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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年6月の課題図書 文庫本班

Q&A
Q&A
恩田陸 (著)
【幻冬舎文庫】
税込630円
2007年4月
ISBN-9784344409361

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  荒又 望
 
評価:★★★★☆
 大型商業施設で、死者69名を出す大惨事が起きた。そのとき何があったのか、その後どうなったのかを、さまざまな立場で惨事に関わった人々への質問と、それに対する回答だけで描き出す。
 ひとつ、何かが起きる。その何かに、何人かが直接的もしくは間接的に関わる。そうすると、その何かは、もう「たったひとつ」ではなくなる。人によって、見え方も感じ方も受け止め方もまったく異なる。関わった人の数だけ、いろいろな表情をもつようになる。何が正しいのか、何が本当なのか。その答えがどんどん増えていく様子に、とてつもなく不安になる。
 ページが進むごとに、恐ろしさも不安も募っていく。読むほどに、わからなくなる。惨事の痛ましさより、その後に起きたことへの嫌悪感が強くなってくる。「きっと神様は、もう人間に興味ないんだよ」という、1人の言葉が不気味に響く。そして最後まで行き着いたところで、ぽん、と放り出される。読後感は、ただ呆然。恐ろしい作品だ。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 物語は「不安」から始まる。これって私のこと?そう言えば新聞に似たような記事を見た気がする。場所は、家族連れでごった返す週末の郊外型ショッピングセンター。ここで何かが起こった、はず。でなければ多数の死傷者が出たりはしない。でも何が?死因は?犯人は?わからないことだらけの事件。物語は、事件の現場にいた人と真相を追究しようとする人の「Q&A」のが繰り返しだけだ。それは現場近くに居合せた新聞記者、無傷で現場から生還したがため事故後神聖化されてしまう子ども、レスキュー隊員、原因追求までの時間が長い。喪失感に苛まれていた人間が、問答を繰り返す中で見失っていた心の置き所を見つけ再生していく様子も伺える。時間や交換した言葉の数や風景の変化が人心も変えていく。そして著者恩田陸も手を変え品を変えジャンルを変え読者を酔わせ読ませる。その何れの書にもハズレはない。「縮小再生産に陥らないよう自分のハードルを上げ続けて新しいことに挑戦したい」という著者のインタビューを新聞で目にしたのはつい先日のこと。これで私と同じ年というのだから、やはり恩田陸恐るべし。っていうか私何やってんだろ。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★★
 タイトルのとおり、Q&A方式で進んでいくストーリー。「あなたの名前は?」「はい、私は…」から始まって、ずっとずっと最後までQ&A。こんな体裁の本は今まであったのだろうか。あったのかもしれないが、私はこんな本を初めて読みました。
 ショッピングセンターで、原因不明の死傷事故が起こる。火事?毒ガス?さまざまな証言が出るも、具体的な証拠はひとつもあがらない。まるで『藪の中』のような証言の食い違い方は、読んでいてほんっとに面白くてのめりこんでしまう。最後の最後まで真相がわからない、すんごいミステリー、完全犯罪のような小説です。
 この小説も『神を見た犬』に描かれていたような汎神論的な世界を語り始めていて、人間の強さも弱さも悲しさもがっつりと読めてしまう。事故だってただの事故ではなくって、社会心理をものすごくはっきりと映し出している。これらが相まって苦痛なくらい身にせまってくるのです。
 あぁ、人生を考えてしまう。これ読んでここまで考えさせられてしまう私は今、疲れているのでしょうか…。でも考えさせられながらも面白いから、やめられないんだよなぁ。

