年別
月別
勝手に目利き
単行本班
文庫本班
WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年6月の課題図書 文庫本班

神を見た犬
神を見た犬
ディーノ・ブッツァーティ (著)
【光文社古典新訳文庫】
税込720円
2007年4月
ISBN-9784334751272
商品を購入する
 >> Amazon.co.jp
 >> 本やタウン

  荒又 望
 
評価:★★★★☆
 できあがったばかりの宇宙で、全能の神が一か八かの大きな賭けをする。そして、二本脚で歩き、知識を持つ生物が誕生することになった―。(『天地創造』)
 『天地創造』で始まり、『この世の終わり』で幕を閉じる短編集。強烈な皮肉が込められた物語やブラックユーモア的な物語、ひたひたと恐怖が忍び寄ってくるもの、じんわり心温まるものなど、珠玉の22篇。高い高ーい場所からこの世を眺めて、ちょっと斜に構えて書いた、そんな雰囲気が漂っている。とりたてて新奇な仕掛けがあるわけではなく、必ずしも超常的なことが起きるわけでもないのに、現実と非現実との間でゆらゆらと揺れるような、ちょっと味わったことのない気持ちになれる。思わずジャケ買い(?)したくなるような、装丁の美しさも魅力。
 著者の名を初めて目にする方も多いはず。奇想作家、魔術的幻想文学など、帯やカバーに書かれた言葉ではいまひとつイメージが湧かなくても、試しに最初の1、2ページを読んでみれば、そのたたずまいと、きりりと引き締まった冷徹な文体に、ぐっと引き込まれるはず。

▲TOPへ戻る


  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 いしいしんじの短編集を読んでいるかのようだった。さらさら読めてずしりと考えさせる。
 翻訳が巧い。それも魅力のひとつだ。全く翻訳であること意識させないどころか、言葉に優しさ慈愛を感じる。残酷な場面はない。恐怖は凶器も悲鳴もない場所からじわじわと押し寄せる。中でも「七階」は、入院病棟という誰でも想像に難しくない設定下での恐怖。病気というネガティブな心理状態も相まって「おいおい待てよ」と迫りくるものに「待った」を入れたくなる。又、表題作「神を見た犬」にもこれまでにない読後感を得た。これは恐怖というより信じることの可能性を詠った作品。疑ってびくびく生きるより騙されてもいいから信じることで得た心の平安。あたたかさ。人生の小さな選択の場面で思い起こすことが多い1冊かもしれない。
 古典と呼ばれ長らく読まれることのなかった文学作品が、光文社と若き翻訳者の言葉によって日の目を見始めている。年齢を重ねるにつれ、翻訳小説への不得手感を拭えなかったが、どうやら翻訳者の腕によるところも大きいかもしれない。今度書店で関口英子の訳書を見たら即買いだ。

▲TOPへ戻る


  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★★
 ブッツァーティってこんっなおもしろかったのか。ありがたき新訳。めっちゃ読みやすかったです。
 本作はブッツァーティの代表作ともいえる22篇をまとめた短篇集です。突如として現れた、神を見たと思われた犬に人々が翻弄される表題作、これは文句なしに面白い。それから「天地創造」、「天国からの脱落」なども個人的にはものすごい好きです。
 なんかこう、神様のような超人的なものを感じさせる小説というのが私は本当に好きで、こういう本を読むととても気持ちが和むし、生きていく力を得られるような気がするのです。自分の力の及ばないところで神様が世界を操ってくれていると思えることが、なんとなく私をつなぎとめてくれていると感じられるのですよね。
 ブッツァーティの作品は、確かにキリスト教的ではあるのだけれどそれよりも汎神論的な世界観が強く走っていて、こういう考え方ってなかなか自分では導けないだけにありがたく読ませていただきました、という感じです。
 怖い話は嫌いだけど、これは美しい。短篇で読みやすいので通勤のお供にもどうぞ。

▲TOPへ戻る


  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 ブッツァーティの描く小説は、幻想的でなんとなく「おとぎ話」を読んでいるような感覚になる。よくある「本当は怖い●●」のような。
 「アインシュタインとの約束」で「死の天使」とアルベルト・アインシュタインのやり取りを見ていても分かる。アインシュタインは「死の天使」に「一ヶ月」の猶予をもらって自分の取り組む研究に精を出すのだが、どうにもこうにも研究の成果を挙げられない。そこで、約束の日にアインシュタインは申し出る。「もう一ヶ月、猶予をくれ」と。それを聞いた「死の天使」は呆れて言う。「おまえら人間は、どいつもこいつも同じだ。満足と言うものを知らない」と蔑んで、アインシュタインの言い分を飲む。
人間ではない者に人間の持つ本質を語らせる手法が、読んでいる者にとって「そこはかとない恐怖」を予感させる仕組みになっているように思えた。
だから、『神を見た犬』を読みながら、そこまでドラマチックとも言えないストーリーが胸にするっと入り込んできて「ああ、なんか怖いかも」と思わされてしまう。
もうすぐ夏も近いですし、肝試し感覚で(?)丑三つ時にこっそり読んでみることをオススメいたします。

▲TOPへ戻る


  松岡 恒太郎
 
評価:★★★☆☆
 不思議な空気を身にまとったショートストーリー。余韻が残るエンディングと、読み終わった時ぞぞぞっと何かが背中を駆け抜けるような感覚がなんとも心地良い作品集。人間の愚かさ、猜疑心、宇宙の真理、それから子供の頃に感じた恐怖、いろんなものが凝縮されたストーリーはブラックユーモアを効かせた格調高い文体で綴られてゆく。
 自分のまわりに見え始めた「ねじれた空間」を理論的に説明しようと試みていたアインシュタイン博士の前にある日死神が現れる。はたして死神の真意とは何だったのか?『アインシュタインとの約束』。
 若き司祭の懺悔を聞いた名もなき修道士、その後も年月を経て司祭は幾度か懺悔をしに修道士のもとを訪れた『驕らぬ心』。
 どこか懐かしく、それでいて現代を映しだす物語たち。「幻想文学の鬼才」の通り名は伊達ではなかった。

▲TOPへ戻る


  三浦 英崇
 
評価:★★★☆☆
 理不尽で不条理な状況というのは、フィクションとして読んでいる分には、その滑稽さに、くつくつと笑ってしまう訳ですが、ふと「自分がこんな状況に巻き込まれたら」と思い始めると、途端に背筋が寒くなる、というものだったりします。この、一種不思議な印象のある短編集は、まさにその「おかしさ」と「戦慄」を幾度と無く体感させてくれる佳品揃いです。
 例えば、ごく軽い病気だったはずの入院患者が、重病者のいる階へと降りていくにつれ、次第にその階にふさわしい病状へと進んでいく『七階』。どう考えても予想通りの結末になるだろうなあ、と、あらかじめ分かっちゃったにもかかわらず、読み進めて「ああやっぱりー。いやん」と確認する。
 分かってるなら読まなくてもいいじゃん、と自分に突っ込みつつ、つい全部読んじゃう自分にあきれながら、作者の「読ませる力」の凄さを感じるのが、この本に対する正しいお作法なのではないか、と思うのですが。

▲TOPへ戻る


  横山 直子
 
評価:★★★★☆
じわりじわりと追い詰められる。
どうしてこんなことになってしまったのかと、最初のきっかけを必死で思い出そうとする。
にっちもさっちもいかない状態で目が覚めて、「あ〜夢で良かった」と思う。
さしずめ、今回は「あ〜本で良かった」と胸をなでおろすこと数回。
ひとたび読めば、すっかりはまり込んでしまう。
思い込みの激しさで、自分を袋小路に追い込んでしまうあのどうしようもない気持ちが満ち満ちている。

そんな大いなる幻想の世界へ誘ってくれるのは、イタリアの奇想作家のブッツァーティ。
彼の代表作が多数編まれた短編集だ。
「まいったな、こりゃ」と舌を巻いたのは、美しくて心優しく頭もよくずば抜けた子どもと家族のあいだでもっぱら評判だったジョルジョ少年が主人公の「小さな暴君」。
タイトル通りの暴君ぶりに、いやというほど振り回される。
「本で良かった〜」と重ね重ね思いました。
訳者の関口英子さんによる解説がそれ自体、とても読み応えがあり、作品への愛情をひしひしと感じました。

▲TOPへ戻る


WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年6月の課題図書 文庫本班

| 当サイトについて | プライバシーポリシー | 著作権 | お問い合せ |

Copyright(C) 本の雑誌/博報堂 All Rights Reserved