、目に見えないものの不確かさによって、目に見えるものの確かさが保証される」といったやや哲学的な命題に呼応するように各中篇には一つのアフォリズムめいた主題が投げかけられる。曰く「お前が、その人を幸せにする自信があるのなら、俺は身を引く。ただし、お前がその人に幸せにして貰いたいと思っているのなら俺は離婚は絶対に認めない。」(『20年後の私へ』)「誰かを失う恐怖から解放されるということは、永遠にその人を失わなくなるということでもあるのだ。それは、愛する人を失うこと自体が人間にとっての恐怖なのではなく、愛する人を失うのではないかという不安こそが、その恐怖の実体だからだ。」(『どれくらいの愛情』)非常に真摯な問いかけのなかで物語りは進行するのだが、命題に回答を与えるかのようなストーリーはやや硬直で伸びやかさに欠ける。そんな中、博多弁で書かれた表題作は硬さを補って読みやすかった。
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福井 雅子
評価:★★★★
5年前に別れた女性とのその後を描いた中篇の表題作のほか、人生の岐路に立つ女性に20年前に自分が書いた手紙が届く『20年後の私へ』など短編3篇を収録した作品集。
「目に見えないものの確かさ」を描きたかったと、あとがきにもあるが、「誰かを想う気持ち」に代表される「目に見えないもの」の大切さをストレートに描いた作品である。行間から湧き上がるようなメッセージのほうが好きな私だが、この「ど真ん中直球勝負」は気持ちよく受け取れた。それだけストーリー・テリングが巧みであるということだろう。
ただ、ひとつだけ気になってしまったのは、深く愛しあっていた相手が即席の芝居をしてもう一人の恋人の存在を告白したとき、それをすんなり信じて5年間も疑わない男や、結婚して12年経って初めて息子が自分の子ではないと知る男の不可解さだ。恋人との間や夫婦の間には、それこそ「目に見えない」確かな絆や、二人にしか感じ取れない微妙な空気があるはずで、長い間まったく気づかないという設定がやや不自然に思える。「目に見えないものの確かさ」を的確に描いている作品の中であるだけに、よけいに別の「目に見えない大切なもの」の欠落が小さな違和感となってしまった。
とは言え、真直ぐに生きようとする登場人物の姿勢や、著者のストレートなメッセージに、勇気をもらえる作品である。元気になりたい人にお薦めしたい。
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小室 まどか
評価:★★
帯につられて、ロマンチックで「贅沢な恋愛小説集」を期待して読むと裏切られるので要注意。確かに、中篇3作と長編1作のどの物語にも恋愛関係にある男女が登場するが、「現実よりもリアルで、映画よりも素敵な恋」なんてどれにもあてはまらないし、「涙」を誘う性質のものでもない。あとがきで著者自身が語るように、テーマは「目に見えないものの確かさ」であり、全篇を通して、身近な者の死や血縁関係の因縁が色濃く感じられる。むしろ恋愛の衣を纏った(利用した)宗教説話とか啓蒙書の類と考えたほうがよいだろう。
「自分とは何か?」という問いに答えるために、目に見えないものを見ることが必要だと断言する著者の自信は、表題作の預言者?木津先生を髣髴とさせ、若干押し付けがましく感じられる。話の展開が簡単に予想できるところと、登場する女性たちが、表題作の健気で気風のいい晶以外は、やけに計算高くてそのわりにだらだらと流されて魅力に乏しい点が残念。
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磯部 智子
評価:★
4編のうち3編が作家の出身地福岡が舞台。福岡にはしばらく住んだことがあり、行間から溢れるその空気その風土が記憶にカチッと当てはまる。考えの全てを詳細に描き切る作家が発信する強いメッセージがびんびんと伝わり(本が説教を始める)それを受け入れられない私は頭を抱え込む。例えば作中離婚をした女性が、亡き父に「そんな娘の失態を見せずに済んだのがせめてもの救い」だと思い、また保育士の女性はゼロ歳児を「平気で赤の他人に預けて働く親たち」は「“生みっぱなしの責任放棄”と謗られてもやむを得ないのではないか」と思う…らしい。またそれらには「現実に体験してみて」など自分の意見には実践的な裏打ちがあるのだと強調し、最後には「自分とは何か?」を問うため(その答に導くため)「目には見えないもの」まで動員するから更に困惑する。人間の所業に作家が考える制裁視点を持ち込みながら、一方で行き惑う現代人にスピリチュアルな啓示をもたらし、ある読者層を確実に獲得しているのかもしれないとふと思う吃驚仰天の小説集。
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林 あゆ美
評価:★★
説得力ある文体に、ある種迫力を感じてしまった。話のつくりもうまい、展開も読ませる。しかし、物語の声より、作者の声の方が大きく響いているように感じてしまった。
たとえば、「ダーウィンの法則」では、主人公の女性が保育士として働いた前職についてとうとうと語る場面がある。貧しい職場で働いたための固定観念が1頁半にもわたって展開されるのだ。その字面を読んでいて思った。おそらく、私はこの話の読者ターゲットから外されているのだろう。
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