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  藤田 万弓
 
評価:★★☆☆☆
 フィクションの世界を現実の世界が模倣する社会である、ということをこの作品は言いたかったのだろう。はっきりと、本文中にもセリフでしゃべらせている。
 「Q&A」で物語を進め、ショッピングセンター‘M’で起きた重大死傷事故の謎を解明していくミステリーなのだが、「Q&A」も徐々に変化していく。質問者と回答者が次々と入れ替わりながら事件の全容を明らかにしていく仕組みになっている。SF的な要素を含んだ終わり方にはやや不満が残るが、本編にあたる対話を読むだけでも価値がある。短篇小説を読んでいる気分になれる。特に怖かったのは、タクシー運転手が過去の仕事の話をお客さんにポロっと話している場面。あとは、PTSDになった会社員の家族愛の話とか、とにかく恐怖心理が働くと人間は非現実的なありえない行動を起こしてしまったり、決して論理的ではない行動を起こすのだと見せ付けられる。それらを風呂敷のように包み込んでいるのが、ショッピングセンター‘M’で起きた原因不明の大災害なのだ。火事でも、テロでも、震災でもない。事件なのか事故なのかもわからないのに被害者も死者も出てしまった。誰も目撃者が居ない中で起きる事件は、人間の生み出す妄想の破壊力を思わせるのでした。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★☆
 その昔、打ち捨てられた一体の死骸をめぐって、その第一発見者や関係者や容疑者やその他いろんな人物が検非違使の問いに対して、順に答えを陳べてゆくという、謎が謎を呼ぶ物語がありました。
 その小説はあまりにも有名で、度々後世の作家のモチーフとなって新たな作品に姿を変えてきた。本書『Q&A』もまさにその一つと言えよう。魔術師恩田陸さんの手にかかって見事な現代版にアレンジされている。
 東京郊外のショッピングセンターで起こった死亡事故。多数の死傷者は出たもののその原因だけは杳として特定できない。
目撃者、被害者、遺族、関係者、聞き取り中心の対話形式で物語は進んでゆき、そしてしだいに浮き彫りにされてゆくのは、現代社会に潜む闇と心が病んだ人達。
 この世とあの世にまたがったラストまでがピッタリと符合して、満足脱帽の仕上がりでございます。
 そして真実は、藪の中。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 俺は演劇を観るのが大好きなのですが、この作品が採っている、「各シーンごとに登場人物が入れ替わりつつ、二人で会話しながら、起きている事件を徐々に浮かび上がらせる」という手法は、極めて演劇的なイメージを喚起します。舞台装置は全く置かず、ただ座る椅子だけが用意された、シンプルであるが故にごまかしの効かない二人劇。
 芸達者な役者を用意し、シナリオもよほど周到に計算されていないと、奇をてらっただけだと思われそうな、こんな冒険を活字でよくやってのけるよなあ。 語られる事件も、シーンごとに、その様相ががらっと変化していき、別に何も設置されていないのに、ごそっと舞台装置が移動しているかのようです。
 頭の中で「この場面はこの役者で、こういう照明と音響」みたいなのが、どんどん浮かんできて……どこかの劇団で、舞台化してくれないかなあ。実現したら絶対観に行って、俺の頭の中のイメージと答え合わせしたいと思います。

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  横山 直子
 
評価:★★★★☆
老若男女が次々に登場する。質問者とそれに答える人。
Q&Aだけで成り立っているミステリーだ。
恩田陸さんと言えば、「夜のピクニック」でいたく心をつかまれたので、今回の課題図書の中でも一番に期待していた本だった。

今回は読みながら、なんとも奇妙な気持ちにさせられた。
自分でもすっかり物語の中に入り込んでしまって、Q&Aを聞きながら自分で物語を組み立てていく感じ。半分以上を音読しながら読んだ。
物語そのものはある郊外の大型商業施設で発生した重大死傷事故をあつかったもの。
現場の状況は?犯人は?一体何の目的で???
質問の仕方によって相手が微妙に、そして突然劇的に変化していく様子をドキリとしながら読んだ。
思わず本音を漏らしてしまって、その後は坂道を転げるように変化していく女性、思いもよらぬ告白をする少女達…。
同じ状況下にいながらも、それぞれの食い違う証言を見るにつけ、いつだったか読んだ哲学の本に「自分の見たいものしか見ない」という人間の本性をまざまざと突きつけられた感じ。
それにしても窓のない大きな建物が大きな墓標に見えるというくだり、実は私も感じていた。

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