『インシテミル』

インシテミル
  1. インシテミル
  2. ピカルディーの三度
  3. サクリファイス
  4. 海に帰る日
  5. すべては消えゆくのだから
  6. ロック・ラモーラの優雅なたくらみ
  7. 新帝都物語 維新国生み篇
佐々木克雄

評価:星3つ

 冒頭、物語の舞台である「暗鬼館」の見取図を見て、「これは綾辻行人『十角館の殺人』のオマージュかな?」とミステリファンなら気づくはず。
 緻密なルールと個々の武器を与えられた12人の男女が、時給「11万2千円」のために閉ざされた空間に集まり、殺すか殺されるかの七日間を過ごす。
「そんな設定、現実的にあり得ないだろうが!」とツッコミを入れてしまうと、この世界は音を立てて崩れてしまう。なので、フィクションはフィクションとして読み進めていると、単なる謎解きを超えた、読書ならではの醍醐味を堪能できる。
 疑心暗鬼の空間で互いの行動を読もうとする心理戦、保身や猜疑心に身を落としていく醜い姿は現実世界と変わらないのでは。そんな中で冷静な主人公がカチッと推理していく後半はストーリーが加速。キレのあるエンターテインメントに釘付けになった。

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下久保玉美

評価:星4つ

 ミステリーしてます!
 とある人文科学的実験の被験者ということで集められた12人の男女を待ち受けるのはあまりにも不可解な状況で……。いやあ、その状況が「クローズドサークル」なんですよね〜。期待通りばったばったと連続殺人が起きるし、生存者たちはじりじりと追い詰められるし、それに謎解き。最近ではなかなかお目にかかれない設定なので心躍ります。
 しかしながら読後感がすっきりしないんです。この設定ですっきりさせろ、という方が無茶かもしれませんがやはりもう少し説明が欲しいところ。
 あと、最後まで読んでもう一度タイトル(英語の方)を見ると納得。意味はご自身でお調べください。

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増住雄大

評価:星4つ

 綾辻行人「十角館の殺人」を思春期に読んだある人は「これは私たちの世代のためのミステリーだ」と思ったらしい。
 それから二十年。米澤穂信は「今」の時代のミステリーを紡いだ。
「本格ミステリ」という言葉に、どうも「一世代前」と感じてしまう若い読者も、これは「今」だ、と感じられるミステリーだと思う。もちろん過去のミステリーと決別しているわけではなく、むしろミステリへの愛に満ちた逸品。だって「クローズド・サークル」っすよ。「館モノ」ですよ。そのうえ凶器は……
 米澤穂信は「人が死なない」ミステリーで有名だけど、ファンの中には「人が死ぬ」ミステリーも読みたいな、と思っていた人はいるはずで、その人たちの期待に真っ向から応える一冊でもある。書きようによっては重くなる素材を、あえて軽い感じで書いているのも◎。
 内容と関係ない小さな喜びを一つ。
 私と下の名前が一緒の登場人物がいる!(めったにいないので……)

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松井ゆかり

評価:星5つ

 今年いちばん「続きが気になって他のことが手につかなくなる」本だった。炊事をしてても掃除をしてても上の空。息子たちに話しかけられても生返事。このような本に出会えるのは本読み冥利に尽きることだが、家庭の平和は激しく乱される。要注意。
 今までもすごいとは思っていたが、まだまだ米澤穂信という作家の真価をわかっていなかったようだ。ここまでハードなものもいけるとは! 外界への連絡手段をたたれた12名の男女。ひとり、またひとりと、異なる手段によって殺害されていく……。ミステリーが好きだというと「人が殺される話なんて」と眉をひそめられることがあるけど、別に殺人が起こればいいと思っているわけではないのだ。謎が明らかになって目の前の霧が晴れる感じ、「ああ、こういうことだったんだ!」と目が覚めるような思い、そういったものを求めてミステリーを読む。その醍醐味が十分に味わえる一冊。さあ、あなたも暗鬼館へ急ぐべし!

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望月香子

評価:星4つ

 時給11万2000円のアルバイトを求人誌で見つけた男子学生と、その求人誌を通して書店で知り合いになった美女を含め、審査に通った12人が、謎のアルバイトに挑むミステリー。アルバイト期間は7日間で1日中、24時間時給が発生。まるまる7日間拘束されるアルバイトって? その時給の高さが、なにより怖い…。と読み出しからかなりはらはらしてしまいました。7日後には、アルバイトとは思えないような莫大なお金が手に入るはずだけれど、そんなに上手い話が身の安全を保証するわけがない…。自分が参加者の1人であるかのように緊張して読んでしまいました。殺人ゲームを開催させるような、謎の雇い主の心理について、もう少し登場人物からの推測の言葉があると、さらに面白かったように思います。参加者の中で一番多くの収入を手にした、予想できないような事情もちの女性を主人公にした番外編を読んでみたいです。

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