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WEB本の雑誌今月の新刊採点【単行本班】2007年9月の課題図書ランキング

青年のための読書クラブ
青年のための読書クラブ
桜庭 一樹 (著)
【新潮社】 
定価1470円(税込)
2007年6月
ISBN-9784103049517
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  小松 むつみ
 
評価:★★★★☆
 採点員になって桜庭一樹のファンになった。
 どんなものでも、独自の空気を感じさせるものが私は好きだが、桜庭氏の作品にも、その空気がある。空気は目には見えないが、においがしたり、乾いていたり、ホコリっぽかったり、ひんやりしていたり、様々な感覚で感じることができる。
 本作の舞台は、桜の園とも言うべき名門女子高。その片隅でひっそりと活動を続ける「読書クラブ」に代々受け継がれきた「クラブ誌」。そこには、創立以来100年にわたる知る人ぞ知る事件の数々が記されていた。
 桜庭氏独特の、やや懐かしさが匂いたつようで、それでいて禍々しさも見え隠れする語り口で、甘やかでありながら、どこか残酷さも秘めた、思春期の少女たちの織り成す世界をねっとりと描き出す。特に女子高出身者には堪えられない一冊。

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  川畑 詩子
 
評価:★★★★☆
 名門女子校内の異端の集まり、読書クラブ。百年間に起きた珍事件の数々がいまひもとかれる。
「並み外れておおきな乳房」「ズベ公」「ドスドスと走り出した」……作家の、芝居がかった、時代がかった独特の言葉使いは癖になる。そして、その言葉使いでもって、美少女も醜女も等しく突き放して描く。「温かいまなざし」という代物とはフィットしない作風だ。 
 それでも、アウトローたちへの賛歌が感じられる。そして、登場人物の誰もが、実在感が薄くて、ある意味類型的なキャラクターなのに、ストーリーや主役のための装置になっていないのも魅力的だ。彼女たちの葛藤と誇りが愛おしい。
 たとえ部室は壊され、部員がいなくなっても、「いつの時代も、我々のような種類の者は存在する。」……私もこの、掃きだめのような、そして気骨溢れる読書クラブに入りたい!

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  神田 宏
 
評価:★★★★☆
 桜庭一樹は一級の歴史(大上段に構えるのではなく個人の生活史を通じて描く社会の世相といった意味での歴史)の語り手である。そして、その歴史は閉じられている、いや、静かに終焉を迎えている。そして歴史の主人公たちは、どれも「異形」者たちである。『少女七竃と七人の可愛そうな大人』のはかない青春のきらめきと主人公七竃の「うつくしいかんばせ」という「異形」。『赤朽葉家の伝説』の高炉に象徴される高度経済成長期の日本と赤朽葉万葉の千里眼という「異形」。それら、桜庭の「歴史語り」の舞台は、今回は名門お嬢様学校「聖マリアナ学園」。そして「異形」の主人公はその優雅なお嬢様学校にあって忘れられたかのように影のようにひっそりと存在する「読書クラブ」の面々。きらびやかな女子高にあって余りに地味な「かんばせ」の生徒たちによって語られる、「読書クラブ」の学園創設期からその終焉までの歴史は、時代時代の世相をまといながらも、世間から遊離した学園の女子高ならではの少女たちの残酷さと独特の美意識の昇華を描いている。きらびやかな都会にある女子高を「表の歴史」というのなら「異形」の面々は「裏の歴史」といったものを客観的につづることに成功しているのだ。脈々と次に受け継がれてゆく「クラブ誌」を通じて(1968年の「クラブ誌」から2019年の「クラブ誌」の5冊がそれぞれ1章から5章になぞらえてある)、読者は、学園創設者の「マリアナ」の謎に、そして、緩やかに終焉を迎える「女の園」の幻のようなきらめきを知ることになるのだ。「異形」な者のみがアクセスできる歴史の断片。桜庭一樹の真骨頂が遺憾なく発揮された一遍である。

