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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年8月の課題図書 文庫本班

わたしの旅に何をする。
わたしの旅に何をする。
宮田珠己 (著)
【幻冬舎文庫】
税込560円
2007年6月
ISBN-9784344409712
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  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
 旅行好きが高じて、ついには旅をしたいとの理由で会社を辞めた著者による、主にアジア各地への旅行中に遭遇したハプニングを面白おかしく描いたエッセイ。
 紀行文、旅行記、旅エッセイなど呼び方は多々あれど、どこかへ旅をして見たこと感じたことを綴った作品は、古今東西もう数えきれないほど。書店にずらりと並ぶなかで「肩の力の抜け具合ランキング」を決めるとしたら、本作はかなり上位に食い込むものと思われる。もちろん、著者は気合を入れて旅に臨んでいるのだとは思うが、このすっとぼけた語り口には、読んでいるこちらも、ひゅるひゅると力が抜けてしまう。いや、ほめ言葉ですよ、一応。
 おそらくこの作品の面白さは、この文体あってこそのもの。ギャク連発の、ウケ狙い傾向がやや強すぎるノリが肌に合わなければ、少々苦しい気もする。でも、ちょっとついていけないと思った方も、『説日語』なる中国語版日本語会話マニュアルを紹介するくだりは、きっと大いに笑えるはず。日本人としては看過できないこの珍書、どこかで手に入らないだろうか?

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★★☆
 夏休みである。NHKラジオで子ども電話相談室が始まった。「吸ったものを吐く」人間の呼吸行為は無駄じゃないかと思い、半端でないインドの暑さに「ぎょっへっうわっ」を繰り返す。疑問と驚きと感動の子どもたちの生声はが聞いていて飽きない。面白い。新鮮だ。
 著書宮田珠己にも同じ何かを感じた。旅好きの某サラリーマンは、10年間温め続けた決断をした。退職だ。好きな時好きなだけ旅をするためにとりあえず退職した。収入の見通しはない。それが彼のやり方。旅も同様。とりあえず行ってみる。食べてみる。話かけてみる。好奇心先行型なのだ。それはカトマンズの火葬場、ブルネイの遊園地独占体験(しかも無料)、インドの空港での執拗なリムジンバス乗れ乗れ攻撃。随所で「それは普通やらないだろう」ということに果敢に挑戦し見事に撃沈している。失礼とは思いつつ、他人様の失態を10ページに1度の割合で笑ってしまった。正直、同じ経験はしたくない。けれど、人生を楽しんで生きているのは絶対に彼のほうだ。
 旅はいい。私は旅行代理店のカウンターで仕事をしていた。旅の後先でお客様の表情が生き生き変化していく様を何度も見てきた。迷ったらやってみる。行ってみる。失敗しても恥かいてもいい。たかが「私」の人生だ。彼の信条は「人生何事も全力投球」。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★★
 大変失礼ながら『ふしぎ盆栽ホンノンボ』で初めて宮田さんの本を読みました。これが面白くて、また違うものも読もう読もうと思っていたら、新刊採点で『わたしの旅に何をする。』が。これまた面白そうな一冊です。とても楽しみに読みました。
 忙しい生活を抜けて旅に出て、そしたらその旅先でひまだ。で、長い休みをとって結局何がしたかったんだっけ? と思ってよくよく考えたら、そのひまな旅を存分にしたかったのだった、と気づく。これって、私も旅先でよく思うこと。ゆっくりと時間をとって旅に出ているのに、なぜか最初から「また来ようね、次も企画するからさ」なんて言ってしまう。ちょっと残念です。
 そしたら、そこはさすがの宮田さんなのですが、今度は10年近く勤めた会社を辞める。動機は、旅をしたいから。こうやって書くとすごくかっこいいんだけれど、本文はそれだけじゃない。会社を辞めたあとのくだりがまたおかしい。
 旅行の中のちょっとしたこと(たとえば飛行機の中で、美人なスッチーはたいてい隣の通路にいてこっちは……とか。笑)もめちゃめちゃ面白くて、腹を抱えて笑えちゃいます。
 そしてかねてから、何かを面白く伝えるにはどうしたらいいのだろうか、と考え続けている(しかしちっとも身につかない)私にとってはまさに教科書のようにも読めました。日常で触れたことをここまで面白く書けてしまう宮田さん、神様のように慕いたい気持ちです。
 こんな旅エッセイは読んだことがない、奇想天外な旅行記を綴った爆笑間違いなしの一冊です。何度読んでも笑えます。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★★☆
 私はこの本を読んで著者を尊敬した。「たいした将来の見通しもなく会社を辞め、とりあえず旅行しまくりたいと考えた浅はかなサラリーマンのその後」のエッセイとあらすじにありますが、会社を辞めてからも長い旅に出られずにいたようです。「仕事を辞めたと思ったら、また仕事をしているのである。このままでは、一生仕事に埋没して、結局サラリーマンと同じである」といった感じで、普段、私たちがぼやきたくなるような些細なことを独特の語り口でユーモラスに書いています。高山病になって奇跡の生還を遂げたり、ジェットコースターで絶叫したり、時には旅支度に生活感溢れる観点から考察を加えてみたり、とこの1冊があればビギナー旅行者も安心(?)です。何が起きてもひょいっと乗り越えてしまう彼の人柄に激しく憧れました。「今の日常から飛び出したいけど飛び出せない」方もまずは、この本を読んで非日常を楽しんでみてはいかがでしょうか。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★★
 出会いは突然やってくる。知人からの推薦、新聞雑誌の書評欄、ふらり立ち寄った本屋の平積み、なんだか表紙に引きつけられて手が伸びて。君に出会うために僕は生まれてきたんだと、そんな本に今回もまた巡り合ってしまった。
 著者は宮田珠巳さんとおっしゃいまして、この度お初にお目にかかりました。親しみを込めて今後はタマちゃんとお呼びしたいと思っています、ダメな場合は連絡ください。
 とにかく爆笑悶絶の旅ルポ的エッセイ。
随分昔に椎名誠さんの初期の作品に出会った時のトキメキに近い感じがいたします。
 感性の問題なんでしょうが、僕にとってはドストライク。例えるならば、人数合わせで連れて行かれた町内の草野球大会でバッターボーックスに立ったら、なんと相手のピッチャーがハイジャンプ魔球の使い手で、あれよあれよと言ってる間に地上8メートルあたりまで跳び上がり、ズバッとキャッチャーミットに投げ込んできたストライクってくらいのドストライク?
 とにかく本屋へ急ぐべし!

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 この文章が掲載されるのは、お盆休み前。読んでる方々は、旅行の予定はありますか? 俺は出不精ですし、一緒に出かける友達や恋人もいないので、たぶん家で読書三昧の夏休みでしょうが……
 そんな淋しい近況はともかく。この作品は、好きな時に適当に好きなところを旅して、それをちょちょっとエッセイか何かにして、生活していけねえかなー、と、虫のいいにも程があるような願望を、実現しちゃった方の話です。
 気負い無く、いろんなものをあっさりとポイ捨てする覚悟、なんて強いものでもないですが、とにかく、自分のあり方を、ごく柔らかい感じで何となく選んだ結果、旅なんじゃねえかなー、と思い至った、そんな肩の力を思いっきり抜いた文章が並んでいます。
 脱力はしてるんだけど、行った旅先は「おいおいそんなに脱力でいいんかいっ!」とツッコミたくなるような場所が結構あるんですが。ミャンマーとかヒマラヤが、ご近所みたいに語られてるし。

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  横山 直子
 
評価:★★★★★
この本を20年前に読んでいたならば、私の人生、少しは方向が変わっていたかもしれないな〜なんて思いながら読んだ。

サラリーマンだった宮田さんは、長年の積もり積もった旅への思いを達成するべく、会社を辞めて旅に出た。
多くの人がきっと踏み込みたいけど、踏み込めない、そんな一歩を勇敢にも踏み出したのだ。

インドへ、ベトナムへ、バリ島へ…(延々と続く)
お膳立てされたツアーとは訳が違う。踏みしめる一歩も違うのだ。醍醐味がある。
もとより年に数回はわけもなく旅心をぞわぞわと浮かび上がらせている私だ。
まったくもって、ああ宮田さんは本当に良い選択をしたねぇと肩のひとつもたたきたくなる。

いろんなページで心わしづかみ状態が続いたが、中でもチベットの鳥葬とブルネイの遊園地には心惹かれた。
宮田さんの感じた気持ちはしみじみ伝わったが、やはり現物を見たいものである。

旅先での出会いもまた楽しみの一つで、出会う人が投げかける言葉も印象的。
解説によれば、宮田さんは結婚されお子さんも誕生されたとか。ぜひとも親子の旅エッセイを読みたいものだ。
ぞわぞわ。

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