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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年8月の課題図書 文庫本班

侠風むすめ
侠風むすめ
河治和香 (著)
【小学館文庫 】
税込560円
2007年5月
ISBN-9784094081671

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  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
 江戸時代の浮世絵師、歌川国芳とその弟子たちの毎日を、国芳の娘、登鯉(とり)の目から描く。
 面倒見が良く頼りがいのある国芳と、彼を敬慕する弟子や家族たちとのにぎやかな暮らしぶりがいきいきと跳ねるように描写されていて、気持ちが良い。浮世絵や入れ墨にちょっと詳しくなれたり、時代劇でおなじみのあの人が登場したりと、おトク感いっぱい。
 「金はあってもなくても、今日という日とお天道様は、誰にでも等しくあるんだからなあ」
 「転んだり蹴つまずいたりしたら、いい稽古になった、と思うがいいサ」
 国芳が登鯉に向かってさらりと人生訓を語る場面がとても良い。誰かの受け売りではなく自身の経験から得たことを、飾らない言葉で娘に伝える。ちょっと遊び好きではあるけれど、こんなお父さんがいて、登鯉は幸せ者だ。
 親子愛、夫婦愛、家族愛、師弟愛、たくさんの愛にあふれた作品。男女の愛もあって然るべきなのだが、登鯉の恋愛模様といったら、もう女の情念めいたものすら感じさせるほどの生々しさ。からりとした物語のなかでは少々違和感を覚えた。江戸時代の15歳は結構な大人だったのだろうとは思うが、もうすこし淡くほのかな恋ごころであれば、なお良かった気がする。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 江戸時代の市井を知るには打って付けの本なのだが、中学生の娘に「読め」とは言えない。R-15指定が必要だ。
 主人公は登鯉15歳。時は天保の改革直下、「あれもこれもダメ」と禁制が布かれていた。登鯉の父国芳とて例外ではない。何故なら彼は弟子を何人も抱える浮世絵師。時代を風刺した国芳の絵はお上にとって都合がいい訳がない。そこはお侠な登鯉の活躍どころ。自らの恋のため、情けをかけてもらった仲間のため、乳兄弟のため、「出来る出来ないではなく、そうしたいから」突き進む。
 どの輩も魅力的だ。芸者ごとが大好きな国芳だが、試行錯誤はしてもくよくよしない性格が弟子や客を惹きつけて止まない。弟子が師匠を思う気持ちも尋常ではない。時代に女という性に翻弄され、不本意な生き方を強いられることもある。けれど、「今を愉快に楽しく生きること」を折りに触れて著者は説く。女関係全般に締まりがない国芳だが、浮世絵に対する厳しさと一本気が気持ちよい。ピシッと行きたい気分の時に是非。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★★
 面白かった!!
 帯に「江戸っ子浮世絵師国芳VS遠山の金さん!?」と書いてあったので、なんだなんだ、と読み始めてみてまぁ驚きました。出てくるじゃないの、ホントに、金さんが! ま、それは読んでみて楽しんでくださいね。
 さて、侠風むすめこと、女絵師の登鯉が主人公。このむすめ、刺青が大好きなんである。この題材の良さというのが、わたしは非常に気に入って、なんとも面白く切なく読みました。
 全体的にすごく読ませるし、時代小説としてもとっても面白いのだけれど、中でも私が一番いいなぁと思って読んだのは、この主人公登鯉の女の生き方のようなところ。女としてだんだん成長していく登鯉の切なさみたいなところがとってもよく描かれていて、読んでいるこちらも、笑いながらもなんだか切なくなってしまったところがあって、後になって余韻のように残りました。
