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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年7月の課題図書ランキング

古本暮らし
古本暮らし
荻原 魚雷(著)
【晶文社】
定価1785円(税込)
2007年5月
ISBN-9784794967107
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  小松 むつみ
 
評価:★★★★★
 古本に囲まれた生活。古本を探して歩き、古本を読み、そして書く。それが彼の生活だ。増え続ける古本との付き合い方からはじまり、思いを傾ける諸書、作家たちに言及する。古本好きだけあって、登場する作品も作家も、ひと世代ほど前のものがほとんどだが、丁寧に読み込み、愛情を持って語る文章は上質で興味深い。一冊の本を読むと、そこからインスパイアされて、読みたい本がまた出てくる。その連鎖反応も、本読みの醍醐味のひとつだ。それがたまらなく好きである。そして彼自身の生活を語る。けして裕福ではないが、身の丈にあわせた丁寧な生活ぶりも好感が持てる。  本好きにはたまらない一冊だ。自信を持ってお勧めする。

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  川畑 詩子
 
評価:★★★★
「現在、自分のことを不遇だとおもっている。また表面上、とても仲のいい付き合いをしているが、内心では相手の才能その他に嫉妬している友人がいる。そういう人におすすめの本がある。」(「眼中の人」より。)冒頭のこの数行にやられました。本の良き案内人に出会えて感謝感謝。
 また、この人の本への思いと距離感も気持ちよいものです。思い切りよく本を手放して、必要とあらば同じ本を再び買うこともいとわない。そして「今でもほぼ毎日のように古本屋に行くのだが、情熱というより惰性といったかんじだ。」とさらりと言ってのける。本に携わる人がこう言うのは難しくないだろうか。気負いしそうなものを。本への愛、本から受けた影響の大きさを感じ取れるだけに、ほどよく距離を置く感じが好ましかったです。本との付き合い方がうまいのだと思う。

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  神田 宏
 
評価:★★★
 本好きだから当たり前なのだが、本ばかり読んでいる(ちゃんと仕事はしてますが)と、ふとしたときに、いいのか? もっと現実的になったほうが良いのでは?といった思いが頭をよぎることがある。そのためか、著者の話にうなずくことしきりである。あまりお金があるとはいい難いフリーライターの著者。「ふだんはひたすらちまちました生活を送っているが、結局、酒飲んで、本買って、ひごろの倹約はいっぺんでパーになる。これでいいのか、37歳。これでいいのか。これでいいのか。夢は? 目標は?」。ずしん。とくるのである。お、しかも同い歳。これって僕のこと? 本を読むタイミングについて一家言。「最近、惰性で本を読むことが多い。自分の中にちっとも響かない読書をしている気がしてしょうがない。」分かる。すごく分かる。自分のなかで義務的な読書が増えていっている気がする。そんなお仕事めいた読書から解放されて山川方夫や川崎長太郎を読むときの至福。って読書疲れを読書で癒してたらホント重症である。「本の読みすぎは精神によくないのではないか」と著者ならずとも思う。そんな読書中毒、社会不適合、飲酒、喫煙などの悪癖をしみじみしたタッチで描くエッセイである。読書好きなら危険なカンフル剤。フツーの人なら読書家の変った(マゾヒスティックな)生態が観察できます。

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  福井 雅子
 
評価:★★★
 何よりも本が好きで、散歩は古本屋巡り、生活費を切り詰めても本を買い、心の針がふりきれるような本との出会いを求めて「愉しく、辛く、幸せな古本暮らし」を送る荻原魚雷が徒然に綴る古本エッセイ。
 著者が古本暮らしで出会った数え切れないほどの本の中から、いろいろな作家の言葉が引用されていて、読み進むうちに、著者は現代の我々がいる世界ではなく、かつて文壇を賑わせた作家たちのいる世界の住人のような気がしてくる。さしずめ、時空を超えてやってきた古本屋巡りの案内人というところだろうか。文章は本への愛情が満ち溢れ、そこに描かれた古本屋巡礼を日課とする生活は、質素ながらも幸福感が漂う。古本屋巡礼生活と聞いて「うらやましい!」と思う本好きの方は、このエッセイにもきっと共感できるはず。是非一読を。

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  小室 まどか
 
評価:★★★★
 読みたいときに読みたいだけ読みたい本を読む――。そういう理想的な自由を実現するにはある程度の禁欲も必要だ。
 いきなり本の整理(古本屋にいつどういう基準で本を売るか)で幕を開け、本に対するマナーや、さまざまな古本との出会いの日々、作品論など、著者の本とともにある生活のこだわり全開の一冊。経験にもとづいて自分なりの基準を確立し、本と向かい合うなかで無駄なもの許しがたいものを一刀両断にしていく筆さばきは、嫌味を感じさせない自信にあふれていて小気味よく、いちいち共感できる。
 家が本であふれている方、読みたい本が飽和して却って限られてきた方、読んでみたい本を増やしたい方に。

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  磯部 智子
 
評価:★★★
 生きたモラトリアム青年(中年?)の書。青臭さがいっぱいだが、感じよく青臭い。本が好きなのか読むのが好きなのか、両方好きな人のエッセイ。帯には「古本暮らしは、愉しく、辛く、幸せだ」とある。潤沢な資金があるわけではないのは、多くの本読みと同じだが、少し違うのは明日からの生活費を切実に心配しながらも「買う」を選んでしまうこと。それも「イン&アウト」の法則で、買ったら売る捨てるを実行しながら、引越し時に段ボール箱が二百箱以上になるというから半端じゃない。最近、私自身も引越しを経験した。本は重いので特小サイズの段ボールに入れないといけない。著者の「ペットボトルの箱」と同じぐらいの大きさだが、80個ですら業者に、こんな本の多い引越しは少ないと言われた。著者は本のマナー、本の保存にも一家言を持っていて、それも蒐集家の真似の出来ない世界ではなく、誰でも心掛け一つで実行出来そうなものばかり。読むのが好きだから作家からの引用も数多く、当然その内容は素晴しい。人のフンドシで相撲という気がしないでもないが、どんなに我が道を行けども、どこか人の共感が欲しい人間臭さだと思える一途さがある。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★★★
 本好き人間って、数が少ないから孤独なんです――、赤木かん子さんが高野文子特集を組んだユリイカの中で「本を読む人を読む」とタイトルして書いていたのを思い出した。孤独だからこそ「本を読む人」であるこの本は楽しめるんだと思い当たったのだ。
 人それぞれの時間の中で一冊の書物を読むわけだが、かかる時間もそれぞれで、読んだ本について誰かとしゃべりたいと無性に望んだとしてもその願いがかなうのはごく稀なこと。だけれど、こうして本の楽しみが綴られている書物のページを繰ることは、ものいわぬ作者と無言の対話を交わしているようなものだ。「そうそう、わかる、わかる。」「ん、その本はおもしろそう」「へぇ、そんな風に思うんだ」独りごちるそれらの言葉をページが吸い取ってくれる。いい言葉もたくさん引用されていて、読み終わったら、孫引きで紹介したくなったし、元本も読みたくなった。おもしろかった、楽しかった、いい本だった。

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