WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2007年10月の課題図書>下久保玉美の書評
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ミステリーしてます!
とある人文科学的実験の被験者ということで集められた12人の男女を待ち受けるのはあまりにも不可解な状況で……。いやあ、その状況が「クローズドサークル」なんですよね〜。期待通りばったばったと連続殺人が起きるし、生存者たちはじりじりと追い詰められるし、それに謎解き。最近ではなかなかお目にかかれない設定なので心躍ります。
しかしながら読後感がすっきりしないんです。この設定ですっきりさせろ、という方が無茶かもしれませんがやはりもう少し説明が欲しいところ。
あと、最後まで読んでもう一度タイトル(英語の方)を見ると納得。意味はご自身でお調べください。
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「禁忌」がキーワードなのかしら?
全編通じて「禁忌」に関する小説なのかと思いながら読んでいましたがそういうことではないみたい。最後の短編も何かしらの「禁忌」があればより締まった短編集になっていたのでは。
5編のうち面白いと思ったのは表題作よりも4編目の「万華鏡スケッチ」。近親相姦行為中の子どもたちから百貨店の化粧品売り場、ラテン語のクラス、等々と風景も変われば人物も変わり、それらがカシャカシャと回すたびに見える絵が変わる万華鏡のようで面白かったです。
表題作は「おれ」が「おれ」が「おれ」が……、で正直飽きました。
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某週刊誌情報によると、自転車は独身男性に人気らしい。なぜなら何もかも自分でコントロールできるから。女と付き合うのは大変だからねえ。しかし、自転車レースになるととんと聞かない。「ツール・ド・フランス」ですらNHKのスポーツ番組ぐらいでしかお目にかかれないくらい遠い存在だ。本書はそんな自転車レース界を舞台にしている。
タイトルの「サクリファイス」は「犠牲」。主人公は自転車ロードレースチームのエースの風除けとして働く新米レーサーで、レースにおいてはエースの、チームの成績を伸ばすために自分の成績を「犠牲」にしてレースを走る。しかし、そのレースの最中に大事故が起きてしまう。事故はなぜ起きたのか、これがこの作品のミステリー部分。
チクンとした棘が心に残りながらも、自転車レースに対する登場人物たちの様々な愛情やレースの躍動感がすぐそこにあるような感覚がするのはこの小説のすごいところ。自転車レースが見たくなった。
エンタメよりの自転車レース小説では『銀輪の覇者』:斎藤純(ハヤカワ文庫JA)も。もっと自転車レース!という方はどうぞ。
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描写に関して言えば風景にしても人物にしても緻密で叙情を感じられます。少年の日の思い出、妻との思い出、そして現在が豊富な語彙で表現されています。この表現を眺めていると詩的でちょっとセンチメンタルな気持ちになるのではないでしょうか。それがこの小説の良さだと思います。
でもねえ、内容はおっさんの回想録なんですよね。この小説を読んでいると自分はインテリだと思っている人が夜、バーみたいな所で過去を思い出してうっとりしている情景というのが思い浮かびます。う〜ん、こちらとしては感情の排泄物を見せられている気分。はっきり言ってつまらないです。
もしかすると、モノクロ映像の無声映画にすればまた別の意味で面白いのかもしれないですね。
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読みながら、大切な人の死をどのように受け入れるか、について考えさせられました。本書を読んだ同時期にイギリスである姉妹が母親の死を信じることができず、その死体を約10年間保管していたという話を知りました。このイギリスの姉妹と本書の夫婦は「死の受け入れ方」における別々の側面ではないかと思います。
最愛の娘の失踪とほぼ確実な死という現実にどう向き合うか、ということに対して夫婦で考え方が違ってしまうのは仕方のないことかもしれません。しかしながらちょっと夫さん、弱すぎはしませんか? 弱さは人間の一部ですがその弱さに逃げ込んではいけないでしょう。
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表紙やタイトルからしてもう少しライトノベル的な内容を想像していたのですが割りと人がパタパタ死んでしまうやや重めの内容だったのでギャップに驚きました。
天才詐欺師ロック・ラモーラが仕掛ける貴族相手の詐欺ゲームと、同時期に起こる街の闇世界の争いが絡み合うって話です。その合間合間に補足的な昔の話、ロックの見習いの頃の話、が入るんですけどこの構造が始めの頃よくわからなくて混乱しました。もう少しわかりやすい組み方なら読みやすいだろうに。あと、天才詐欺師という割にはロックが天才に見えない……。
しかし、錬金術といった魔法世界と中世イタリア世界がミックスされた不思議な街という舞台設定が素敵です。ファンタジーが好きな人にはいいかも。
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実は『帝都物語』も『帝都幻談』も読んだことがなくて。あと映画も見てません。だから魔人加藤という人が怨霊を出して帝都転覆〜とか加藤の役は嶋田久作だなという断片的な知識はあるのですが実際、加藤が何者なのかよく知らないし、周辺の事情もよくわかりません。もしそれらを読んでいたら本書はもっと面白かったかも。その辺で読者が限定されてしまうのでは。
しかし、陰陽師とか伝説の神器みたいなネタは大好きなのでその辺は楽しく読めました。でも、本書に出てくる尺による国生みの方法って岡野玲子の『陰陽師』とかにも出てて、割と知っているものが多かったので目新しさには欠けるように思いました。もう少しびっくりするようなネタがあればなお面白かったのに。
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