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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年9月の課題図書ランキング

雲の上の青い空
雲の上の青い空
青井 夏海(著)
【PHP研究所】
定価1470円(税込)
2007年7月
ISBN-9784569692906
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  小松 むつみ
 
評価:★★★★☆
 宅配ドライバー・寺坂が遭遇する5つの物語。
 北村元祖に続けとばかりに、日常の謎を描くミステリーが随分と書かれるようになったが、これもそのひとつ。日常の謎であるから、そのミステリー性もさることながら、探偵役の立ち居地や、視点の新鮮さが問われる。寺坂は、今は宅配ドライバーだが、かつては探偵だった。推理力の後ろ盾のための設定かもしれないが、それが彼の雰囲気や人となりを描くのに、いい効果を上げている。また、かつての仲間に関わる物語も用意され、さらにキャラクターに奥行きがでている。
ドライバー探偵・寺坂シリーズ第2作に期待!

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  川畑 詩子
 
評価:★★★☆☆
 日常の小さな事件や、周りの人の不可解な行動も、当事者同士が言葉を交わさないからこそのもの。お互いが話をすれば、自ずと解決するはず。全体がそんなメッセージを発しているようだ。そして、探偵役の脩二は、突破口を開く役割を常に果たしている。部外者でありながら、人間関係のこじれた箇所を発見し、当事者に気付かせる。口は悪いけれど、侠気があって機転も利く、頼りがいのある存在だ。だが、まだ理想をそのままキャラクターにしたように思えた。コンビニの前でカップラーメンをすすったり、定食屋でビールを飲んでいても、あまりリアリティーが感じられなかったのだ。
 せっかく魅力的な人なので、もっと色々と聞いてみたい。なんで探偵をやめたのか、なんで独身なのか。そして、脩二の一日を淡々と描いた一編なんかも読んでみたい。

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  神田 宏
 
評価:★★★★☆
 利己主義と他人を出し抜こうとする姦計に満ち満ちた世間に、まっとうな、がっぷり四つに組む正論を聞くとほっとする。スカッとする。そんな爽快感に満ちた連作ミステリ。主人公はもと私立探偵、今は宅配ドライバーのしがない独身中年「脩二」。友人に頼まれ小学校の通学路でみどりのおばさんならず、みどりのおじさんをする羽目になった「脩二」。集団登校を一人遅れて歩く少女に気を留めるが、保護者の無理解から、なかなか理解されないその少女の遅れる理由を突き止めてゆく「脩二」。過去の銀幕スター女優の老後の孤独に満ちた生活に寄り添う「脩二」。小学校のウサギの謎の失踪から、かつてのいじめっ子の真の姿を呼び覚ます「脩二」。世間の色眼鏡でゆがんだ世界を、正しく透明な姿に写しかえる「脩二」は、そういった意味では心の探偵なのかもしれない。その実、宅配ドライバーのダルそうな中年おやじであるところが、大上段に構えず、まっとうなところで、共感がもてるのである。

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  福井 雅子
 
評価:★★☆☆☆
 元探偵の宅配便ドライバー寺坂脩二が、町内の「事件」の謎解きと解決に奔走するほのぼのとした物語。
 どこにでもある町の、日常の片隅に転がっていそうなささやかなできごとばかりだが、真っ直ぐに向き合おうとする寺坂の姿勢に引っ張られて退屈せずに読み進み、気がついたら読み終わっていた。この町に住み、この町を担当エリアとして配達に走り回る宅配便ドライバーを主人公としたことで、視線が一貫して町の内側の、それも小学生の背丈ぐらいの低い位置に固定され、それが子供やお年寄りをも包みこむ暖かい空気が生まれるベースになっているように感じられる。通り魔やら子供の誘拐やら住宅街といえども油断できない昨今、こんなにほんわかした人々は所詮夢でしかないかもしれないが、張り詰めた気持ちをほぐしたいときの読書にはおすすめだ。

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  小室 まどか
 
評価:★★★☆☆
 元私立探偵の宅急便ドライバー・脩二が、日常のなかで出会うささやかな謎やふとしたすれ違いが引き起こす事件を、やんわりと解きほぐしていく――。
 連作形式の短篇は、いずれも派手さはなく、謎や事件も当事者以外にとっては未解決のままでもよさそうなもので、意外などんでん返しもない。しかし、一篇一篇読むたびに、自分のなかのわだかまりも癒されていくような、ほっとあたたかい感覚に気づく。それは、さえない独身中年オトコでありながら、観察眼と行動力にすぐれ、ちょっとお人好しの脩二が、いつも渦中の「犯人」の気持ちに寄り添うことによって解決に向かうからだろうか。
 第一話と最終話に登場する、脩二の幼なじみ・是清と智の父子のまわりで起こる小学校がらみの事件も、子どもたちを取り巻くさまざまな矛盾がすくいあげられている点に好感が持てる。なんとなく疲れているとき、おすすめの一冊である。

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  磯部 智子
 
評価:★★☆☆☆
 感じの良い小説には違いないのだが……ゆるゆるした優しさに絡めとられ窒息しそうになる。いわゆる「日常の謎」を解く「ハートウォーミング・ミステリ」だが、今までも違う作家で似たものをいくつか読んだような気がする。本作の主人公は元探偵の宅配便ドライバーの寺坂、もちろんお約束通りに、欠点だらけだが人情と義侠心は人一倍あふれている。五話からなる短編集は、何れも人間同士相互理解への道は険しくとも、努力次第でなんとかなるさ的楽観主義に貫かれていて、血は流れないし人も死なない、怨念に苦しめられることもなく話が続く。宅配便ドライバーは、それだけで門戸を解放させる上手い設定だし、謎解きとなると、その仮そめの姿からひょっこり探偵が顔を出し、水戸黄門ばりの意外性で仕切ってみせる。しかし結局いつも最後に同じことを思う。この路線はまだ続くのかと。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★★☆
 独身中年宅配ドライバーが、仕事や日常生活の中に起きる小さな事件の謎を解く。このドライバー、元探偵なのだ。
 第一話の「みどりのおじさん」は子どももいないのに、友人にたのまれ、小学校PTAのにわか交通安全指導員“みどりのおじさん”になる話。そこで見たひっかかりが事のはじまり……。話の本筋ではないPTAの役割担当について、やりたがらない地域委員に立候補した親の「当番の公平さとは」など、単純なようで非常に複雑で底なし沼に陥りそうな事柄のウンチクもたっぷりにもりこまれ、細部まで読み込む楽しさがある。配達先で関わり合う謎の年配女性、元職場ゆかりの人物から頼まれた不可思議な依頼、配達した先が引きこもり青年で、なぜかその父親に頼まれごとをしてしまう。そして最終話は第一話と同じく学校を舞台に戻す。どの話もあったかい。ゆるゆるしたい時にオススメです。

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