WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2007年11月の課題図書>『ダイアルAを回せ』 ジャック・リッチー(著)
評価:
前作『10ドルだって大金だ』が「今月の新刊採点」で紹介されていて、面白そうだなと思って読んだら、面白かった──これが一年くらい前のこと。そして本作、面白い。
短編ミステリーの名手による珠玉の15作品は、どれもテンポ良く、あっさりとした仕上がりでお腹にもたれない読後感。ウラを返せば薄味だし腹にたまらないって文句もあるのだろうが、まあいいじゃない、小説なんだし、楽しめればってことですね。
後半にお馴染みの探偵カーデュラやターンバックル刑事が登場。予想していた謎解きとはまったく異なる肩すかし的な結末など、いい意味で読み手を裏切る手法は相変わらず。
それと、前作の時も思ったのだが、作者は二十年以上前に亡くなっているのに、こうして作品たちは色あせることなく今の時代の、海を越えた読者を楽しませているのだから、その普遍性は賞賛に値すると思うわけですよ。
評価:
1編1編短いのにオチもきちんとついていて面白いと思います。
シリーズになっている夜の探偵カーデュラ(彼の正体は前作を未読の人にはちょっとわかりにくいかも)や迷刑事ターンバックルもキャラクター小説としてとても楽しめます。ターンバックル刑事よ、もっと頑張れとエールを送りたいところですが頑張ったら面白くないですね。
他にも「正義の味方」は最後にエエッ!とさせられ、「動かぬ証拠」は心理戦にハラハラし、「フェアプレイ」はお互い様だと思い、「三階のクローゼット」は毛色が違うのか?と思いきやうまいこと落とす、とシリーズになっていない作品にも読み応えがありました。一番面白かったのは「いまから十分間」かな、と。爆弾らしきものを持ち歩くことで警察などを混乱させる男の行動がこんなところに繋がるなんて!とニヤリとさせられます。
でも、きっと次の日になったら忘れてしまうんだろうなあ…。夜の2時間ドラマみたいな雰囲気がどうしてもぬぐえないんです。
評価:
「ミステリ」という言葉が示す領域は実に幅広い。中には「これがミステリ?」というのもあって、え? じゃあエンターテインメント小説は全部「広義のミステリ」とかいうのに含まれちゃうわけ? なんて思ってしまう。
そういう「ミステリ的要素を含む」他ジャンル小説も、もちろん好きなんですよ。でもね。やっぱり「ミステリ」と言ったら、本来はこういうものでしょう!
刑事がいて、探偵がいて、殺し屋がいて、殺人が起きて。「ミステリ」というゲームを、最近開発された新アイテムや複雑な新ルールを用いず、一番オーソドックスなスタイルで楽しんでいるような感覚。どの小説もユーモアがあって、捻りが効いている。どれもこれも面白いなあ。実に面白い。
初出年を見てびっくり。15篇全てが、私が産まれる前に書かれた小説なのか! 芯がしっかりしている小説は、何年経っても面白いままなんだね。
同著者の他の本を買い求めたくなった。ていうか買います、はい。
評価:
こういうのが読みたかったんですよ! 最近はミステリーの定義が広くなって、前衛的なのや哲学的なのや下手をするとオチがはっきりしないのまで膨大な数の作品が氾濫する昨今、この短編集のようにきっちり落としてあるのはやはり読んだなという手応えがある。殺人者がまんまと逃げおおせたり多少得をしたりというアンチ勧善懲悪な部分があることには目をつぶろう。別に本の中のことなのだから。
解説によれば著者ジャック・リッチーの短編をもっとも多く買い上げたのは「ヒッチコック・マガジン」だそうだが、確かにあの巨匠が好みそうな作風!ノンシリーズももちろんおもしろいのだが、実はシリーズものが真骨頂かもと思うくらい。私立探偵カーデュラもキュートだが、ヘンリー・S・ターンバックル部長警部のシリーズがかなり気に入った。
ところで、著者はきっとブルネットですみれ色の瞳の女性が好きに違いないと予想。
評価:
15の物語からなる短編ミステリ。
殺人依頼や殺し屋などの表の世界ではありえないストーリーが気持ちよいほど軽快に描かれています。日本人にはありえなさそうなユーモアが、物語の雰囲気を作っています。
深夜に放送されている映画のようなイメージで読みました。
こういう裏社会的な話は大好きなのですが、もっとギドギドとした人間くささがしたたるような雰囲気の物語が好みなので、少し物足りなさを感じてしまいました。
しかし、読後感がさっぱりしているので、就寝前の読書に最適な一冊だと思います。
WEB本の雑誌>今月の新刊採点>【単行本班】2007年11月の課題図書>『ダイアルAを回せ』 ジャック・リッチー(著)