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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年8月の課題図書 文庫本班

スクールアタック・シンドローム
スクールアタック・シンドローム
舞城王太郎 (著)
【新潮文庫】
税込420円
2007年7月
ISBN-9784101186337

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  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
 仕事を辞めて毎日自堕落に暮らす「俺」は、15歳の時に生まれた息子の崇史が学校襲撃計画を立てていることを知る。(表題作)
 率直にいって、肌触りは大変よろしくない。毒々しい表現、やたらと長い文、い抜き言葉の多さには、申し訳ないがうんざりした。しかし投げ出さずに読んでいくと、意表をつくラストが待っている。こんな読後感、予想だにしなかった。
 描かれているのは、実はとってもシンプルでオーソドックスなことなのだ。さらさらとしたきれいな文章で書かれていたら、きっと嘘くさくしか思えないほどに。でも、かなり変化球的な書き方をされているため、なかなか気づけない。テーマは普遍的でも、書き手が違えばまったく違った物語になるのだな、と改めて思う。「で、結局どういう話なのさ?」とお思いかもしれないが、とりあえず手さぐり状態で読み始めることをおすすめしたい。見かけと中身のギャップの激しさが、本作の最大の特長なのだから。
 と、ここまで書いてきたのは1、2篇目までの話。3篇目の「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」は、どうにかこうにか噛み砕こうとしたものの、力及ばず。それどころか歯がバキッと折れてしまった気分だ。この話はいったい…何だろう。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 ベタベタじゃない。いい人ばかりでもない。現実は冷酷だ。容赦ない。なのになんだ。この読後感の気持ちよさは。人を愛するとか優しくなることに素直になれそうだ。
 大量殺人事件が続いていた。一度に600人以上が死亡した学校襲撃事件も起きた。時代は不安定、疑心続きだ。そんな中、15歳の崇史は全教員・生徒を殺す計画をノートにつけていたという理由で、警察から容疑をかけられてしまう。いきなり自分家に入り込んで来た見知らぬ男の耳を噛みちぎってしまうような父親は無職。ぶっ飛んでしまいそうな設定にあるのに、最後はとても穏やかな心地になる。それは後の2作品も同様だった。なんの根拠も自信もないまま、脳外科医になるという確信だけを抱いて退職したものの医学部にすら入学出来ない元サラリーマン家族の絆を描いた第2作品。民族紛争が止まないアフリカのソマリアと同じ名前を持つ日本人少女の、ただ生きるだけのことがこんなにも悲哀を招く最終作。
 暴力的だけど真理がある。短いけれど強い。好きじゃないけれど嫌いになれない。再読するに違いない。そんな作品群だ。中高生男子、必読でしょ。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★★
 わけわかんねえ、でもなんか、心の芯に突き刺さってくるんだよなぁ、という感じがとっても気に入っている舞城王太郎さんの文庫最新刊。
「スクールアタック・シンドローム」「我が家のトトロ」「ソマリア、サッチ・ア・スウィートハート」からなる短編集。全部大好きだけれど、私は表題作が一番好きだな。
 というわけで表題作について触れると、とにかく自宅ソファが気に入ってしまってそこから動けない主人公の話なのである。そこになぜか知らない人が乗り込んできて、なんだかわからないうちにそいつの耳を食いちぎって、そして飲み込んでしまう。もうこれだけでも私は爆笑してしまってでもちょっと物哀しくて泣けてしまった。そして耳をくいちぎられたやつはとっとと出て行って、川原まで行ったところで、そのへんにいた人間に対して暴力をふるう。暴力は伝染するのだ。
 そんな主人公が15のときにその子どもとして生まれてきた崇史。こいつはこいつで、学校を襲撃する計画をノートにびっしり書いている。これも暴力の伝染のうちのひとつ。
 破天荒な主人公とそのまわりの人々、そのありえない世界の中で、私たちが抱えているつらさとか切なさとかよくわからない気分みたいなものがめいっぱい書き込まれている作品。ほんとうにもう、私はこの作品を読めただけで、今後まともに生きていけなくてもいいか、ととても励まされました。絶対に読んでおくべき舞城作品です。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★☆☆
 一脚20万円もするソファを愛人のようにこよなく愛し、仕事も辞めて毎日ソファの上でゴロンゴロン。「なんて羨ましい生活を送ってるんだ! 」と1ページ目から叫んでしまった。でも、彼はアル中。しかも、15歳で子供を作って、今は別の女性と結婚生活を営んでおり、その妻も家出してしまう。嗚呼! 救いようがない…。そんな彼の息子は、連日世間を騒がせている「学校襲撃事件」に触発されてノートに殺害計画を記しているというから大変。父親として息子が犯罪に手を染めないように説得しようと、騒ぎを聞きつけた警察の前で言葉を選んでやり取りするシーンが一番の読みどころ。
 するすると読み進めるのは簡単なのですが、一度読んだだけではこのポップな文体を理解できませんので、再読することをオススメします。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★☆☆☆
 まず立ちはだかったのは表題作。独特にツメツメでどこか間延びする文体と、自己中心的な登場人物たちに少し嫌気が差したものの、それでもなんとかこの物語は呑み込めた。なるほど頷ける部分もあった。
 目をそむけ避けて通るわけにはいかない事実。最近巷に溢れ出した、責任を果たさない大人と、歯止めが効かない子供と、そして暴力の連鎖。現代社会が抱える闇の部分にユーモアーを交え鋭く描いた小説なのはよく解った。
 しかし二話三話目と読み進めるうちに気持ちはズンズン陰鬱になってくる。特に問題作である三話目では、はたしてこの作品ってほんとに必要なのだろうか、このような表現でしか問題提起ができないのだろうかとさえ思えてきた。
 二話目『我が家のトトロ』に登場する小説家志望の男は言う、面白い小説とはとにかく何かに引っ張られて最後まで読めてしまう奴だと。
そしてこの小説、その定義にだけには当てはまってると言えるだろうが、はたして…

