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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年5月の課題図書 文庫本班

精霊の守り人
精霊の守り人
上橋菜穂子 (著)
【新潮文庫】
税込580円
2007年4月
ISBN-9784101302720
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  荒又 望
 
評価:★★★★☆
 新ヨゴ皇国の女用心棒バルサは、精霊の卵を宿したことで追われる身となった第二皇子チャグムを守るため、闘いの旅を続ける。
 なんだ児童文学か、と手を伸ばさずにいるのはもったいない。ぜひ、緻密につくりあげられたこの世界をすみずみまで見渡し、バルサの鮮やかな闘いぶりにしびれ、チャグムの成長を見守って欲しい。
 王宮という閉ざされた空間のなかで育ってきたチャグムが、外の世界を知る。バルサたちと旅をすることで、誰かが自分のために何かをしてくれることの尊さを学んでいく。強く賢くなったチャグムが、新しい人生に踏み出すラストがすがすがしい。
 それぞれの運命を受け入れて生きていく人々の物語としても読むことができる。望まないままに流れに飲み込まれることの苛酷さ。ずいぶん遠くへ来てしまった、と途方に暮れてしまうような苦さ。それでもまっすぐに立ち向かっていく強さ。この物語が心により深くしみ込むのは、もしかしたら、こんなはずじゃなかったのに、と後ろを向いても前を向いてもため息ばかりの大人のほうかもしれない。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★★
 凄い小説を読んでしまった。どうしよう…ファンタジー嫌いを返上しなくてはいけない。
 いやそれは「ファンタジー」という曖昧模糊とした表現より「壮絶」の一語に尽きる。
 それは運命であったのか、魂はおろか命までも奪われようとする新ヨゴ皇子のチャグム皇子を守る救い人として現れるのが主人公バルサ。妙齢をとうに過ぎた短槍使いの達人、女性である。この世とあの世、帝と星読博士、呪術師と聖導師、混乱しがちな登場人物を迷うことなく区別し、その人となりの豊かさに目を奪われる。上手い。もう二度と会わないかもしれぬ行きずりの人間に施す優しさや、血縁のあるなしに関わらず惜しみなくそそぐ愛情や、生半可な気構えでは生きられないからこそ厳格を叩き込む様など「壮絶」の中にあれもこれも盛り込みやがった。巧みだ。
 場面を想像することの楽しみを十分に味わったら、BS2で放送中のアニメも是非。親も子も、と言うより親のほうが嬉々として見てしまう。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 最近、やっとファンタジーにも馴染んできました。
 さて、今回の『精霊の守り人』ですが、文庫本として発売されて数日で重版になったという話題の作品です。ファンタジーは子どもの読み物だと随分長いこと毛嫌いしていたのですが、どうやらこの新ヨゴ皇国は私たちの生きている現実社会と同じことが起きているようです。
 精霊の卵を宿された第二皇子のチャグムを見ていると、勝手に役目を押し付けられた幼い少年に同情したくなる。まるで、人気の渦中にバッシングで引きずり下ろされたスターのような……。彼の用心棒、バルサもまた、自分の意思とは関係ないところで運命が動いてしまった女性だ。自分の半生と、チャグムの状況がリンクして愛情が生まれていくところは、短槍を振り回していても母性を感じる。
 建国神話の秘密を探るストーリーも、歴史は強者のためのものであるというリアルが潜む。権力に溺れてしまった聖導師たちが、本来の役目を果たせなかったことを悔いている様子も描かれている。
 望んでいなかった現実に負けない強さが、本当の強さだと思えた作品でした。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★★
 子供の頃、佐藤さとるさんの『だれも知らない小さな国』を読み終えた僕は、自分の周囲にいつもコロボックルを探すようになり、彼らの国が日本の何処にあるのかを真剣に考えた。
 そして今『精霊の守り人』を読み終わった僕もまた、かつてバルサやチャグムが活躍したという新ヨゴ皇国があったのは、この世界の何処のあたりなんだろうと思いを巡らしていた。
 上質なファンタジーは、いつのまにか読み手の頭の中で物語を現実とすりかえてしまう。
 王国の存亡や神話や先住民、それから自分たちが生きているのとはまた別の世界、そんな沢山のものが混ざり合って物語は進む。そして、その世界の深さには、文化人類学者である著者の実力が遺憾なく発揮されている。
 とにかくこの作品に出会えてよかったと思う。そしてなにより、彼らの活躍する物語をあと六篇も読める幸せに感謝したい。

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  三浦 英崇
 
評価:★★☆☆☆
 俺はゲームのシナリオ書きなんて仕事をやってたのに、ファンタジーというジャンルに、それほど親しみを持てずにいます。それは、かのジャンルの世界を成立させるための原理が、しばしば恣意的で、理に適ってなくて、読むに値しない浅さだったりするからです。そんなの読む暇あったら、SFやミステリや歴史小説読むってば、と。
 それで、この作品なのですが……要所要所に、どこかで聞いた神話や伝説っぽいエピソードが散りばめられ、既視感バリバリなのはともかく。「歴史は勝者の歴史である」という不変の法則をきちんと踏まえた上で、この世界の伝承を丁寧なタッチで作り、その裏の真相を徐々に読み解く、という、俺の大好きなジャンルで用いられる手法を、巧みに使いこなしている点では楽しめました。
 ファンタジーに対する俺自身の評価は、相変わらず高くなりそうもないですが。むしろ、俺なんかだと、アニメ化されたのを観た方が楽しめそうな気が……

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
「ママ、ちょっとこれ先に読んでもいい?」
今月の課題本の中から、娘がすっと抜いた一冊だ。
 異世界ファンタジーを次から次へと読みすすめている娘にとっては、馴染みがあったのだろう。
 私と言えば、「ハリー・ポッター」も途中で本を閉じてしまったクチだが、今回はしっかり読みきり、最後には泣きそうで泣けない状態となった。
 解説によれば、今はまさに玉石混淆の異世界ファンタジーブームだそうだが、初めて読了した一冊がこの本だったことは、まことにラッキーだったのだろう。
「ふいに出会い、また、ふいに別れてしまった」ある幼い皇子と女用心棒が共に過ごした一年たらずの時間。しかしながらそれは心を分かち合った充足した日々だった。
 精霊の卵を宿すという不思議、魔物に追われる恐怖、そして狩穴で過ごしたつかの間の安らぎの日々…まさに異世界にぐいぐい引き込まれるように読んだ。壮大なストーリーに心を躍らせた。
「さあ、食べましょうや」
「はい」と、思わず返事をしそうになる。
 二人が食べていた良い匂いが立ちのぼる弁当がなんとも美味しそうだった。米と麦を半々にまぜた炊きたての飯に、白身魚を甘辛く焼いたものがのせてある。
 ここを読んだ時点で、今夜の晩御飯は丼ものに決定!(^^)

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