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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年3月の課題図書ランキング

最愛
最愛
真保 裕一(著)
【新潮社】
定価1575円(税込)
2007年1月
ISBN-9784103035510
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  小松 むつみ
 
評価:★★★
 そのテーマの多彩さと、綿密でドラマティックなストーリーが持ち味の真保氏の作品は、長ければ長いほどうれしくなってしまう。これは、それほどの長編ではないが、前述の点では変わりはない。
 小児科医として多忙ながらも充実した日々を送る主人公のもとに、長年音信を途絶えていた実の姉の訃報が届く。しかも焼死した彼女は前日に婚姻届を出したばかり。不可解なことばかりの姉の死の真相を追って、主人公は……。
 なぜこの主人公が小児科医なのか、読み進めながらも腑に落ちない。しかしてそれは、姉の死の謎とともに、その理由も得心が行くのだが、あまり後味はよろしくない。
 ミステリーだが、被害者と謎解き役が姉弟という設定もあり、事件の真相に迫るとともに、彼らの人生を振り返りながら辿っていくという構成は読み応えがあった。彼の作品には強い意志を持ち、行動力もある、心の強い人々が登場する。そして、作中の彼らに、自らを鼓舞されることもしばしばである。

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  川畑 詩子
 
評価:★★★
 罪とは何なのか。そして過去に罪を負った人間へ、自分はどんなまなざしを向けているのかを考えさせられた。
 が、しかしことはそんなに単純ではない。相手に前科があろうとまっすぐに、その人柄を愛するのがテーマと思いきや、ラスト間際に話は思わぬ方に向かっていく。たしかにその伏線はあったものの、予想着地点からぐっと外れていって、頭の中がぐらりと揺れた。育ての親の慈愛とか、過去を跳ね返すための努力や日々の積み重ねは一瞬で壊れるのか……。『最愛』のタイトルに偽りなし。ため息と共に読了。

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  神田 宏
 
評価:★
 18年前に別れた姉との再会は、最悪の形だった。頭部を銃で撃たれ病院に横たわる姉。事件の真相を探るべく、小児科医の弟「押村悟郎」は、事件の前日に姉と結婚したと言う「伊吹」の行方を捜すが。
 ミステリーとしての一定の緊張感は維持されるが、その背後にあるどうしようもない陰鬱な悲惨さは、一昔前の時代錯誤を感じさせる。やがて行き着くその結末も、紋切り型で大仰なタイトルとあいまって、これは本当に新刊本なのだろうかと勘繰ってしまった。ステレオタイプな鋳型から抜け出す力に欠けた一篇である。

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  福井 雅子
 
評価:★★★★
 小児科医の押村悟郎のもとに、18年会っていない姉が火傷と銃撃で意識不明のまま救急搬送されたと連絡が入る。姿を消した新婚の夫の謎を追い、事件の真相に迫る悟郎に、音信不通だった姉の18年の日々が少しずつわかってくる。
 ミステリではないが恋愛小説と言ってしまうのも少し違うように思える。敢えて言うなら、一人の女性の不器用な生き方とそれゆえのゆがんだ愛し方を描いた純小説というところだろうか。「姉」である女性の、何があっても負けまいとする強い精神力と、誰にも寄りかからずにひたすら真っ直ぐ、強く生きようとする姿は、感動を通り越して壮絶ですらあるが、気がつけば読者はその苛烈な半生に引き込まれてページを繰っている。作者が優れたストーリーテラーであることを再確認できる作品である。
 ただし、この作品の結末にはやや驚かされた。どんなことからも逃げずに立ち向かい、ひたすら強く生きてきた姉の半生に感動する弟(しかも医師!)が選んだ結論がなぜこれなのか。作者が敢えてこの結末を選んだ意図は? 読み終えて考え込んでしまった。

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  小室 まどか
 
評価:★★★
 小児科医の悟郎に、姉が意識不明の重態だという連絡が入る。姉は婚姻届を出した翌日に、サラ金の事務所に単身乗り込み、放火に遭遇、被弾していた。おまけに姿を消している新婚の夫には、殺人の前科があるという。悟郎は18年間音信不通だった姉の足跡を辿りはじめる……。
 足元をすくわれるような展開、姉の関係者たち(殊に執拗に姉の夫を追う刑事)のいやらしいまでに内面が透けて見える人物描写など、流石に読ませる部分も多いのだが、どうも主人公の悟郎が人間的魅力に乏しいのが残念でならない。最後に明かされる歪んだ事実に必然性が感じられないせいもあると思うが、恋人との関係や「最愛」の人に対する決断に端的に現れる、相手のことを考えているようで結局ひとりよがりの姿勢には、受け入れがたい薄ら寒さがある。
 推理小説としての側面をフィーチャーして、もう少し緊迫感を持たせたテンポのよい展開にしたほうが、作者の持ち味を生かせたのではないだろうか。

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  磯部 智子
 
評価:★★
 タイトルやあまりにみえ過ぎた伏線のため展開事態はすぐ読めてしまった。それで先ずミステリとしては評価できない。それなら恋愛小説として読むべきなのかと考えたら、これも又苦しい。小児科医の押村が、重傷を負い救急病院に搬送された意識不明の姉に18年ぶりに会うところから物語は始まる。それは姉弟の幸福ではなかった生い立ちを甦らせ、今なおその渦中に留まるような姉の人生を解きほぐしていくことになる。確かに読みやすいのだが、登場人物たちが自分の役割に酔いすぎており、押村の使命感も姉の正義感溢れる性格も、読み手を巻き込む共感とは違うところで空回りする。社会性などという詰め込み過ぎた大上段の様々なものを整理し、書きたいことを絞り込むべきではないかと思う。

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  林 あゆ美
 
評価:★★
 ずっと会っていなかった姉との再会は非情なできごとからだった。18年も音信不通の姉は、結婚していたのだが、その相手は意外な人物。そして、再会したとはいえ、ひとことも言葉が交わせないのだ。
 おそらく恋や愛は人の数だけ形があるのだろう。姉の愛する人、弟の愛する人、きょうだいの抱えてきた重荷はどうすれば少なく軽くなっていくのか。ついつい考えながら読んでしまう。重たい話を重量感たっぷりの文体で描き、それでも読ませる。ミステリのような謎を、弟がじっくり解いていくのにつきあっていくと、声を発しない姉の生き様が見えてきてせつない。

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