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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年2月の課題図書ランキング

均ちゃんの失踪
均ちゃんの失踪
中島 京子(著)
【講談社】
定価1575円(税込)
2006年11月
ISBN-9784062136150
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  小松 むつみ
 
評価:★★★
 フーテン均ちゃんを軸につながった3人の女たち。その、世代も住む世界も違う3人に不可思議な友情が生まれる。そして彼女たちは、均ちゃんの失踪をきっかけに、人生を見直すことになる。
男と女というのは不思議なもので、百組いれば百通りの、組み合わせと恋愛模様が存在する。実に興味深い。だからこそ、恋愛はいつの時代も数多くの小説や映画のテーマ足りうるのだ。もちろん本書にも、そんな星の数ほどのとりあわせから、ちょっと奇妙な3組のカップルが登場する。ただし、少し違うのは、その片割れはすべて同じ男性だということ。同じ人でも、その相手の女たちは三者三様、バラエティに富んでおり、そして、それがちっとも不思議じゃない。クールな言い方をすれば、彼女たちは均ちゃんをひとつ通過点、ターニングポイントとして、あらためて人生を手繰り寄せ、新たなそれを紡ぎはじめる。
そして、均ちゃんは、以前のまま相も変わらず……。しかし、均ちゃんとの出会いが彼女たちにとって大いに意味ある人生の1ページだったことに変わりはない。

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  川畑 詩子
 
評価:★★★★
  均(きん)ちゃんと3人の女たち。それぞれのキャラクターがしっかりあって、誰もお話の装置になっていない点が心地よい。三人の女たちは、年齢も立場も様々。回を追うごとにその内面が見えてきて、彼女たちが愛おしくなってきた。第1話では、派手で威勢の良い図々しいお姉さんにしか思えなかった30代後半女子にも、テンポがずれたような関西弁のおばさんにも、それぞれの事情や思いがあるのだ。そして、その寂しさや日常の味気なさとか感情のアップダウンが手にとれるように描かれていた。
 一本気でプライドが先行しがちな若者の恋もあれば、淡いがスピーディーに進む中年男女の恋もある。また甘くて苦い不倫とその結末も丹念に描かれていて、淡々とした語りの中に、色んな人生が盛り込まれた、実は濃い口の作品でした。

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  神田 宏
 
評価:★★★★
  ぷらーっとどこかに居なくなった「均ちゃん」。その家に泥棒が入って、偶然出逢った3人の女性。元妻の中年美術教師。愛人の外資系イケイケギャル。そして、自称恋人の雑誌編集者の実直なうら若き女性。ひょんなきっかけだったが「均ちゃん」つながりの3人は、何となく温泉に行ったり、なんとなく飲んだり。不在の「均ちゃん」をよそに3人の恋愛模様が描かれます。どーしようもない「均ちゃん」が居ない間に、大きな決心をして、確かに次の一歩を踏み出す女性たち。そして最期にまた、ぷらーっと帰ってきた「均ちゃん」の目には、それぞれの女性のちょっとだけ成長した背中が眩しいのだった。
 不甲斐ない男のどうしようもない優しさと、等身大の女性の強さとを、ほんのりと肩肘張らずに描く秀作です。

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  福井 雅子
 
評価:★★★
  イラストレーターの均ちゃんが失踪し、後には元妻と二人のガールフレンドが残された。三人はそれぞれに悩みを抱えつつ、なぜか仲良くなってしまい一緒に温泉に行ったりもする。やがて三人はそれぞれに過去を吹っ切り、新たな旅立ちをする。
 ここに登場する人々は皆、悩みながら懸命に生きている。けれど、それぞれがどこかに温かみや寛容さをもっていて、作品全体にほんわかした空気が漂う。それがこの作品の大きな魅力になっていると思う。ろくでもない男の均ちゃんですら、なぜか憎めない。
 そして、三人の女の吹っ切れ方がまた見事である。長年抱えてきたものをあまりにも潔く吹っ切るので、読んでいるほうも爽快である。ずっとこだわり続けてきたものを、ちょっとしたきっかけで「もういいや」と思える瞬間──それを実にうまく表現していると思った。

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  小室 まどか
 
評価:★★★★
  女にだらしがなくて放浪癖のある自由人、均ちゃんの失踪中に空き巣が入った。警察に呼び出されたのは、大家で年上の前妻である景子、不倫中で均ちゃんはパートの彼氏だという空穂、仕事の関係者でもあり本命?と思われる薫、の三人の女たち――。
 普通なら険悪ドロ沼必至のこの状況が、著者の手にかかると思いもよらぬ方向に転がりだす。しかも、それを三人の女と均ちゃんのそれぞれの言葉を借りて、微妙に時系列を前後させつつ描き出していくのがうまいなと思うのだが、あー、見方によってこんなに世界は色が変わるのか、と感心するくらい、それぞれから受ける印象が違うのがおもしろい。
 典型的なダメ男のように思われる均ちゃんの魅力も、それぞれの出会いと失踪の原因が明かされるにつれ、次第に垣間見えてくる。彼を通過していく女たちの潔さが気持ちいい。景子先生の、「全部終わってから振り返ってみなさい……うわ〜、ぜんぜん濁ってへんわ〜」という言葉通りのさわやかな物語。

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  磯部 智子
 
評価:★★★
  初めて読んだ中島作品は、くすくす笑える軽妙な小説。ろくでもない男「均ちゃん」が失踪中に空き巣が入る。3人の女が関係者として呼ばれ、お互いの存在を知る。非日常的な出来事が日常に波紋を投げかけ、「私はいったい均ちゃんの何?」から連作短編が始まるのだが、年代、立場が異なる為その全く違う視点が面白い。3人は一緒に温泉旅行に出かけたり、かなりゆる〜く展開するのだが、これもありかなと思える。一つには均ちゃんの造形(いるいるこういう男)女性達もステレオタイプに陥る手前でかなり身につまされるエピソードが披露される。また「D&Gのスーツにマノロ・ブラニクの靴」といった具合に羨望混じりの揶揄は具体的に、誹謗が入る場合は「受け入れがたい妙なセンス」とイメージに止める女性心理をつかむ上手さもある。読者を味方につける書き手中島さん、その巧みさに感心し続いて『TOUR1989』を読み、その他も積読中。それにしても女性は変るが、均ちゃんは…どこまでも均ちゃんのまま、これは男と女の変わらぬテーマの一つなのか。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★★
  勝手に自分でカテゴリしている、ふわふわとした地に足のついていない雰囲気物語ではと、表紙のつくりから少し警戒していたのですが、どっこい、うれしく裏切られました。 3人の女性に共通する人物、均ちゃん。カレは必要とされる、もしくはされるであろう必要をかぎとり、カノジョらに寄り添う。それはしんどい時に食べたくなる甘いお菓子のような魅力がある。それなのに、大事な均ちゃんが、ある時いなくなった。探すといってもあてはなく。元妻だけは、適当な時にもどってくるでしょと達観している。ひとりの人間―均ちゃんが3人の最大公約数的人間として機能する。でもって、結果、3人の女たちもゆるくつながりはじめ、恋模様も移り変わる。
 共感するとか、自分にひきつけるとか、がんばらなくても、物語の心地よさを味わえる。よかった。

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