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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年6月の課題図書 文庫本班

イニシエーション・ラブ
イニシエーション・ラブ
乾くるみ (著)
【文春文庫】
税込600円
2007年4月
ISBN-9784167732011

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  荒又 望
 
評価:★★★★☆
 合コンで出会った「僕」とマユ。やがて2人は恋に落ち、「僕」の就職を機に遠距離恋愛を始める。
 さて、困った。これはなんとも採点員泣かせの作品だ。帯には「必ず二回読みたくなる」の文字。さらに「最後から二行目は絶対に先に読まないで!」との注意書き。これだけで、何かがありそうだ、と大いに興味をそそられる。そして、最後に何か大きな仕掛けがあるのだな、と予想がつく。これ以上、何をどう書いたものか。「まずは読んでみてください」―これでもう充分ではないか。
 いっそのこと、敢えて禁を犯して、先に最後のページを読んでしまえば良かったのか? ひとつくらい、「先に読んだらこうなりました」という書評があっても悪くなかったのでは? そんなことも思ったが、読み終えてからでは、もう遅い。なので、もう余計なことは語るまい。まずは読んでみてください。くどいようですが、絶対に、ラストは先に読まないで! 以上!

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 文庫が好きだ。本文と解説と1冊で2度「読み応え」を体感できる。本書の解説は読書相談室でお馴染み大矢博子さん。本好きだけど生活者としての視点も感じるその書評は、まさに生きている言葉として伝わってくる。時代小説でもミステリーでも難解な小説でもあっちの世界と思っていたことが、すっと自分の側に引き寄せて読める大矢マジックがある。今回は80年代がそのマジックにかかった。巻末に寄せられた「再読のお供に」という解説は、感涙苦笑ものの名文だ。その大矢さんに「評判どおりの仰天作」と言わせた。根拠は最後から2行目にあるらしい。その先入観が不味かった。きっとどこかにある「落とし穴」を詮索しながら読んでしまったのだ。「ここかな?もうすぐかな?」すり足で落ちてしまった穴にさほどの痛さはない。「なーんだ。やっぱり」事前に結果を知っている試合を録画視聴している気分になった。
 「君は1000%」「SHOW ME」…各章の見出しが80年代のヒット曲。肩パット入りのジャケットでテレカの残数を気にしながら遠距離恋愛をしていた現在40代女子の面々にはお懐かし場面の連続だろう。騙される。物語のエンディングにその覚悟を決めても、読んでみる価値のある本だ。あんなにも誰かを好きになったこと「お母さん」にもあったのよ。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★☆☆
 合コンで知り合って恋に落ちるたっくんとマユ。お互いにウブな二人は、清く正しく時々美しくなく恋愛を育んでいく。とっても和やかで若々しくて純粋、高校生のような(こいつらはアホか!と若干本気で突っ込んだけど)二人は、紆余曲折を経ながらも青春時代を共に過ごしていく。
 というかんじの青春ラブストーリーなんだが、最後にあっと驚く仕掛けがされていて(実を言うと最初からその仕掛けは見えるところにあるんだけれど)、でもそれを言っちゃーおしまいだから説明はここまでにします。ストーリーについてもう何も言えないので主人公に関して言うと「オトナになってまでこんな恋愛をするんじゃねぇ!」と怒りたくなったのだけれど、これも最後までとにかく読んでみよう、と言って読んでくださいね。最後、ブルブルッときます。
 とにかくなーんでこんなに平凡な恋愛を描き続けるのかしらん?と思わせ続けるところにこの小説のミソがあります。
 では最後に一句。「騙される騙されるとはわかりつつ騙されることの快感よ」字余り。笑 気持ちよく最後まで読んでください。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 「フランス語の文法は女性詞と男性詞があるため、話す人の性によって名詞も形容詞も変化するのでミステリー小説を読んでいても犯人が女性なのか、男性なのか識別できてしまい、楽しみが減ってしまうという難点があります」
