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生還者
保科 昌彦(著)
【新潮社】
定価1680円(税込)
2007年4月
ISBN-9784103044710
>> Amazon.co.jp
>> 本やタウン
小松 むつみ
評価:★★★
大きな被害を出した土砂崩れの「奇跡の生還者」たちが、次々と非業の死を遂げていく。彼らを死に導くものはいったい……。生還者の一人、図書館司書の沢井は、彼らの死の連鎖への疑問と迫りくる死の恐怖から、憑かれたように彼らの足跡をたどる。繰り返し描かれる災害現場の、死を目前にして極限状態に置かれた人々の心理。そこにあるのは、生への執着と、それまでの人生への後悔と懺悔だった。原罪への償いとしての死を思いながら、奇しくも「奇跡の生還者」を遂げてしまったものは、贖罪をし損ねた罪悪感を背負う。 ラストのミステリとしての仕掛けにはひざを打つが、やや説得力に欠けるオチが惜しい。
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川畑 詩子
評価:★★
整った作品だと思う。伏線はきちんとはられているし、どんでん返しも決まっている。だけど、なんだか怖くないのだ。犯行の動機がいまひとつ腑に落ちないし、かといって犯人の心理に凍るわけでもない。装丁が見事に重苦しさを表現していて、「奇跡の生還」自体に超自然的な意味を期待しすぎたせいか。
呪いとしか思えない様々な怪現象に追いつめられて、次第にヒステリックになっていく主人公の様子がみどころだった。疑心暗鬼になると周囲の言動がいちいち怪しく思える。そして本人は自分がおかしくなっていることに気がつかない。そんな心理が他人事と思えなかった。
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神田 宏
評価:★★★
山沿いの鄙びた温泉宿を台風の土石が襲った。死者20名を超える惨事の中、奇跡的に生き残った6人が、暗い土砂の下で過ごした絶望の70時間にそこで、何があったのか。「生還者」の一人、図書館司書の「沢井」の目線で語られる。6人の「生還者」が1年の時間を経て謎の死を遂げるに至って「沢井」は暗い土砂の下で語られた、それぞれの「生還者」の「懺悔」めいた贖罪の話を思い出すのだった。やがて忍び寄る死の影は「沢井」の日常も蝕んでいって……
死を目前に控えた極限の閉塞空間で起こる事件を描いた作品ということでは、武田泰淳の「ひかりごけ」が思い出されるが、事件は閉鎖空間で語られた内容そのままに「生還者」が死んでゆくことに至って、いよいよ奇怪さを増し、ラストに行くにつれ狂気に取り付かれてゆく「沢井」の行動と、そこに重ねあわされるように土砂の下の閉塞空間で起こったことの「事実」もが揺らぎ始めるという2重の意味で恐怖を喚起させる入れ子構造になっている。そのプロットの巧みさは驚きである。ただ、人物描写が凡庸であったのが残念であった。人物像を強調するためであろう、謎解きの後のエピローグはないほうがいっそう恐怖が煽り立てられたのではないかと残念である。
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福井 雅子
評価:★★★★
山奥の旅館で土砂崩れに遭って生き埋めになり、4日後に救出された7人の「奇跡の生還者」たちが、ひとり、またひとりと謎の死を遂げるサイコ・サスペンス。
私の苦手な怖いものシリーズ……とおっかなびっくり読み始めたが、怖いけれど続きが気になってどんどんページをめくり、気づいたら一気に読み終えていた。巧みなストーリーテリングと、ミステリーと言っても過言ではない構成に、読者は作品の中の闇に一緒に引きずりこまれていく。ラストの展開には個人的にはやや拍子抜けしたが、ここまで作品を引っ張ったストーリー構成は十分評価できると思う。ただし、閉所恐怖症または「閉所」や「闇」にトラウマを持つ人には絶対にお薦めできない。それどころか、書店で手に取ることもやめたほうがいいと忠告したくなる。理由は、表紙が一番怖いから!
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小室 まどか
評価:★★★★
土砂崩れで、秩父山中の旅館が倒壊する事故から一年。奇跡の生還者たちが、次々と不可解な死を遂げ始める。これは、なにかのたたりなのか、土中での“あの”できごとのせいなのか――。
真っ暗な中にぼんやりと苦しげな人々の顔が浮かんでいる装丁が、あまりにも恐ろしげで身構えていたので、序盤の展開は意外にゆるやかなものに感じられた。が、失った恋人の一周忌を機に、周囲で起こり始めた奇怪な死や事件に、次第に精神に変調をきたし、追い詰められていく主人公の様子と、生還者たちが口を閉ざしていたおぞましい“罪”が明かされていく土中の体験とが交互に語られる構成は、もうこれ以上は知りたくないと思いながらも目が離せない、確実に“怖いもの見たさ”を煽る仕掛けとなっている。
人間の弱さ・醜さをこれでもかというほど前面に押し出していながら、終盤に鮮やかな視点の切り替えでさまざまな謎を一気に解き明かす手法に魅せられ、さほど後味の悪さは感じなかった。
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磯部 智子
評価:★★★
どこもかしこも真っ黒な本にうっすらと浮かび上がる複数の顔、顔、顔。山の中の温泉旅館に泊まった人々が、土砂崩れのため4日間飲まず食わずで生き埋めにされる。もうこれだけで、閉所恐怖気味の私は、酸素を求めて口ぱくぱく状態になる。この災害では20人以上の犠牲者を出し、僅かな「奇跡の生還者」の一人である図書館司書の沢井も恋人を亡くしていた。一周忌を迎えても立ち直れぬ彼が回想する4日間、そこで何が起こったのか、現在新たに起こりつつある「生還者たちの不審な死」とはどう関係するのか。超自然的な断罪者への恐怖と、現実的な犯人という両方の可能性に、沢井は追い詰められていき、その逸脱ぶりは、語り手である沢井をも容疑者リストに加えてしまうほどだ。罪を犯さない人間など居ないものだという安易な伏線はさておき、最後まで一気に読ませる面白さがある。毎日のこの暑さと湿気で読書意欲減退……そんな時にこそ、刺激のある小説を読みたい。そう思う気持ちにピタリとはまり楽しめた。
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林 あゆ美
評価:★★
黒い表紙にうっすらと浮かび上がる人の顔、顔、顔。ぞくりとする表紙だ。
土砂崩れにあい、多くの人間が命を落としたなか、奇跡の生還者が7名いた。その事故から1年すぎた頃、生還者たちに異変が続いた。何が起こっているのか、そのうちの一人、沢井が彼らに連絡をとりはじめた。見えてくる当時の状況……。
事故からの時間が小さな見出しとなり、各章それぞれに緊迫感を与えている。新聞に報道された以上の何が起きているのか。生還者たちの異変は誰かの仕業なのかと、ハラハラしながら読みすすめた。しかしドキドキしすぎたのか、自分でも何を期待していたのか、ラストに少し肩すかしをくらったように思えてしまった。
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