年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年4月の課題図書 文庫本班

キューバ・コネクション
キューバ・コネクション
アルナルド・コレア (著)
【文春文庫 】
税込760円
2007年2月
ISBN-9784167705350

商品を購入する
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 地名、人名、歴史認識。翻訳小説には毎度苦戦させられているが、今回の頭の疲労さには心地良さが伴う。先の3つの要素がこんなにも小説を盛り上げてくれた。物事は知るほどに面白さが増してくることを再認識させられた1冊だ。
 1994年キューバ。経済は危機状態に陥り、アメリカへの亡命者が後を絶たない。キューバ情報部員のカルロスの子どもたちも同様だった。と何気なく使用した情報部員とは?業務内容は?アメリカCIAとFBIも絡み、情報を得、機密を守り、自身の身の安全を確保するための男達のドラマがはじまる。
 全ての登場人物が出尽くしたかに思える後半100ページの面白さは息せきるものがある。「まさかまさか」と思わせて最後まで一気に引っ張っていかれる心地よさ。北上次郎氏絶賛のラスト1行を、間違っても途中で覗き見してはいけない。それは小説の根幹を揺るがすような行為だから。

▲TOPへ戻る


  藤田 佐緒里
 
評価:★★★☆☆
 冒険小説というのだろうか、こんな小説は初めて読んだぞ、という感じだ。設定や登場人物は少し古臭いのだが、とても楽しめるユニークな作品だ。
 かつて冷戦を戦った老スパイが荒波の中出て行ったわが子を救うために荒海へ乗り出す。キューバ情報部員の主人公が脱出するシーンはハラハラさせられっぱなしだが、見事で本当に面白い。
 家族愛というものが、言葉や建前だけで成り立つものではないということを考えさせられる。親が子を思う気持ちがこんなにも人間を突き動かすものなのか、そしてそれは言葉で言わなくても伝わっていくものなのだという暖かいメッセージがこめられているように思う。ダイナミックだがとてもハートフルな一冊です。

▲TOPへ戻る


  藤田 万弓
 
評価:★★★☆☆
 この本は、いくつかの顔を持っている。キューバの歴史をカルロスという一人の情報工作員からリアルに知るための読み方も出来るだろう。また、家族を守る一人の父親愛の物語として読むことも出来るだろう。それから、国民としての国に対する忠誠心を知る鍵でもある。もちろん、友情や愛についても語られている。
 いずれにしろ、1冊で人間が生きていく上でまとうべき様々なものを見ることができるだろう。
 最近、インテリジェンス(簡単に言うとスパイ)という言葉をよく耳にしていたので、この分野への興味があった。工作員が背負う宿命―例えば、工作員として働く間、家族にさえ自分の仕事を語ることが出来ない。こうした非凡な生活を送る人の人生を覗いてみたかったのだ。本書の場合、その長い勤務を終えて戻ってくると妻は自殺し息子と娘からの信頼は破綻し家族はバラバラになった、という悲惨な状況から物語は始まる。
 人にとって誇りとはそこまで大切なものなのだろうか?とカルロスという一人の男の人生を見つめ考えてしまった。

▲TOPへ戻る


  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★☆
 人生では過ちを取り消すことはできない。できるのはそこから戦法を変えて、ミスを挽回することだけだ。
人生をチェスに例えて主人公は物語の中でそう言った。まさに真理である。
仕事でおざなりにし家族の信頼を失った父親は、子供たちとの絆を取り戻すために嵐の海へ向かう。
 キューバといえばカリブに浮かぶ島国。しかも周辺で唯一の共産国。さらに長らくアメリカと戦闘状態に入ったままの国。そんなキューバの超一流の情報部員である主人公が、自国やCIAやFBIに追われながらも彼の信ずる道を最後まで貫き通してゆく。
 家族愛という言葉を使いたかった。しかし文末に北上次郎氏が書かれた解説の中で作品の根底にあるものとして表現されているので躊躇してしまった。普段なら文庫本の解説に北上氏の名前を見つけると小躍りする僕なのだが、同じく書評を書かせていただく側となっては実にやりくい。あと出しジャンケンで勝負しなけりゃいけない上に……いやいや相手にゃされちゃいませんね。

▲TOPへ戻る


  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 先日、元の会社の同僚達と旅に出たら、その中の家族連れのお子さま二人(5歳と3歳)にえらい気に入られまして。いまだに彼女さえいないのに、いきなり「お父さん」気分を味わった訳ですが……さすがに、この子らがいくらかわいいとは言え、一歩間違えば国家反逆罪に問われたり、潜入先の国でもさんざん追いかけ回されたりするのは、ちょっと勘弁願いたいです。本当に血を分けた子供だったら、どうだろうなあ、とも思うけど。
 戦うお父さんのお話です。平和ボケなこの国にいると、なかなか想像つかないけど、ボロい筏でも漂着できちゃうくらいの近距離に「敵」であり続ける超大国がある、という状況は、住んでる人らには相当ストレスたまるんでしょうね。そんな超大国・アメリカと、母国・キューバを敵に回して、引退間近の凄腕スパイ・カルロスが、息子と娘を守るために、勝ち目の低そうな戦いを挑む姿を見ると、おとーたんはほんと、大変だなあ、と思います。

▲TOPへ戻る


  横山 直子
 
評価:★★★★★
 帯に「静かな感動をよぶラスト一行。」とあった。
 このラスト一行読みたさに、カルロスやらマルセロやらフローロやら、似たような登場人物の名前を頭に叩き込み、そして冒頭にある主な登場人物のページを何度も見ながら、読了した。

「ひとりで生きる。それがおれの宿命なのだろう。」
 主人公は44歳のカルロス、彼が海外赴任からキューバの自宅に戻るとそこには彼の居場所がなかった。
 妻は亡くなり、残された三人の子ども達はもはや他人同然のようなそぶりしか見せてくれなかった。
 その子ども達がアメリカに亡命する過程で、彼は「自分の未来を自分ではどうすることもできない逃亡者」としての日々を余儀なくされることとなる。
 しかし、重要なのはここの部分なのだが、彼は逃亡の日々にあっても心は平穏だった。この理由はじっくりじっくりと読んでいただきたい。
 執拗に彼を追い回す敵の存在に辟易しながらも、展開が早くスリルがあって、一気に引き込まれてしまう。ページをめくるのが(登場人物確認のため)もどかしいほどだ。

 印象的だったのは年を重ねた男のかつての言葉。
「地球上のあらゆるものが消滅しても、家族と愛と友情だけは残るだろう」
 そしてお楽しみのラスト一行。しみじみ余韻にひたりました。

▲TOPへ戻る


WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年4月の課題図書 文庫本班

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved