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正義のミカタ―I’m a loser
本多 孝好(著)
【双葉社】
定価1575円(税込)
2007年5月
ISBN-9784575235814
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
小松 むつみ
評価:★★★★
いじめられっこだった遼太は、それまでの自分と決別すべく入った大学で、ひょんなことから「正義の味方研究部」に入部する。友達もでき、明るく楽しい学生生活が始まった。だが……。
例えば、誰でも知っている「桃太郎」。桃太郎は、自分が被害を受けたわけでもないのに、村人を困らせていた鬼を退治に行く。もちろん「桃太郎」は正義の味方、悪いのは「鬼」だ。日本人の好きな「勧善懲悪」の典型的なお話だ。しかし、はたして桃太郎の「正義」とは? そこに何か違和感を覚えることはないだろうか。
正義はいつも正しく強いもの、そんなシンプルな常識に、ちっちゃな石を投じるようなお話だ。
読後に感じるものは人それぞれだろうが、社会の中での自分の立ち位置を振り返ってみる思いがした。
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川畑 詩子
評価:★★★★★
いじめられっ子が隠れた才能を見いだされて強くなって輝き出す話ね、という始めの予想は外れて、ストーリーは思いがけない方向に。
高校時代いじめにあっていた亮太。大学入学と同時に「正義の味方研究部」にスカウトされる。友だちや仲間もできて、なめられ続けた彼の人生が変わり始める。前半はトラブルを颯爽と解決する部員達の活躍がユーモラスに描かれるのだが、「間先輩」が登場してからトーンが変わっていく。間先輩は、周りの学生に比べて大人で、社会を冷静に眺め研究している。上に行くための方法を語るその声には引き込まれるものがある。そうそう今って格差社会で、ワーキングプアという現象があって、なんて相づちを打ちながら。彼が存在感を増していく所がエキサイティングだ。
間先輩の目指すところってどこなのだろう。上がるとそこには何があるのだろう。私は彼についていきたいとは思えなかった。でも亮太が彼に惹かれる気持ちがきちんと描かれていて、このお話に深みを与えている。ラストで亮太が自分の感覚に忠実になるところが私は好きだ。勝ち組負け組という言葉に違和感を覚える向きには共感が得られる作品と思う。
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神田 宏
評価:★★★★
「正義」。現代においてなんて虚ろな言葉なんだろう? むしろそれは書割めいた、使い古された、嘲笑とあざけりの対象にしかならないほどにその地位を落とした言葉だ。そんな現代において「正義」を看板にした「正義の味方研究部」に集う若者たちがいた。そんな「セイケン」に入った大学生「蓮見亮太」のさわやかな成長譚。苛められ続けた高校3年間。特技は上手く殴られること。鼻血が頬を伝う前にすばやくティッシュを詰め込む「亮太」。そんな筋金入りの苛められっ子「亮太」が同じ新入生、高校時代インターハイ3連覇の元ボクサー「トモイチ」に誘われ、「セイケン」に入る。「セイケン」で出逢う個性豊かな先輩たち。そんななかで徐々に自信を取り戻す「亮太」。少し恥ずかしいくらいのまっとうな青春小説である。「いじめ」や「格差社会」を織り込みながらもユーモアを交えて深刻にならずに「正義」を描くその様は、痛快であると共にヒューマンな笑いを誘う。「ダッセイ」と言われながらも自分なりの「正義」を貫こうとする「亮太」の苦笑いは、大仰なヒーローではないのだけれど、間違いなく「正義のミカタ」の勝利の笑みなのだ。
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福井 雅子
評価:★★★★
酷い「いじめ」にさらされ続けた亮太が、大学に入ってひょんなことから入部することになったのは「正義の味方研究部」という奇妙な部だった。学内の悪を懲らしめる仕事にやりがいを感じる亮太だったが、次第に違和感を抱き始める。
いじめやリストラが横行し、もはや真面目にこつこつ努力しただけでは乗り越えられない社会的格差の壁が確立しつつあるこの国の現状を提示してみせ、「それでもあきらめたり自暴自棄になったりせずに頑張ろうよ」というメッセージを発する青春小説なのだが、正義の味方研究部の先輩たちの活躍がコミカルで面白く、明るく楽しく読める。だが、この本が奥深いのは後半、主人公がその先輩たちのやり方に違和感を抱き始めるところからだ。人間は、みんなが正義を振りかざして正しい道を切り開いていけるほど強いわけではないし、間違えることだってある。この作品は、弱いところもあり間違えることもあるふつうの人間でもやり方はあるんだよ、と語りかけてくる。押し付けがましくなく、隣でそうっと励ましてくれるようなやさしい感じに、ほっと心が和む。
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小室 まどか
評価:★★★★
高校の間ずっといじめられっ子だった亮太は、さなぎが蝶になるように大学では普通に「青春」を謳歌するつもりが、あろうことか入学初日にキャンパスでいじめっ子に再会。あわやというところで助けてくれたトモイチに連れていかれたのは、なんと「正義の味方研究部」だった――。
いじめられっ子でありながら芯の部分では不屈の部分を持っている、亮太の性格設定もあるのだろうが、誰もが目をつぶって見過ごしている暗い部分を掘り返し、「正義」とはいったいなにかというマジメなテーマに取り組みながらも、かなり軽妙なタッチで描かれているために、どんどん読み進めてしまう。それが上滑りな感じにならず、「正義」に対して傲慢になることの危うさがちょっと青臭く描かれているところに好感が持てた。いざというときに現れて、法の俎上に載せられない問題を解決してくれる正義の味方に人が憧れるのは、現実はそんな勧善懲悪では割り切れないとどこかで悟っているからかもしれない。
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磯部 智子
評価:★★★★
これが本多さんの新作とは、ひたすら驚いた。言いたい事には共感するのだが、とにかく解りやすく噛み砕かれている。乳児から幼児への過渡期の離乳食のような……気もする。のみこみが悪くても、飲み込めるが、歯ごたえがないと味わいにも影響する。が、この小説の中では、ところどころでゴロゴロと喉をつまらせる何かが出現するから油断できない。高校時代いじめられっ子だった僕・亮太が、大学入学とともに心機一転、生まれ変わるつもりだったが……なぜか「正義の味方研究部」にスカウトされ、学内で「正義の味方」を実践していく。弱者が「正義」であるためには、揺るぎない信念が必要であり、それは大義名分として気持ちよく、また恐ろしい。世の中を知り尽くした顔をした人間でも、案外知っているつもりだけなのかもしれず、答えが出なくてもかっこ悪くても、考え続けることが必要だと、亮太と一緒に私も踏んだり蹴ったりされながらも、清々しい気持ちで読み終えた。
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林 あゆ美
評価:★★
つるつるするする読める、語り口さわやかな青春小説。読みやすいままに読んでいると、デリケートなことがらを、確信犯的におおざっぱに書いているところにつまずいてしまった。
正義のミカタは、字面どおりに正義を通す。大学で起こる悪を投書箱から受け取り、悪を倒す。そうそううまく事は運ばないところもきちんともりこまれ、とにかくバランスのとれた小説になっている。だからこそ、ぐいぐい読めてしまうのだ。でも正義はデリケートなもので、そのデリケートさの収束が読み手の私から少しずれてしまった。
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