『あなたの呼吸が止まるまで』

あなたの呼吸が止まるまで
  • 島本 理生 (著)
  • 新潮社
  • 税込 1,575円
  • 2007年10月
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  1. 有頂天家族
  2. あなたの呼吸が止まるまで
  3. ハッピーエンドにさよならを
  4. 悦楽の園
  5. 犬身
  6. 世界の涯まで犬たちと
  7. ダイアルAを回せ
佐々木克雄

評価:星2つ

 感覚を共有する小説って、あると思う。本書がそうなのかなと。
 十二歳の少女が語る一人称の文体は、大人でも子供でもないファジーな感覚をそこかしこに醸しだす。読み手はいつの間にか彼女によりそって、そのガラス細工のように脆い心の揺れを、呼吸を合わせて見守っているのだ。
 ああ、こんな感覚なのかなと思う。特異な家庭環境、大人の世界を眺める視線、学校での孤独感に友人たちとの距離……どれをとっても瑞々しく、痛々しい彼女の言葉。そして(筋書きは予想できてしまったのだが)彼女が負ってしまった「傷」について、どう答を出すのかと固唾をのんでページをめくっていくと、そこに小さな、堅い決意を見ることになり、改めて少女の「感覚」に溜息をついてしまうのだ。
 話が閉じきっていない分、彼女のその後──続編があることを期待したい。

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下久保玉美

評価:星2つ

 これもまた1つの自己の確立についての小説だと思います。
 作家を夢見る少女にある日襲い掛かった辛い現実とその現実に押しつぶされないために選んだ復讐。割とそれまでのトラウマ克服型小説って、子ども時代にうけた心の傷に大人になっても苦しめられていて、なんとか頑張ってもがいているうちになんとかなったり、あるいはなんとかしてもらったというものが多くて正直辟易していました。しかし本編は子どもの頃にうけた傷に、仲のよい男の子に間接的に助けてもらいながらも立ち向かうという点が今までの小説と志向性が違っていて素敵。子どもであることを自覚しつつも、じゃあ子どもだから自分に身に襲い掛かる不幸を甘んじて受けなければいけないのかと闘う少女の姿っていいなあ。
 ただ、どうしても読んでると「これって作者の実体験?」と感じてしまうのがマズイのではないかと。闘う少女というモチーフがゴシップ的になってイヤだなと感じてしまいます。

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増住雄大

評価:星2つ

 十二歳がうまいなあ。実に十二歳っぽい。
 小説で描かれる十二歳ぐらいの年齢の登場人物って、やけに子供っぽいか大人っぽいかで、こういう風に、歳相応なバランスの悪さを持った、奥行きのある人物造型のキャラクターって、あんまり目にしない。まあ、世の中には実年齢より大人っぽい人も子供っぽい人もいるから一概に「これが正しい」とは言えないけれども、それでもこの小説の十二歳は、かろうじて十二歳の頃を記憶している私が納得できる十二歳だった。
 けどなー。どうにも手放しで「面白かった」と言えないんだよなあ、この小説。なんでだろ? うーむ。
 会話文は、概ね、上手い。だが、たま〜に、芝居がかった「そんな喋り方しないだろ」みたいな説明口調の科白が出てくる。それと、著者からキャラクターへ注がれる愛情がばらばらな感じ。面白くて魅力的な登場人物がいる一方、類型的で取ってつけたよう造型の登場人物もいる。このように、詰めの甘い感じがあるから、私は「面白かった」と言い切れないのだろうか? ……って、誰に問いかけているのだろうか。

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松井ゆかり

評価:星4つ

 帯に躍る「突然の暴力」「復讐」といった言葉を見て真っ先に思ったのは、「理生、さっそく夫の影響が創作活動にも現れたか!」ということであった(島本さんの夫は、「フリッカー式」でメフィスト賞を受賞し最近は純文学の書き手としても大活躍中の佐藤友哉氏)。まあさすがに今までの作風と著しくかけ離れたものにはなっていなかったが、それでもずいぶんハードな内容だなという印象。
 主人公朔は小学6年生。難易度はさまざまだろうが、小学生でも人間関係というのは難しいものだ。まして朔の周囲には、芸術家肌の父親やキャラが際立った同級生といった一般的なレベルよりも濃い人々がいる。苦労も多かろう。そんな中で朔に降りかかる「突然の暴力」。いかなる理由があったとしても大人が子どもをこのような形で損なうことはあってはならないのに。苦悩の末に彼女が放った「復讐」。よくこのような手段を思いついたと感心はするものの、苦みの残る結末である。人間は時にこんな代償を払って強さを得なければならないのだろうか。

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望月香子

評価:星3つ

 舞踏家の父と二人暮らしをする12歳の少女の物語。舞踏に対する父と少女との言葉のやりとりは、ほのぼのとしているはずなのに、底なしの沼を淵から覗いているような、どうしようもない絶望を感じさせます。その穏やかなのに、どうしてか内臓が熱くなるような哀しさが物語全体に流れているように感じました。
 世間一般的な価値観とは違う部分で生きている父とその仲間と接している少女の日常が、みずみずしく止まらない川の流れのようです。少女特有の感性が新鮮に描かれていますが、そこには人間の普遍的な部分が潜んでいるように思います。
 物語が終わりに近づくころに少女に起こった悲劇を、少女がそれ以降の人生でどうやって乗り越えていくのかが描かれている物語の続きを読みたいと思います。

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