 と大学生時代にフランス語の文法について教授が話していたことをふと思い出しました。この話は「しゃべり言葉から」男か女か判断していた私にとって新鮮な切り口でした。つまり、「オレ」と書かれた登場人物が「そんなんじゃねえよ!」としゃべっていたら、「あ、男だな」と思ってなんの疑いもなく、読み進めてしまう自分に改めて気付いたのです。
 で、この『イニシエーション・ラブ』はそういうものを思い出させる小説でした。(詳しく書くとネタバレしますので書きません)それが、この小説の一番の衝撃だったし、面白さでした。
 ただ、saide-Bで登場する美弥子の恋愛観だけは頑なすぎると思いました。全体的に登場する人物がみんな恋愛で傷つくことに怯えている印象です。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★☆
 恋の始まりの切ない思いや、始めての恋愛に足を踏み入れた高揚感がひしひしと伝わってくる。
 時代背景がまた八十年代後半なのだ。携帯電話は登場せずテレホンカードが活躍し、ヤマハのジョグが駆け、ホンダのシティーが闊歩する。カーステから流れるのは杉山清貴にBOØWYときたもんだ、ああ懐かしい。
 そう言えば当時はCDがまだチラホラで、LPレコードがしぶとく生き残っていたっけ。副題である当時の流行歌がアルバムジャケットを真似た目次欄でAB面に振り分けられている。そうそうレコードって裏表をひっり返さなきゃ聞けないのが確かに手間だったよな、まったくもって懐かしい。
 しかし、そんな能天気な僕の思考は最後のページに辿り着いたとたん「はにゃ?」っと停止する。何が起きたのか理解するには暫く時間が必要だった。だが解った瞬間には「なにぃー!」と思わず声が出ていた。そして慌てて再読した。
 とりあえず、このヤラレタ感を共有したいんです。今すぐ書店に走ってください。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★★
 帯に書かれた「必ず二度読みたくなる小説」という惹句は、正確には「必ず二度読み返さないと気が済まない小説」だと思うのです。
 俺自身は、作者がどういう作品を書いてきたかを承知していたので、警戒しつつ読み進めていたこともあり、2部構成の「side B」に入るあたりから「あーなるほどねー」と思い、最後に至ってほくそえんだ訳ですが……さらっと普通に読んだら、甘酸っぱさと懐かしさに満ち溢れた、恋愛小説だと思う人が山ほどいそうです。うーん。奥歯に物の詰まった紹介しかできないー。
 恋愛小説として読むと、俺の現実と引き比べて、いろいろ身につまされる部分が多かったのですが、核心に言及しようとすれば、この小説にごくさりげなく、かつ周到にばらまかれた数々のピースが、組み合わさってどんな絵を描き出すのか、というところに触れざるを得ないし。
 とにかく読め。たぶん二度読むはめになるので、時間的余裕のある時に、ゆっくりと。

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  横山 直子
 
評価:★★★☆☆
残念ながら、この恋愛小説、私は二回目を読みたいとは思わなかった。
なぜなら、一回読んだだけで十分に満足したから、二回目を読む気にはならなかった。
と言うか、私が著者の乾くるみさんとまったくの同世代で、ページをめくる度に時代背景を含め、「そう、そう、こんなことあった、あった」と相槌を打ちたくなることばかり。
なので、一読で満腹状態となったわけです。
なにしろ「君は1000パーセント」、「ルビーの指輪」、「SHOW ME」と目次を読んだけでも懐かしいメロディラインを口ずさみならが遠い目となる。
きっと同世代にはたまらない一冊だろう。
地元が静岡の設定で、限定エリアの詳しい描写は静岡で学生時代を過ごした人にはさらにたまらないだろう。

あっ、もちろん私もページが残り少なくなってきたあたりから、「あれ?あれ?あれ?」と思う場面があったことは確かですよ、念の為。

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