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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年8月の課題図書 文庫本班

卵の緒
卵の緒
瀬尾まいこ (著)
【新潮文庫】
税込420円
2007年7月
ISBN-9784101297729
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  荒又 望
 
評価:★★★★★
 自分は捨て子だと思っている育生を主人公とする『卵の緒』と、突然一緒に暮らすことになった異母姉弟、七子と七生を描いた『7's blood』。2篇の、まぎれもなく家族の物語。
 読んでいてお腹がすいてくる作品は、自分にとって良い作品、好きな作品。本作は、その最たるもの。ハンバーグや肉じゃがなどのごくありふれた家庭料理が、たまらなく美味しそう。しかも、ひとつひとつが素敵なエピソードになっている。きわめつけは、七子と七生が夜中に食べる腐ったバースデーケーキ。字面だけで具合が悪くなりそうな代物が、2人にとってはかけがえのない宝物となる。誰かと一緒に食事をすることの尊さが、痛いくらいに伝わる名場面だ。
 育生とその母親。七子と七生。血のつながりの有無でいうならば、この2つの組み合わせは対照的。でもどちらとも、互いを思いあう気持ちの強さでしっかりと結びついている。同じ家に住むだけが家族ではないし、血がつながってさえいれば家族というものでもない。確かなもの、大切なものがほかにある。そういうことが素直に丁寧に描かれていて、心に柔らかく刺さってくる。
 数年前に単行本で本作を読んだ時、こんなにも優しくて強い物語があるのか、と衝撃を受けた。このたび再読して、なんと温かく真っ直ぐな力を持った作品だろう、と改めて思う。ずっと大切にしていきたい1冊。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 瀬尾まいこの作品を読んでいると、死の間際に思い出しそうな言葉に出くわす。山田詠美の「放課後の音符」を読んだときの衝撃もこんなふうだった。
 表題作「卵の緒」は小学5年生の「僕は捨て子だ」という独白でで始まる。母さんは27歳。息子がトマト嫌いなことも知らず、へその緒の存在すら卵の殻でごまかすが、えらく気風がいい。言動に迷いがない。自分軸が確立しているから物事の優先順位が明瞭なのだ。「今は学校に行くことが大切なことじゃないなら仕方ないじゃない」と言われたら不登校であることのしんどさも軽減されそうだし、「今日は好きな人と好きなものを食べる日にしましょう」と言われたら食傷気味であったことも忘れてしまいそうだ。
 父親の愛人の子である異母姉妹の同居生活を描いた後編同様、「家族ってこうあるべき」論とは対極の家族。けれど普通じゃないからわかることがある。あるものがないから見えるものがある。そう思うのだ。
 まだまだ死にたくはないけれど、瀬尾まいこのお陰で子ども達への遺言の用意だけは着々と進行している。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★★
 文句なしの星5つ!!
「僕は捨て子だ」という一節から始まるこの小説。大好きな瀬尾まいこさんのなんとデビュー作です。
 捨て子だと思っているのだけれど、それでも捨て子でないという証拠をまずはへその緒に求める主人公の育生。とにかく僕が母さんから生まれてきた証拠を見せてくれ! とばかりに、へその緒を見るのを帰宅早々心待ちにする。そして母さんが帰ってきて見せてくれたのは、なんと卵の殻。え! 人間は卵からは生まれないんだって学校で教わったのに!
 もう、なんてかわいいのでしょうか。わたしはこの小説を読みながら何度頬をほころばせたかわかりません。育生はかわいいし、母さんもかわいいし、朝ちゃんも池内君もみんなかわいい。ここに描かれているものには何の汚れも濁りもなく、人が人として生きている最低限の優しさを全て凝縮したような暖かい世界が描かれています。
 これがデビュー作だというのだから本当に驚きなのだけれど、瀬尾まいこさんが持っている感覚を存分に楽しめたような気になって、とても素敵な一冊だと思いました。
 忙しすぎて、心の中に何かを味わえる余裕のなくなってしまっている人には是非読んでいただきたい小説です。子どもというのがこんなにも純粋で、育てる大人もこんなにも純粋であっていいのだということを思い出してほしいです。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 血のつながりのない母と子の物語。「僕は捨て子だ」と小学5年生の育生の告白から始まるので、「え!? いきなり衝撃の告白!! 」と驚きましたが、シリアスな展開にはなりません。よく、私も中学生の頃に「家族ってなんだろう?」と疑問に思っていました。血のつながりは、目に見えてわかるものじゃない。顔や性格が似ている、というくらいならすぐに判断できるけれど、「血がつながる」とはどういうことなのか。未だによくわからないでいる、という方が適切かもしれません。瀬尾さんはあとがきに「父親がいない」と告白しており、「家族に憧れがあった」とも書いている。だからなのか、もう一つの短篇「7’s blood」を読んでも、「血がつながっていて、一緒に暮らしているだけでは家族ではない」といわれているように思えました。つまり、父親、母親、子供、という役割を担うだけじゃなく、「卵の緒」の君子さんのように「母さんは育生が好き」、とんでもなく愛しているんだ! という言葉にしにくいことを伝えあって、積極的に関わっていくことで「家族」は「家族」になれるのかもしれないと思いました。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★☆
 「僕は捨て子だ。」と断定的な言い切りで始まるこの書き出しがまず素敵だ。
誰もが子供の頃にふとそんなことを考えた。僕は捨て子かもしれない、そう言えばみんながよそよそしく感じるぞ。そんなたわいもない思い込みからスタートし、著者はなんともほっこりとした物語を書き上げた。
 そうそう確かにそんなふうだった。要所要所でうんうんと頷けるほどに、小学生の男の子の目線や行動を完璧に理解して描かれている一人称もまた素晴らしい。
 小学生の育生は母さんと二人暮し。投げかけた疑問をいつも母さんは上手にはぐらかす。
この母さんが実にいい、なにより温かくて男前なのだ。素晴らしく魅力的で思わず惚れそうになっちまった。
 声高に親子の愛を叫ばなくったって、ジワリジワリとボディーに効いてくる愛もある。
 同情は愛じゃない、対等に接することこそが愛なのだ。
 異母兄弟の繋がりを綴った併録の作品もこれまた素敵。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★★
 親子だから、兄弟だから、って理由がなければ、人は人を慈しみ、愛することはできないのでしょうか? 現実には、血の繋がりがあっても、憎んだり嫌ったりすることもしばしば。そんな哀しい世の中だからこそ、この1冊。
 自分と母との関係が、何だかとても変だぞ、と気付いた小学生・育生の、でもやっぱり母さんが一番大好き、という想いを描く表題作。同時所収の『7's blood』は、父の愛人の子・七生と二人暮らしをすることになった七子のとまどいぶりを、親戚のお兄さん(おじさん、じゃないぞ断じて)になった気分で読んでました。
 七子と七生の、深夜の「大冒険」のシーンがとても好きです。静まりかえった夜の街を、手を繋いであてもなく歩くふたりの姿に、必要なのは、血の繋がりなんじゃなく、ただ、相手を思いやる心だけ、と痛切に感じました。
 最近、心に余裕が無くて、優しさに欠けてる自覚のある、そんなあなたは必読。と言うより、俺がまず十回読み返せ。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
私はきっとこの夏中、会う人、会う人に言うだろう。
「瀬尾まいこさん知ってる? 『卵の緒』すごくいいよ。」
それほど、良かった。しみじみ良かった。
あ〜なんて言えばいいのかなぁ、読後にひたひたと温かい気持ちが満ち溢れるような感じ。

なんとも魅力的なママと小学五年生の息子が登場します。
そんな二人が二人で暮らす日常生活がとても楽しげで、愛おしくて。
かつて無謀な行動に出たママは「そういう無謀なことができるのは尋常じゃなく愛してるからよ。あなたをね。」と息子にさらりと言いのける。
実は捨て子疑惑を持つ息子があれやこれやとママに真相を聞きたいと切り出すのだが、
これまではどうやらこうやらとはぐらかされていた。
その真相とは、いかに!!

そうそう「今日は好きな人と好きなものを食べる日にしましょ。ね?」とママが唐突に言いました。
「よおし。たくさんごちそう作るわよ。」
それから息子のクラスメイトとママの大好きな男友達を呼んで、四人ごちそう三昧の一日。
いいな〜この感じ。

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