WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2007年11月の課題図書>望月香子の書評
評価:
天狗、狸、半天狗、半人間が織りなす愛憎(?)物語。かつて栄光の日々を過ごした天狗は、今は赤玉ポートワインばかりを舐め過ごしているので「赤玉先生」と渾名がついていたり、なんだか天狗の世界も狸の世界も人間の世界もいっしょくたになってしまいそう……。
しかし当然、天狗や狸の世界は人間とは違って、ページをめくるたびに現れる舞台に興味しんしんになっちゃいます。読みどころのひとつである主人公の狸の一家の結束には、心が温まります。父の死因は、狸鍋にされて食べられてしまったこと、なんていうと最初は肩の力が抜けそうになってましたが、だんだんと有頂天家族ワールドにはまってしまいます。
ほのぼの度は、映画『三丁目の夕日』に匹敵するかも!
評価:
舞踏家の父と二人暮らしをする12歳の少女の物語。舞踏に対する父と少女との言葉のやりとりは、ほのぼのとしているはずなのに、底なしの沼を淵から覗いているような、どうしようもない絶望を感じさせます。その穏やかなのに、どうしてか内臓が熱くなるような哀しさが物語全体に流れているように感じました。
世間一般的な価値観とは違う部分で生きている父とその仲間と接している少女の日常が、みずみずしく止まらない川の流れのようです。少女特有の感性が新鮮に描かれていますが、そこには人間の普遍的な部分が潜んでいるように思います。
物語が終わりに近づくころに少女に起こった悲劇を、少女がそれ以降の人生でどうやって乗り越えていくのかが描かれている物語の続きを読みたいと思います。
評価:
どうして、こんなことになってしまうの! と読みながら「あ〜」と身もだえしてしまうようなアンチハッピーなストーリー。人生の歯車が外れる瞬間というのはあるのだな、と怖くなります。読み終わった後にもう一度読み返し、「ここでこうしなかったら、よかったのに…」と勝手に振り返って、物語の登場人物に伝えたいような気分にさえなってしまいました。11の短編集ですが、かなり感情移入をしてしまいます。
どうにもならないような悲惨な事実を、救いが物語を展開するのではなく、事実のみがただただ黒く横たわっているような短編集に、なんだかどんより…。と思っていましたが、予想外の真実にはっとさせられ続け、のめり込むように読み進めてしまう面白さは、さすがです。
評価:
13歳の少女が主人公の「冒険小説」。
学校という戦場を、悩み考え進んでいく少女が愛おしくなります。少女の相棒の男の子が純粋でキュートで、二人のやりとりには心がほかほかします。少女が、ひとりで歩む過程には、様々な問題がでてくるのですが、少女の逞しさにはほれぼれしちゃいます。綺麗な時間というのは、人間の心持ち次第でつくりだせるのだなぁと感じます。
そして、少女を育てるおばさまたちが、クールです。
評価:
待ってました! &待っていてよかったぁ。
犬を好きなあまりに自らも犬になりたいと願う自称「種同一障害」の30歳すぎの女性。その主人公が犬になる! というのが物語のピークかと思っていたら大間違いでした。かなり複雑な家庭事情をもつ30歳すぎの女性の飼い犬となった主人公が、犬だからこそ見える飼い主の生活…。
人間が生きると同時に発する生臭さが描かれていて、それは背筋に快感と不快感の混じった奇妙な感情を這わせます。そのぞわぞわとしたものが、物語の土台に敷かれていて、登場人物や事件に向かってのバネとなっています。
主人公とバーの店主のやりとりが、かなりのスパイスです。
評価:
犬が登場する14の短編集。
障害がある犬や人の登場の多さに、最初は驚きました。
自分の周りが世界の全て、といった姿勢は、「社会性に欠けている」とか「視野が狭すぎる」という感想を持っていました。この物語の登場人物は、自らと周りの人々との世界で生きていくのだ、という静かな意志がある人々のように感じました。目の前のことを淡々と受け入れている登場人物に、次第に好意を持つようになっていきました。
「障害」という言葉は、大多数の人々と違う状態であることから生まれた言葉であるならば、この物語を読むと、それに違和感を感じます。
自分を自分として生きていく。それだけだ。というメッセージを感じます。
評価:
15の物語からなる短編ミステリ。
殺人依頼や殺し屋などの表の世界ではありえないストーリーが気持ちよいほど軽快に描かれています。日本人にはありえなさそうなユーモアが、物語の雰囲気を作っています。
深夜に放送されている映画のようなイメージで読みました。
こういう裏社会的な話は大好きなのですが、もっとギドギドとした人間くささがしたたるような雰囲気の物語が好みなので、少し物足りなさを感じてしまいました。
しかし、読後感がさっぱりしているので、就寝前の読書に最適な一冊だと思います。
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