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  三浦 英崇
 
評価:★★★☆☆
 俺の周りにも、スタジオジブリの一連のアニメ作品をこよなく愛している人たちがたくさんいるのですが、そういう人たちが、例えばこの作品集に所収されている『我が家のトトロ』を読んだ時、いったいどう思うんだろうなあ……と考えると、非常に興味深いです。
 時折、突拍子も無いことを仕出かす、主人公とその妻と娘。そして、時折「トトロ」と化す飼い猫。ごちゃごちゃとした現実が、有無を言わさぬ勢いで蹴散らされてゆくさまは、子供たちの夢と幻想に彩られたあの映画のクライマックス、トトロとネコバスが夜空を疾駆する場面にも重なります。
 ストーリーなんざどうでも良くなって、そのシーンが与えてくれるカタルシスにうっとり、という点で、確かに、宮崎駿作品に似たものを感じました。感じるか、普通?
 他の所収2編は、うーん。ジブリで喩えるなら「スピード感とグロシーンを百倍にした『ナウシカ』」かなあ。舞城先生とジブリに怒られそうですが。

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  横山 直子
 
評価:★★★☆☆
15歳しか離れていない実の息子の崇史。今は離れて暮らしているけれど、なにやら不安定な状態らしい。
なにしろ彼はノートぎっしりにクラスメイトや教師の殺害計画を書いているのだ。
決して息子に自慢できるような暮らしぶりではないけれど、父としてはやはり気になる。
それでふらりと息子に会うために息子が通う中学校に出向く。
「そのままでいいのか?」自らの状況に憂いている父。
その父が息子に言う。
「崇史、ちょっとお父さんの話を聞きなさい。」
「あん?」と怪訝そうな顔をする息子に、私もいまさらお父さんもないだろうと思いながら読む。
しかし、父の言葉はやはり筋が通っているのだ。
「あのな、やっぱり人間っていうものの尊さっていうのは脳の作りにあって、人間の脳の素晴らしさっていうのは、想像力なんだよ。相手の気持ちを思いやることなんだよ。」
 
「暴力は伝達される」というフレーズが作中に多い中、相手の気持ちを思いやる心も確かに伝達されるのだと、この若い父と子を見ながらつくづくとそう思った。(表題作『スクールアタック・シンドローム』)

ほかの二作は〈ダーク&ポップ〉と表紙裏に紹介してある通り、若者会話の連打とダークな世界が繰り広げられていました。

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