 5つの章に分かれてちょっとしたミステリー要素を含んだ歴史小説で、歴史モノなのだけれど非常にとっつきやすく、また存分に楽しませてくれるとてもいい作品でした。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 鉄火肌の浮世絵師国芳と、脳天気な弟子たちの浮世模様を娘の女絵師登鯉(とり)の目から描いた、ほのぼのおかしくて、ちょっとせつない書き下ろしシリーズ第一作。国芳の娘登鯉は、刺青が大好きで博奕場にも平気で出入りするような“侠風”な美少女。この登鯉がとても魅力的な少女なんです。父親の弟子の男たちに囲まれて育ったことや、博奕場などの少々危険な場所にも父と一緒に出入りしていたこともあり、ちょっとのことでめげたりはしない性格です。それは、彼女の恋愛をみているとよくわかる。芳雪という父の弟子を好きになるのですが、彼は師匠の娘である登鯉には興味を示さず、「口を吸って」と誘われ、「抱いて欲しい」と言われてもはぐらかしたり、煙に巻かれたりと相手にされません。その後、芳雪にはこっぴどくフラれてしまうのですが、一人突っ伏し泣いていても「焼き芋でも買ってこよう」なんてエピソードもあって非常に逞しい。江戸っ子の潔さを感じて好感を持ちました。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★☆
 しっかりと描かれた時代小説の中に、どこか現代風の趣が感じられる作品。例えば主人公で十五歳の少女登鯉が、時折女子高生であるような錯覚を覚えた。しかしそれがまた心地良くもあり、そんな不思議な魅力を持った人情時代小説が本書である。
 時は天保、所は水野忠邦が倹約令を発した江戸の町。倹約とは相反するところでおまんまを食っている浮世絵師国芳の周辺で、その娘登鯉の恋模様を絡めた人情話が展開する。  
 年頃の娘である登鯉と、父親国芳の関係がとても良い。少女から女に変わる彼女を引き止めるでもなく背中を押すでもなく、
「転んだり蹴つまずいたりしたら、いい稽古になった、と思うがいいサ」
とさらりと言ってのける国芳、そして女としての成長を見せる登鯉。
 そんなオキャンな登鯉を上手く表現したタイトル『侠風むすめ』もまさに言いえて妙である。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★★
 主人公が元気な美少女、というだけで、ひとまず点が甘くなってしまうダメな俺でありますが、ほんとにねえ。ヒロイン・登鯉ちゃんがすごく魅力的なんですの。江戸後期の浮世絵師・歌川国芳の娘で、自らも絵筆をとる女絵師の卵。曲がったことは大嫌いで、気風の良さと心優しさを兼ね備え、おまけにきりっとして凛とした美貌。うっとりです。
 時は天保の改革期。お上の締め付けが次第にキツくなり、時代の閉塞感をひしひしと感じつつ、また、お年頃なので恋にも翻弄されつつ大変な登鯉ちゃんの姿は、とても危なっかしくて、じっと見ていられません。じゃなくて、目が離せません……どっちだよ。
 娘を見守る父・国芳の、一見、投げやりでいながら、押さえるべきところはきちんと押さえている、そんな強さもとても素敵で。代表作『源頼光土蜘蛛退治の図』については、以前から興味があって知っていたのですが、読了してから改めて見返すと、感慨もひとしおですね。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
登鯉、登る鯉、そう書いてトリと呼ぶ。
浮世絵師・歌川国芳の娘の名前だ。そう、タイトルの“侠風むすめ”こそ、この登鯉ちゃんだ。
正義感が強くておてんばで、日ごろは浮世絵師の父の手伝いをしている。

父の国芳は浮世絵の腕はめっぽういいのに、弟子が多すぎるためか、吉原に入り浸り家に戻らないせいか、いくら稼いでも貧乏暮らし。
火事の時は「しかたあるめぇ、命さえ無事なら、またいくらでも描けるさ。」、禁制でがんじがらめになった時には「時代が悪すぎらぁ。だがよ、登鯉よ…だから面白ぇんだぜ」、
なんでも面白くしてしまう名人で、一生懸命働くときは働く、遊ぶときは遊ぶ。
すかっとした生き様がなんとも魅力的。
そんな父親と暮らしながら、初めての恋に胸をこがし、だんだん分かってくる大人の世界を理解しようとする登鯉。
少女から大人への階段をのぼっていく彼女の成長ぶりがなんともまっすぐで、真夏の太陽のようにまぶしい。

千社札の投げ張りの場面では心が躍った。
これまでとは違う気持ちで神社の門を見上げるその日が待ち遠しい。

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