『すべては消えゆくのだから』

すべては消えゆくのだから
  • ローランス・タルデュー(著)
  • 早川書房
  • 税込1,575円
  • 2007年8月
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  1. インシテミル
  2. ピカルディーの三度
  3. サクリファイス
  4. 海に帰る日
  5. すべては消えゆくのだから
  6. ロック・ラモーラの優雅なたくらみ
  7. 新帝都物語 維新国生み篇
佐々木克雄

評価:星3つ

 「涙がこぼれて止まらない」なんて帯で謳っているものだから、正直身構えてしまう。何せこちとら映画の予告編でもウルッときてしまうくらい、涙腺がユルいのだから。
 本文150ページにも満たない薄さなのに、シンプルなストーリーなのに、詰め込まれているものはかなり濃くて、重厚なテーマが盛り込まれた本だった。泣かなかったけど。
 死に瀕している女に再会する男の葛藤、最愛の娘を失ったことで壊れていった二人の過去と悔恨、そして再生……。そのまんまフランス映画として、1シーン1シーンが(女の日記による回想を含め)浮かび上がってくるようだった。死にゆく女の願いで、詩を読み聞かせる場面なんてゾゾゾとしたものが背中から湧き上がったくらいだ。
 こんな感覚、日本の小説では体験できないだろうな、たぶん。

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下久保玉美

評価:星2つ

 読みながら、大切な人の死をどのように受け入れるか、について考えさせられました。本書を読んだ同時期にイギリスである姉妹が母親の死を信じることができず、その死体を約10年間保管していたという話を知りました。このイギリスの姉妹と本書の夫婦は「死の受け入れ方」における別々の側面ではないかと思います。
 最愛の娘の失踪とほぼ確実な死という現実にどう向き合うか、ということに対して夫婦で考え方が違ってしまうのは仕方のないことかもしれません。しかしながらちょっと夫さん、弱すぎはしませんか? 弱さは人間の一部ですがその弱さに逃げ込んではいけないでしょう。

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増住雄大

評価:星2つ

 「涙がこぼれて止まらない」「号泣必至」「フランスで話題の恋愛小説」すか。そ、そんなにアオられると、こちらは構えてしまいますぜ。だって上記三つのアオリ文、フランスという点を除けば、最近書店の一画を賑わし、ベストセラーランキング常連の「ケータイ小説」たちと同じじゃありませんこと? 帯や裏表紙であらすじがバッチリ紹介されているのを見て更に萎え。もしやこの本って「普段あんまり小説を読まない人向け」なんじゃなかろーか。あれ、けどでも「フランスで数々の文学賞を受賞した」って書いてあるな。じゃあやっぱりすごいのか?
 という感じで読み始める。大体、俺は泣ける小説って好きじゃないんだよねー。泣かせればいいっていう……あ、ちょ、ごめん。あれ、涙が……。
 ……ええ、泣きましたよ。仕方ないだろ、涙腺ゆるいんだから。ただ、巷に氾濫する「泣ける小説」と一線を画するとまでは思わず。読みが浅いのかな。
 著者は現役の舞台女優だそうで。本谷有希子みたいなもんか? 小説の雰囲気はだいぶ違うが。

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松井ゆかり

評価:星3つ

 著者はこの小説を主人公ヴァンサンとジュヌヴィエーヴの恋愛物語として書いたのかもしれないが、個人的には我が子が行方不明となって途方に暮れる両親の話という側面がより胸に迫った。
 私は恋愛に関してほとんど古くさいといえる少女趣味的な幻想を抱いている。すなわち“愛しあっているのに別れるなんてありえない”というものだ。もちろん実際問題としてはどんなに愛情があろうと結ばれない場合もあるだろう。政略結婚で親の会社を立て直さないといけないとか、好きな相手が近親者だったとか。しかしながらこのふたりは特に障害もなく結ばれ、そのうえ娘が謎の失踪を遂げているのだ。ふたりで一丸となってこの苦しみを乗り越えなければならないのではないか。しかし、この小説を読んで少し考えを改めた。もちろんそういった悲劇によってより強く結びつけられる夫婦もいるだろうが、どうしようもなく損なわれてしまう夫婦もいるだろう。しかし、長い孤独の後にヴァンサンたちもお互いの中に赦しを見出す。かつて存在した愛情によって人がどれほど支えられるか、胸に迫る一冊だった。

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望月香子

評価:星2つ

 離婚前、夫婦に起きた事件に、まず心が苦しくなります。なにか決定的なことが起こったときに、パートナーとどういう関係になるか、ということが大事だとはよく言われますが、この夫婦は、少しのタイミングを逃し、相手にかけそびれてしまった言葉から破綻してゆくという様が描かれているのがつらかったです。離婚後に、余命わずかな元妻からの手紙に、会いに行く主人公ですが、閉じ込めていた記憶を思い出してゆく様がつらいです。かけがえのない大事なものを失っても、もがいても七転八倒しても生き続ける意味を、描いてもらいたかったテーマです。けれど、それは最愛の娘の失踪という事実の前には、不可能なのかもしれません。やり場のない悲しみを感じる読後感でした。

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