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  福井 雅子
 
評価:★★★★☆
 お嬢様学校である聖マリアナ学園の、異端者が集まる場所「読書クラブ」。そこに代々受け継がれてきた秘密のクラブ誌には、学園内で起きた数々の珍事件が記録されてきた。
 読書クラブのクラブ誌の形で、お嬢様学校で起きる「事件」を描いた小説だが、この作品もまた桜庭ワールド全開である! 桜庭作品には、原色でもパステルカラーでもモノトーンでもない独特の色調がある。強いて言葉で表すなら「渋めで落ち着きはあるが暗くはない上品な色」だろうか。それは、レトロな雰囲気を醸し出す文体や深みのある人物描写、その背景に書き込まれた現代という時代が交じり合ってにじみ出る色なのだと思うが、この作品はその色が特に鮮明に感じられた。ナンセンスだけれど惹きつけられるストーリー、ありえない話なのにしっかりした時代背景──そして今回もまた心憎いまでに完璧にひとつの世界を作り上げている。装丁の美しさも手伝って、中をそうっと覗いたらそこにはもうひとつの世界が──というファンタジーの小箱のような印象の本である。

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  小室 まどか
 
評価:★★★☆☆
 聖マリアナ女学園に佇む赤レンガの館のなかでひっそりと息づいている読書クラブは、いわゆるお嬢様学校では浮いた存在の「ぼく」たちにとって唯一の憩いの場所だった――。
 聖マリアナの失踪にまつわる事件から女の園の“崩壊”まで、パリから東京の山の手へ、時を変え、場所を変えて、密かに読書部が関与した学園の事件を、脇役を果たしたその時々の一部員が記したノートという体裁をとる本書は、思春期の少女を主人公におき語り手を次々に交代させるという従来のパターンを踏襲してはいるものの、少女同士の集団のなかで形成される特異な憧れの対象としての「青年」を描き出し、新境地を拓いている。あそこまでいかないが、さして変わらぬ環境で思春期を送った身としては、滑稽なまでの熱狂の波、痛々しい身の置き所のなさ、密かなたくらみの愉しみなどかすかに覚えのある気持ちが甦り、懐かしかった。私もおばあさんになっても集える喫茶店がほしいものだ(笑)。

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  磯部 智子
 
評価:★★★☆☆
 もしこの小説だけしか、桜庭作品を読んでいなかったら、★の数はもっと少ない。あの重厚な女三代記『赤朽葉家の伝説』の中に紛れ込ませた軽妙さが、この物語の中では移ろいやすさの中に少女たちの真実の重みを潜ませ(たのか?)、その結果、逆は難しいのだろうか、ただ重量感=現実味を失っただけで、なにか全て上滑りに感じた。東京・山の手の聖マリアナ学園、女子校経験の無い私だが、懐かしさがこみ上げる少女期の熱に浮かされたようなあの不思議な感じの中に放り込まれ、快適な苦痛をイメージとしてのみ味わう。恐らく作家はこの世界を外側から描いているのだと思う。創造した舞台の中には、はめ込みの「少女たち」がいるが、彼女たちはお嬢様として、描かれた以上の実体がないように感じる。最終章はツワモノどもの夢のあと、青い果実は熟れることなくそのまま腐っていく、それは少女たちの未来を写す一つの実態なので◎。戯画化された漫画チックな設定、今回はどうも現実との配合がよくなかったと思うが、次作にはやはり期待してしまう。

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  林 あゆ美
 
評価:★★★☆☆
 本好きだとそそられるタイトルである。青年のための読書クラブ、いったいどんな本を読むんだろうと期待し、装幀のレトロな切り絵風の絵、カバーをはずした表紙も、舞台となる聖マリアナ学園の入学案内(抄録)がリアリティに満ちている。
 古風な文体がよくマッチした学園物語。読書クラブでおこった各々の事件を部員がクラブ誌に残していく形をとっている。第一章では「烏丸紅子恋愛事件」として、3歳からエスカレーター式に通っている学園に、紅子は家庭の事情で高等部からの入学となった。長身で妖しげな魅力をもつ紅子は、卒業までに学園を支配しようともくろんでいたアザミにとって願ってもない人材だった。ここから学園での勢力争い的構図が展開され、紅子の存在感がいかんなく発揮される。この章の冒頭で引用されているのは、『シラノ・ド・ベルジュラック』。全五章で構成された本書は連続短篇集のような趣だが、それぞれ独立して読んでも楽しめる。きっと、個々の作品をゆっくり時間をおきながら読む方がいいのだろう。続けて読むと、文体のリズム感と共に、雰囲気の味付けが濃く感じてしまう。

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