『インシテミル』

  • インシテミル
  • 米沢穂信 (著)
  • 文芸春秋
  • 税込1,680円
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評価:星4つ

 時給11万2000円のアルバイトを求人誌で見つけた男子学生と、その求人誌を通して書店で知り合いになった美女を含め、審査に通った12人が、謎のアルバイトに挑むミステリー。アルバイト期間は7日間で1日中、24時間時給が発生。まるまる7日間拘束されるアルバイトって? その時給の高さが、なにより怖い…。と読み出しからかなりはらはらしてしまいました。7日後には、アルバイトとは思えないような莫大なお金が手に入るはずだけれど、そんなに上手い話が身の安全を保証するわけがない…。自分が参加者の1人であるかのように緊張して読んでしまいました。殺人ゲームを開催させるような、謎の雇い主の心理について、もう少し登場人物からの推測の言葉があると、さらに面白かったように思います。参加者の中で一番多くの収入を手にした、予想できないような事情もちの女性を主人公にした番外編を読んでみたいです。

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『ピカルディーの三度』

  • ピカルディーの三度
  • 鹿島田真希 (著)
  • 講談社
  • 税込 1,575円
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評価:星4つ

 雑に生きてしまっていたら気付かない、細い細い感情の綿毛のようなものを文学にした5つの物語。どの物語も、瞬間瞬間を生きる主人公たちが、悲しく切なく思えるけれど、どこか羨ましくも感じます。人生は、一瞬の積み重ねなのだと、改めて感じます。刹那的とは少し違う、今しか生きられない人間の性が描かれているように思いました。刺々しく荒々しく、それなのに掴むことができない糸のように繊細な主人公たちから、枠にはまる感情などないと感じます。純粋さと狂気を持ち合わせている文章に、最初は違和感を感じるかもしれませんが、次第に、どこか身体の隅のほうが溶け込む反応をしてきます。
読後に、もっと、丁寧に生きてゆきたいな、と思いました。特に好きな作品は、3つめの「俗悪なホテル」です。

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『サクリファイス』

  • サクリファイス
  • 近藤史恵 (著)
  • 新潮社
  • 税込1,575円
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評価:星3つ

 自分自身が勝利を得られなくても、同じチームの誰かのために役立つことだけを考え打ち込む競技というものを、はじめて知りました。ロードレースというその競技が持つ残酷さ、すごさを突然に突きつけられたように感じました。主人公が、チームのエースを勝たせるためにのみ走り続けることが、魅力的でたまりません。主人公の前身である陸上競技の選手時代に感じていた、トップになることへの違和感というのは、主人公とこの物語の大きな魅力をつくるひとつだと思います。物語の後半、ある事件についての真相が明らかになってゆくそのくだりは、驚きと悲しさでいっぱいですが、読後はなぜか、光の筋が見える気分です。それは、主人公の謙虚だけれども、芯がつよく前向きな人間性が描かれているからだと思います。悲しい結末だけれど、同時に前向きに進もうというパワーをもらえます。

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『海に帰る日』

  • 海に帰る日
  • ジョン・バンヴィル (著)
  • 新潮社
  • 税込1,995円
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評価:星3つ

 愛する妻を失った老美術史家が、記憶に呼び寄せられるようにして、小さな海辺の町へ。物語全体が、透明なヴェールに包まれているようです。触ったら壊れてしまいそうな脆さと繊細さを感じます。それが悲しみをより一層、迫ったもの、隣に横たわるものに感じさせます。主人公が自らに問いかける言葉には、一生解けない問題が潜まれているように思います。過去が記憶となるたびに、人生への感じ方は変化しつづけるのではないかと感じます。
時間が積み重なり年老いてゆくときに、過去に引き寄せられるというのは、何かを確かめたいためなのか、人生とは儚すぎるものだからなのかを考えさせられます。

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『すべては消えゆくのだから』

  • すべては消えゆくのだから
  • ローランス・タルデュー(著)
  • 早川書房
  • 税込1,575円
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評価:星2つ

 離婚前、夫婦に起きた事件に、まず心が苦しくなります。なにか決定的なことが起こったときに、パートナーとどういう関係になるか、ということが大事だとはよく言われますが、この夫婦は、少しのタイミングを逃し、相手にかけそびれてしまった言葉から破綻してゆくという様が描かれているのがつらかったです。離婚後に、余命わずかな元妻からの手紙に、会いに行く主人公ですが、閉じ込めていた記憶を思い出してゆく様がつらいです。かけがえのない大事なものを失っても、もがいても七転八倒しても生き続ける意味を、描いてもらいたかったテーマです。けれど、それは最愛の娘の失踪という事実の前には、不可能なのかもしれません。やり場のない悲しみを感じる読後感でした。

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『ロック・ラモーラの優雅なたくらみ』

  • ロック・ラモーラの優雅なたくらみ
  • スコット・リンチ(著)
  • 早川書房
  • 税込 2,415円
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評価:星2つ

 美しい水の都カモールが舞台の長編ファンタジィ。表の政治を司る公爵と、裏の社会をしきる人物がいる、という設定が面白く好きです。詐欺主集団が暗躍するというストーリーと繰り返される殺人という内容がこの物語だと非現実的で、シンプルにエンターテイメントとして楽しめました。登場人物もかなり多いですが、それぞれに個性があり、それも楽しめます。気分を切り替えたいときに、お薦めです。
私は、現実として没頭できる型のほうが好きなので、我儘を言うと少し物足りなかったです。

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『新帝都物語 維新国生み篇』

  • 新帝都物語 維新国生み篇
  • 荒俣宏(著)
  • 角川書店
  • 税込2,520円
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評価:星3つ

 会津若松の古寺の寺宝である物差「瑠璃尺」は、古から伝わる「国生み」のための伝説の神器。その「瑠璃尺」を使い、新たな幕府が…。新撰組の土方歳三も登場し、繰り広げられる幕末の日本を舞台にした物語。妖術を操る土方歳三の敵・加藤重兵衛保憲など、設定と物語の壮大さ、それだけでなんだか爽快感を感じてしまいます。
 妖術の魅力を練りこんで、幕末の争いを描いたこの物語は、まるで映画を観ているように映像が頭の中に浮かんできてしまうほど。726ページという厚さなのに、一気に読んでしまいました。ぜひ、映画化をして欲しいです!

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望月香子

望月香子(もちづき きょうこ)

 1981年生まれ。一人前のライターを目指し、奮闘中です。静岡県出身、今は東京都豊島区在住です。好きな本のジャンルは、小説、書評、インタビュー、エッセイ。
 好きな作家は、山田詠美、小池真理子、花村萬月、桐野夏生、三島由紀夫、斉藤美奈子、本橋信宏など。忘れられない本はパール・バックの『大地』。チャレンジしたい本は九鬼周造の『「いき」の構造』。よく行く書店さんは、芳林堂高田馬場店、あおい書店高田馬場店、新宿紀伊國屋です。のめりこんでしまうような小説に出会い、それを読み途中の期間、その物語の主人公のような気分で生きてしまうという、ちょっと行き過ぎな没頭癖があります。

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