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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年6月の課題図書 文庫本班

歳三 往きてまた
歳三 往きてまた
秋山香乃 (著)
【文春文庫】
税込840円
2007年4月
ISBN-9784167717278
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  荒又 望
 
評価:★★★★☆
 明治新政府が成立し、旧体制側となった新選組の副長、土方歳三の晩年を描いた小説。
 鳥羽・伏見で負け、甲州で負け、宇都宮で負け、会津で負け、箱館で負ける。負け戦と知りながらも突き進む。なぜなら、それが武士の生き方だから。切ない、という表現は違和感があるかもしれないが、やはり、切ない。
 全体的にドラマチックに描かれているが、暑苦しくはなく、読みやすい。この時代にさほど詳しくなくても、すっと頭に入ってくる。なにより印象的なのは、登場人物に向けられる著者の視線の温かさ。母のように、もしくは姉のように、優しく、慈愛に満ちた目でひとりひとりを見つめて、それぞれの人生に光を当てている。ほほえましい場面、思わず涙腺がゆるむ場面も多々。幕末・維新もの、新選組ものは何冊も読んでいるというマニアな皆さんも、本作の温かさ、優しさは新鮮なのでは。
 ただ、もしかしたら、ウエットすぎると感じるおそれもなくはない。そのあたりは好みが分かれるところかもしれない。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 NHK大河ドラマ「新選組!」に胸を焦がした人は懐かしさがこみ上げるだろう1冊。ノベライズを読んでいるかのように史実を人物中心に描いている。本書は鳥羽、伏見の戦以後、戦っては敗れ北へ逃れ、箱館五稜郭・戊辰戦争まで、土方歳三の最期に向かう物語だ。新選組と言えば思い出す池田屋事件についてもわずか10行、近藤も200ページ辺りで慙死してしまう。武器が戦法が服装が時代が変わっていく時勢に土方の変容とて例外ではない。「進め進め怯むな続け続け」鼻息の荒く、勝ちの理由にこだわった上り調子の時代から、勝利のために少年の命を犠牲にしたり、もう逢えない女性への気持ちを花に託してみたり。これを弱さととるか人間らしさととるか。
 教科書のアンダーラインが、「人」となる。命にはみな後景がある。無駄にしてよい命などひとつもない。会話を多用した演出はドラマで得た残像も手伝って、生き生きと読めるので550ページの大作も気にならない。これから受験勉強を始める人たちなら、前哨戦として楽しんで学べるだろう。土方のように「悪くない人生だった」と言うために。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★☆☆
 タイトルからはっきりわかるとおり、新撰組です。新撰組といえば、高校時代の同級生が熱狂的な土方歳三マニアだったな、いやーあれはすごかった…などと思い出しながら本を開きました。
 私の歴史知識は大学受験レベルにとどまっているので、新撰組と言われても詳しいことはあんまりぴんとこないのですが、本作は、幕末から近代化した武器(小銃とかね)を持たずして刀で闘った新撰組の愚直ともいえる清清しい姿を気持ちよく描いた作品です。
 ほとんど歴史小説を読んだことのなかった私は、なんともいろんなことが腑に落ちる思いでした。高校の頃のあの子は、この近藤勇の男らしさに惚れていたのね!とか、こうやって移り変わっていく世の中に身を置くことは今の世の中、今の社会でも同じようなところがあるよなぁ、とか。そして、こうやって自分の信じる道を真っ直ぐに生きられるということは、やっぱりどうしたって格好よく見えるし、私たちの永遠の目標でもあるのだろう、と感じました。
 受験の時にはどうにもわからなかった(というか記憶することしかしなかった)けれど、歴史は年表の上にあるんじゃなくて、生きた人の上にあったのだと思い知らされました。歴史小説を毛嫌いする癖をやめようと思いました。今更ですけれども。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★☆☆
