年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年4月の課題図書 文庫本班

水に描かれた館
水に描かれた館
佐々木丸美 (著)
【創元推理文庫】
税込780円
2007年2月
ISBN-9784488467029
商品を購入する
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
 少女3人が次々と亡くなった館で、4人の家財鑑定人が訪れた直後から不可思議な事件が続けて起きる。
 どう表現したら良いのだろう、この雰囲気は。まず、決して読みやすい文章ではない。「この文章が好きじゃないなら、読んでくださらなくても結構よ」とでもいう感じ。大袈裟な芝居のせりふのような、ロココ調の家具で統一された部屋のような、白い襟のついた古風なワンピースを着た髪の長い少女のような……書いているうちになんだかわからなくなってきたが、そんな印象を受けた。
 ミステリーでもあり、ホラー的要素もあり、ラブストーリーでもある。もうすこしとっつきやすい文章ならば娯楽作品として読めるのかもしれないけれど、夢、記憶、暗示、心理学などに関する難解な理論が次々と展開されることもあって、途中で何度もギブアップしたくなってしまった。かなりの手ごわさ。
 この作品、献上すべき星の数を決めるのも、また難しい。好きか嫌いか、面白いか面白くないか、人にお薦めできるかできないか。基準はいろいろあるけれど、どれにしても実に難しい。考えあぐねて、きわめて日本人的決断の結果として、★★★☆☆とさせていただきました。

▲TOPへ戻る


  鈴木 直枝
 
評価:★☆☆☆☆
 こんなふうに簡単に人が死んでしまう小説が私は嫌いだ。いとこや遺産相続やらで人間関係が複雑なことは許せる。元来、いとこは7人だった。3人は奇怪と思われる謎の死を遂げる。残されたのは4人のいとこと山のような美術工芸品。その財産鑑定のために召集されたのは5人。揃って年若く思想や趣味趣向に一癖も二癖もあるばかり。小説の素材としては面白み十分だが、話を複雑怪奇にしすぎているとも言える。加えて佐々木丸美の書く文章のくどさ。大げさとも言える表現が鼻につく。次々起こる怪奇を受け入れようとするのだが、「それはないだろう」と逆に突っ込みをいれたくなる。中学生の頃「雪の断章」を夢中になって読んだ記憶のまま読み始めたが、「何にそんなに惹きこまれたんだっけ?」と当時をいぶかしむ思いだ。あとがきで単行本の刊行が1978年だったことを知る。1970年代版「デス・ノート」とすれば、いまどきの若い読者にも受け入れられるかもしれない。

▲TOPへ戻る


  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★☆
 一言で言うと「本当に不思議な」推理小説だ。設定はただの推理小説なのだけれど、でもただの推理小説ではない。不思議な読後感に妙に満足した一冊です。この文庫の装丁があまりにしっくりと来て驚いている。
 三人のいとこが死んだ。彼らの死後、財産目録を作成するために残りの四人のいとこが集まり鑑定師を呼ぶが、一人多い。誰が招かれざる客なのかわからないまま彼らは館で仕事を始めてしまう。そしてその後その館では意味のわからない出来事がどんどん起こる。もう誰にも止められないという感じである。
 ここまで書いただけでまたあの不思議な感覚が蘇ってきた。海外ミステリーのような雰囲気もありヒューマンドラマの要素もあり、そして少しファンタジックでもあり、一冊で三冊分くらい楽しめる充実感が味わえます。「不思議な」という感覚を堪能してください。

▲TOPへ戻る


  松岡 恒太郎
 
評価:★★☆☆☆
 この平成のご時世にえらく古典的な設定のミステリーだなあと思いながら読み始めた。
現実離れした洋館の中で繰り広げられる奇怪な事件。それを解き明かすのは、招かれたよりも一名多い鑑定士達、しかも誰もが一癖あるうえに胡散臭いときている。
 さらに読み進めるがしだいに疲れを感じ始める。ほどなく物語は芝居がかった謎解き合戦により幕を引く。
 消化不良を起こしたまま読み終わった後に、実はこの作品は二十年近く前に書かれたものだと知ってやや納得。しかも前作を踏まえてのシリーズ第二作でもあり、完結の三作目も控えているとのコトであった。
 すべてを読破すれば、消化不良でもたれた僕の胃も少しは回復するやもしれないが、残念ながらこの館で起こる他の事件にまで首を突っ込む気力がすでに失せていた。
さっさとこの館からは、退散させていただくとします。

▲TOPへ戻る


  三浦 英崇
 
評価:★★★☆☆
 帯に『〈館〉三部作第二弾』って書いてありまして、この本、ひょっとすると前作を読んでいないとダメなんじゃないのか、と思いつつ読み始めた訳ですが……案の定、その通りでした。これがゲームだったら、前作やっていなくても大丈夫、というパターンもあるかと思いますが。
 冒頭から幾度となく繰り返される、北海道の岬の突端に立つ館での、三人の少女の死(おそらく前作で描かれたのでしょうね)について理解せずに、いきなりこの作品世界に投げ出されてしまうと、登場人物たちの想いがいったいどこから来るのか、そして、数々の幻想的な事象が、何ゆえにこの館にもたらされているのか、を理解するのは相当困難かと思うのですが。
 正直、この作品単体で評点を付けるのは抵抗がありますが、ヒロイン・涼子の、思春期特有の揺れる想いの描写の見事さは堪能できたので、その分で評価。
 一作目探して買って読んでから、もう一度、この世界に戻ってきたいです。

▲TOPへ戻る


  横山 直子
 
評価:★★★★★
「やっぱりか弱き女性だ。その方がチャームだ。」
「涼子さん、石垣女史のようになっては駄目ですよ。あのヒスはいただけない。」
 言葉の端々から、なんとも言えず懐かしい気持ちとなる。
 はるか昔に読んだ本を本棚から引っ張り出して読むあの感じ。
 それもそのはず、これは1978年に刊行されたものの、待望の復刊なのだ。

 密室殺人が行われた館に集う数名の男女。
 ひたひたとしのびよる恐怖、互いを疑いながらも一緒に時を過ごさなければならない緊迫感…。
 その最中に、17歳の少女涼子の淡い恋や真面目だけが取り得の石垣女史の密やかな恋が生まれる。
 館の女主人である涼子のおばさんのなにごとにも動じない姿も実に印象的。
 人間の心理の不思議さ、深層心理のなせる業に、思わずうなる結末が用意されていました。

「私はコンブをかじっていた」
 涼子さん、私にもその美味しそうなコンブを下さいと言いたくなってしまう。(大汗)
 館のそびえる舞台は、コンブが美味しい北の地、そう北海道。

▲TOPへ戻る


WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年4月の課題図書 文庫本班

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved