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WEB本の雑誌今月の新刊採点【文庫本班】2007年8月の課題図書 文庫本班

復讐はお好き?
復讐はお好き?
カール・ハイアセン (著)
【文春文庫】
税込930円
2007年6月
ISBN-9784167705497

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  荒又 望
 
評価:★★★☆☆
 結婚記念日の旅行中に夫の手で豪華客船から海に突き落とされたジョーイが、あの手この手で復讐を企てる。
 復讐とは穏やかならざる言葉だが、タイトルからもわかるとおり、軽ーいタッチで書かれている。ジョーイがまさに今、海へと落ちて行こうとしている場面で派手に始まり、追う者と追われる者を交互に描いてテンポ良く進んで行く。
 注目すべきは脇役たちのユニークさ。ヘビを愛する刑事や、単なるウドの大木かと思いきや実は心優しきボディガードなど、いずれも濃い面々。本筋となるジョーイの復讐譚がかすんでしまうくらい、彼らが繰り広げるサイドストーリーが楽しい。
 それにしても、ジョーイの夫チャズのどうしようもなさは、呆れるを通り越して気の毒になるほど。軽々しくて薄っぺらで、正義感のかけらもない。ここに書くのはちょっと躊躇うような取り柄もあるにはあるけれど、もうここまでくれば「あっぱれ!」と言うしかないくらいに筋金入りの反面教師。人間、やはり真面目で誠実がいちばんです。本当に。

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  鈴木 直枝
 
評価:★★★☆☆
 石田衣良さん、帯で貴方が言ったとおり。確かに面白かった。
 冒頭でいきなり結婚2年目の夫に、客船のデッキから突き落とされた妻の復讐物語。ストーリーはシンプルなのだが、登場人物が曲者ぞろい。溺れるか鮫に食べられたかと思われていた妻は元水泳選手の意地か自力で泳ぎきろうとするし、事件当事者の夫は、何処を探しても長所が見当たらないロクデナシだし、その上司は究極の自己中野郎だし、だがその雇われボディガードは、途中瀕死のおばあちゃんと出会うことで、「自分」を回復し優しさを取り戻して行く。復讐劇の相棒は、海を彷徨っていた主人公ジョーイを助けた元検察局捜査員。
 復讐の目的が、お金でなく命でなかったことが、より小説の価値を高めている。おそらく余生がいちばん短いであろう二人の老男女が、やはりいちばん示唆に富んでいる。人生の味がある。やっぱり真実はひとつでしょ。やっぱり悪は弾かれ、正義が微笑むでしょ。直球を突いてくる面白さに満ちた本だった。

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  藤田 佐緒里
 
評価:★★★★☆
 著者のカール・ハイアセンという方を私は知らなかったのだが、帯によると、石田衣良氏が愛する作家なのだとか。それは知らないで済ませるわけにはまったくまいりません! ていうか読みたい!! というわけで、早速ぶあついこの小説に挑みました。そして、その痛快さ、ユーモラスな会話、シンプルな展開の中に盛り込まれているものの多さ、奥深さに、完全に酔いしれることになりました。
 アメリカでは初版50万部というこの小説、確かにこれを日本人が読まずにいるのはものすごくもったいない。私も読んですっごく面白かったので、ぜひとも若い女性に読んでもらいたいと思う一冊です。
 結婚記念旅行の途中、乗っていた船から夜中に突き落とされたジョーイ。運よく助かり、小さな島にたどり着く。…助かったはいいが、こうなったらなんとしても目いっぱい痛い仕返ししなければ、とたくらむ。いやぁ、あたしだったら、突き落とされたら腹はたつかもしれないが、さすがにドン引きしてもう一生会いませんけれどもね。仕返しなんかする労力も惜しまれる。しかしこの女は、すごい執念です。そして本当に仕返しをするために自分の中のプロジェクトを進めていく…。
 というなんだかコミカルなあらすじになってしまいましたが、中身はそれはもう猛烈な勢いで面白いです。550ページ近くありますが、最初の数ページでぐんっと引き込まれてそのままあれよあれよという間に読めてしまいます。
 この通快感と爽快感からすると、夏に読むのがいいかもしれないですね。

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  藤田 万弓
 
評価:★★★☆☆
 結婚記念の旅行の途中に豪華客船から海に突き落とされた妻のジョーイがロクデナシの亭主、チャズに復讐するというとんでもないストーリー。しかも、チャズは妻を殺したことに罪悪感のかけらさえ持っておらず、何事もなかったかのように愛人と情事を繰り広げているのだから、ジョーイも男を見る目がない。シンプルなストーリーを痛快なコメディに仕上げているのは、脇役陣のキャラクターが非常に立っているからでしょう。
 それにしても、殺されかけたというのに「最高に意地悪な仕返しをしてやる」という意気込みは逞しいです。普通だったら「殺してやる」と憎しみに満ちていてもおかしくないのですが、ところどころクスっと笑ってしまうのは、カール・ハイアセンの文章の魅力なんでしょうね。

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  松岡 恒太郎
 
評価:★★★★★
 海外の翻訳小説を今まで比較的敬遠してきた僕だけど、それは間違いでしたと今なら言える。アメリカ人のこの著者を、この作品を読まずにいることは人生の大いなる損失であると、声を大にして言える。
 題名を見てまず思い浮かんだのは大好きなビリー・ワイルダー監督の『お熱いのがお好き』や『あなただけ今晩は』といった名画。しかしそれもあながち間違いではなかった。
軽快に突き進むストーリーと、決して監督の作品にも負けないくらいのたっぷりのユーモアが散りばめられたドタバタミステリー。
 旦那に殺されかけても只では死なず復讐を誓うバイタリティーのある妻、精力以外に何の取り得もないとことん懲りない男、十字架集めを趣味にする心優しい悪党、アナコンダを愛する刑事、一癖も二癖もある連中がさまざまに絡み合って物語は転がってゆく。
 しかしだからと言って、決して底抜け脱線ゲームだけでは終わりません、ハンカチのご用意もお忘れなく。

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  三浦 英崇
 
評価:★★★★☆
 復讐譚ってのは、『モンテ・クリスト伯』以来のエンターテインメントの伝統的ジャンルですし、面白くならない訳がないです。ことに、復讐を仕掛ける側の知的能力が極めて高い場合には。
 夫に船から投げ落とされて、九死に一生を得たヒロイン・ジョーイ。彼女を拾い上げてくれた世捨て人・ミックとともに、なぜ自分が殺されなければならなかったのか、を探りつつ、夫への復讐を誓う訳ですが……
 この夫・チャズのクズっぷりが、いっそ痛快なくらいで。ええと、こういう完璧超人みたいな女性に限って、どうしてこう、ダメ人間をパートナーに選んじゃいがちなんだろう、と思うし。
 復讐するにも値しないんじゃないか、って疑問が湧きそうですが。そんな疑問を払拭してくれるのが、チャズの動機。確かに直接的な動機は、本当にしょーもないのですが、背後により深刻な社会問題を絡ませることで、ただの復讐譚のレベルにとどまらない作品になっていると思います。

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  横山 直子
 
評価:★★★☆☆
「何がほしいんだ」そう聞かれて、
「償いだ」「それに、けじめ」「あとは心の平和かしら」と二人は答えた。
この二人の男女とは、夫に殺されかかった女性と、その女性が夫に復讐する手助けをする男性。
ひょんなことから出会ったこの二人だが、「復讐はお好き?」とばかりにあらゆる復讐方法を考え出し、なとも手のこんだ復讐劇をやってのける。
よくぞこれだけ大芝居が打てるものだと私も思った。
そして前出の質問である。これだけの大芝居を打って何がほしいの?
償い、けじめ、そして心の平和。
心の平和、これは大事と大いに納得した。

とにもかくにも、よくぞこんなにひどい男がいたもんだ!とびっくり仰天!
なんと船の上から妻を突き落として、のうのうとしているのだ。
だからこてんぱんに痛めつけられる姿を見ても同情はしない。当然のむくいぞよ。
痛快ドタバタコメディー。
セットがかなり大がかりとなるのを承知でこれを吉本新喜劇で、ぜひ見てみたい!

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