 こういうことを描くと不謹慎だと怒られるかもしれないが、「戦う男同士の信頼関係」はなぜか男女の恋愛を思わせるものがある。
 昔から思っていたのだが、なぜだろう?特に今回の『歳三 往きてまた』は感じた。それはもしかして女性視点で描かれているからなのか?と、歳三像の変化で読み取れた。
鬼の副長と呼ばれていた歳三が、箱館に移ってからは、病死した総司にしてやれなかったことをしてやりたいとまだ少年の玉置を可愛がり、女に入れ込む相馬に対したしなめようとする野村に「相馬はてめぇじゃねェ。あいつの考えがある」といさめて多様な価値観を受け入れる姿勢を見せ「慈愛の歳三」へ変化していく部分も見所だろう。
一緒に戦ってきた仲間を失うことで、それまでの「死をいとわず突き進む」ことで得てきた生きるエネルギーが、「生きている」ことに重きを置くようになった。その変化が生来の前向きで柔軟な性格を持ち合わせている歳三の晩年の姿として理想的にまとめられた作品であったと読み終えて、すがすがしい気持ちになれた。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 土方歳三、享年三十四歳。その余りにも生き急いだ生涯を著者は淡々と書き連ねながらも感情のこもった作品にまとめあげた。
 物語の始まり、すでに新撰組には陰りが見え始めている。局長近藤勇は銃弾に肩を射抜かれ、沖田総司は労咳が進み戸板に乗せられ咳込んでいる。
やがては賊軍となり、櫛の歯が欠けるように古参の隊士が次々と屍になるも、土方歳三に一切の迷いなく、命尽きるまで戦場に身を置き続けた。
 読みながら何度も涙した。歳三の、近藤の、斎藤一の、不意に投げかけるサラリとした言葉がいちいち胸に染み入るのだ。
 歴史は決して覆らないと言う。一人の人間の力でどこまで歴史が変わるのかもはなはだ疑問ではある。がしかし、かの坂本竜馬と我らが土方歳三が生き延びた近代日本を見たかった。この作品を読み終えて今さらながらにそう痛感した。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 司馬遼太郎先生の数々の名作の中でも、一番好きなのは、やっぱり今でも『燃えよ剣』。幕末維新の激動の時代に、敗者側にいることを自覚しながら、最後まで明治政府と戦い続けた新撰組副長・土方歳三の鮮烈な生涯に、初めて読んだ中三の夏から魅了され続けています。そして彼の享年を越え、いまだ何事もなせていない自分を顧みて、しばしば慄然とします。
 とまあ、これだけ思い入れが深いため、なかなか他作品で満足のいく土方に出会えないのですが……この作品では、全盛期の新撰組については回想シーンのみで、鳥羽伏見の戦いから敗走し続け、仲間たちと生別、死別を重ねる中で、どんどん「漢」としての境地を高めていく。そんな土方の描き方に大満足。
 ええ、歴史的な事実を知ってますので、新撰組については、綺麗事だけでは済まないというのは重々承知です。でも。それでも俺は、こういう新撰組、こういう土方に出会える幸せを、今後も享受したいです。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
新撰組の土方歳三の生き様に惚れた。
そして男同士の友情に感動した。

土方歳三と近藤勇、二人が出会ったのは「トシ」「勝ちゃん」呼び合っていた少年時代。
その二人が痛みも喜びも分け合える唯一無二の男だと思えるようになる。
農民の彼らが武士至上主義の社会で夢を実現するために、己の剣だけを頼りに現実に挑み続け、不可能を可能に変えてゆく。
なんとすがすがしく美しいのだろうか!

戦い続ける日々は生死の現場を目の当たりにする日々で、「士は死に際が生き様に直結する。いかに死ぬかがいかに生きたかの指標になる」と悟る。
そしてその死に際を見て、「外からの介在とは無縁に、人はどれほどまでも高みに昇ることができるのだということ」を悟る。
要は「自分の心の有様次第なのだと」
感動する箇所が多く、本が付箋だらけになってしまった。
新撰組の男所帯の気楽さと楽しさも、読んでいて親しみがわいて実に楽しかった。
流行り始めの名刺を嬉々として使う歳三に、彼のまた違った一面を見た気がしてより一層親しみを覚えた。

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